才能と努力と、それから努力
「もういい!私帰るから!」
そう言うと、環は踵を返し部屋を出ていってしまった。
「・・・帰っちゃったね」
「はぁ・・・どうしたもんか」
俺としては、神木には他の人とも関わりを持ってもらいたいと考えていた。
しかし2人を見ていると、歩み寄る気配すらも感じられなかった。
「神木は環と仲良くなる気はないのかよ?」
そして仲良くなって誤解を解いてもらわなくては。
「だって君と仲良くしてる女の子だよ?仲良く出来るわけないじゃん!」
「要するに環に嫉妬してるのか」
俺がそう言うと何故か神木は顔を真っ赤に染めた。
「なっ・・そんな直球で言わないでよ・・・。そうだよ、ちょっとあの子が羨ましいんだよ・・・」
いくら神木と言えど、こうやって自分を思ってくれる女子と考えると顔が熱くなってくる。
「それにあの子、私なんかと違って面倒見も良さそうだし、落ち着いてるし、何より普通の女子大生感が眩しすぎるんだもん・・・」
「別に面倒見がいいわけではないと思うが。今日も単に早起きしたから来ただけだろうし・・・」
そしてもう一つ
「普通の女子大生か・・・」
もう少しお互いを知れば歩み寄れるかも、俺はそう考え神木に一つの提案をした。
「神木、明日って用事あるか?」
「明日?えっと・・・練習は今週入れてないし、多分暇だよ」
「だったら明日、少し出かけるぞ」
「え?う、うん・・・」
※
「それで今日はどこへ行くつもりなの?」
俺は神木にどこへ行くかも、何をしにいくかも伝えずに出掛けた。
二駅ほど電車で移動し、しばらく歩くととある場所に着いた。
「ここって・・・競技場?」
「ああ、もう出番まであまり時間もないと思うから急ぐぞ」
「ちょ・・出番って何よ?」
全く状況を分かっていないであろう神木が、不安そうに聞いてきた。
「すぐにわかる」
「本当に何なの・・・?」
競技場の中に入ると、多いとも少ないとも言えない人々が喧騒を奏でていた。
「走れぇぇぇ!」
「落ち着いてー!」
どうやら今日は普段よりも人が多いようだ。
「これって陸上の大会だよね」
「そうだ」
そして俺が見せたかったもの、それは・・・
「ちょうど始まるみたいだぞ」
俺は指を指し、神木がその方向を見た。
「あれって・・・この前の子だよね」
その方向にはこの前とはまた違った、緊張感を纏った環の姿があった。
「環は長距離の選手なんだ」
俺がそう言うと、ピストルの音が高らかに響いた。
しばらくは差が大きく出ることは無かったが、3周目を回る頃になると差が出始めた。
「あの子、もうキツそう・・・」
「あれだけ体格差があれば歩幅も違うだろうからな」
「何でそんなに落ち着いてるの!負けちゃいそうなんだよ!?」
「最後まで見てろ」
そうは言ったが、徐々にではあるものの先頭集団との差が開きはじめてきた。
依然として環は苦しそうだ。
「このままじゃ・・・」
そんな状況の中でラスト2周を向かえた。
「あれ?あの子のペース少し上がった?」
「ここからが環の凄いところだ」
しばらくは分からない程度の上がり方だったが、いつの間にか目に見えてペースが上がってきた。
そうしていつの間にか先頭集団の背中にピッタリと付くような形になった。
「凄いよ!もう前の方に居るよ!」
それからも、環のペースが落ちることはなく、それどころか先頭集団を抜き去った。
「環、ラストスパート!」
俺の言葉が聞こえたのか最後は全力を出し切り1位でゴールした。
「凄かった・・・あの子あんなに凄かったんだ・・・」
神木は語彙力を失いながら感動していた。
「環は何年間も走り続けて今はここまで成長した。俺はあいつほど努力という言葉が似合う人間を知らない」
どこに出しても恥ずかしくない、自慢の幼馴染みだ。
「神木は環みたいな努力人間って好きだろ?もう少し歩み寄ってみろ」
環、そして神木を見ていると、どこかそう思えた。
「た、環さんって今どこに居るかな?」
俺は黙って環の元へと向かった。
「あ、やっぱり来てたんだね」
「数少ない環のいいところだからな」
「酷いなー。・・・それでそっちは?」
そう言われ、俺の背中に隠れるようにして立っていた神木が出てきた。
「あっ・・あの!」
「はっ・はい!」
なんだこれ
「私、さっきの見てとっても感動して・・・環さんって呼んでもいいですか?」
唐突な神木の発言に環はしばらく目を泳がせていた。
「別にいいけど・・・」
「・・・!よろしくね、環ちゃん!」
さらっと、ちゃん付けになってはいるが仲良くなって何よりだ。
「でも別に2人のことを認めたわけじゃないから」
「うん、でもいつか納得させてみせるよ」
別にそういう関係ではないんだが
そんな事をこの女子の空気の中で言えるわけもなく黙っていた。
「これからも愛人として頑張ってね環ちゃん!」
「ほんと嫌い!」
そういうところだよ
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