88 おもしろい30代と1991年に作られたウィスキー。
最近、スクショがメモ代わりになっています。
暇になるとツイッターランドを徘徊しているので、アイフォンの写真の中がツイッターの画面ばかりになってきました。
なんとなく、自分がスクショした画像を見直していると気になるものがありました。
まずはそれを引用してみたいと思います。
――【20代だったころの自分へ】
・小説を読め
・つまらない映画を観ろ
・海外旅行しろ
・職場でいちばんになれ
・いちばんになれる職場を選べ
・貯金するな
・やりたいことをまわりに言え
・親孝行しろ
・自惚れろ
・そして痛い目に遭え
・挫折しろ
・セミナーにはいくな
・友だちをつくれ
・恋愛をしろ
竹村俊助という編集者のツイッターの呟きで「とにかく生産性や効率とは真逆に走るとおもしろい30代が待ってると思う。」と続けます。
現在28歳の僕からすると、「おもしろい30代」という単語はとても魅力的に思います。同時に、僕には憧れた30代というものがありました。
今回はそれについて書いてみたいと思います。
僕が20代前半の頃、バーでよく遊んでいました。
3つのバーの常連客になった僕は、バーテンさんと仲良くなり、お客さんともよく喋っていました。
当時、どのバーへ行っても僕が最年少だったと記憶しています。そこで年上の大人たちは、僕に向かってあらゆる話をしてくれました。
為になるようなこと、仕事に関すること、恋愛に関すること。
その中でも興味深い話をしてくれるのが、バーテンさんでした。
彼らが語る人生観はどこか一貫していて、憧れるものがありました。
一度、僕はあるバーテンさんの30歳の誕生日にお店へ行ったことがありました。常連客が彼をお祝いとして、あらゆるプレゼントを持って訪れる中、僕は殆ど手ぶらで一番安いビールを飲んでいました。
その日、僕は作家のイベントへ参加した帰りでした。
芥川賞作家の中村文則のトークイベントでした。僕が最もサイン本を持っている作家が中村文則です。
また彼のデビュー作「銃」の冒頭が自筆で書かれた原稿用紙もイベントのキャンペーンに当たり、持っています。
その自筆の原稿用紙と中村文則のサイン本を持って、僕はバーテンさんの30歳の誕生日で祝われているお店を訪れたのでした。
彼が誕生日と知って、もちろんお祝いする気持ちもありましたが、僕の中ではそれどころではない興奮と戸惑いが渦巻いていました。
そんな中で、また一人、バーテンさんをお祝いする常連客が訪れました。
常連客さんは高いウィスキーを買ってきた、と言い飲もうと笑いました。
バーテンさんは貰ったプレゼントで分けられる食べものやお酒に関しては、来店しているお客さん全員に振る舞ってくれました。
プレゼントを持ってきていない、頭の中がずっと中村文則のことでいっぱいの僕もその中に含まれていました。
高いウィスキーが、僕の前にショットグラスにそそがれて置かれました。
「なんて言うウィスキーなんですか?」
と僕は尋ねました。
高いウィスキーの名前を聞いたところで分かる訳がないのですが、なんとなくの興味本位でした。
バーテンさんがウィスキーの名前を言いました。
やはり、僕はその名前を聞いても、何の感情も動きません。ボトルをバーテンさんが差し出してきました。
ボトルの表面には「1991」という文字がありました。
それについて尋ねると、
「1991年に作られたウィスキーだね」とバーテンさんが答えました。
「僕、1991年生まれなんですけど」
「へぇ、じゃあ同い年じゃん」
同い年のウィスキー?
好きな作家に会い、彼のデビュー作の冒頭が書かれた自筆の原稿用紙を手にいれ、同い年のウィスキーを飲む?
その状態を知っていたバーテンさんが
「君は何か持っているのかもね」と言いました。
僕は何も持っていないと思います。
ただ、
「今日が人生で一番特別な夜になりました」と答えました。
その日の帰り、バーテンさんに30代の目標はありますか? と僕は尋ねました。
「うーん、常にわくわくしていることかな」
彼いわく、それは楽しいことへ挑戦することでした。
その後、バーテンさんはバーを辞めて居酒屋を開きました。
開店当時は駆け付けられる状態になかった為、僕はフェイスブックで彼が挑戦している姿を眺めていました。
数年が経ち、幾つかの職を転々とした結果、僕は彼がやっている居酒屋の近くの職場に勤めるようになりました。
仕事の帰り道に彼が切り盛りしている居酒屋がある、という状態はバー遊びをしていた頃が戻ってきたような感覚でした。青春が戻ってきた。
というのは、少し感傷的ですが、そんな感覚があって僕は職場の人間を誘っては彼のお店を訪れました。
そして、そのお店は僕が通っている間に閉店となりました。
閉店する時、僕の二度目の青春が終わったような気持ちになりました。
これまた感傷的で恥ずかしい感覚ではありますが、そう書かずにはいられない寂しさがありました。
ちなみに、彼がお店を閉めると言った時に
「それはわくわくする選択ですか?」と尋ねてみました。
「もちろんだよ。でも、子供が生まれて、育てるって立場になると考え方は変わるね。ずっと、この仕事を続けるのは難しいよ」
一言一句正しい言葉でありませんが、意味はこの通りでした。
寂しいと思うのはお門違いです。
彼の人生は彼が決めるべきですから。
ただ、僕が1991年生まれのウィスキーを飲んだ夜から、随分と遠くへきてしまったんだな、と思う他ない返答でした。
僕ももう少しで30歳になります。
楽しみと少しの怖さを持って、これから「わくわくする」30代になるための準備をしたいと思います。
それは「生産性や効率とは真逆」の選択に近いものです。
おそらく。
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