56 エロゲーと文学のジャンルの垣根を超える価値。
基本的にこのエッセイって、なにか気になった文章やテーマを見つけて書き出すので、最初の時点ではオチなど決めずに書いています。
なので、途中で結論が行方不明になることが、よくあります。とくに前回のエッセイは、結論をどこに持っていくべきか悩みました。
不快になった方や、読みにくかった方がいらっしゃったら、大変申し訳ありませんでした。
僕の実力不足です。
ということで、今回は前回とはかけ離れたテーマにしたいと思います。
カクヨムのエッセイをぽつぽつ読んでいて、ふと気になるタイトルを見つけました。ひょうろくだま「とあるエロゲーシナリオライターの日常」です。
自慢ではありませんが、僕は殆どゲームをしてこなかった人間で、それはエロゲーも同様でした。が、二十歳くらいの周囲の友人でエロゲー好きの奴らが結構いて、彼らに借りることで数本やりました。
その後、虚淵玄や奈須きのこ、麻枝准などがエロゲー出身のライターだと知り、興味を持って更にプレイするようになりました。当時の僕はテレビを持っておらず、PC環境だけで出来る、お手軽さがやっていた大きな理由でした。
ちなみに「とあるエロゲーシナリオライターの日常」のひょうろくだまはフリーのエロゲーシナリオライターで、それに関する日常を描いていました。
単純に有名タイトルをぽつぽつやっているだけの僕の想像を超える厳しい現実が、そこにはありました。
やっぱ、当たり前ですけれど、文章だけでご飯を食べるというのは大変だなぁ、と在り来たりな感想が浮かびます。
その中でも興味深かったのは、エロゲーはシナリオが面白いよりも、キャラが可愛い方が正義というスタンスでした。
確かにがっつりエロゲーにハマっている友人なんかと喋ると、今までで一番可愛かった二次元キャラクターは? などと言う質問に対し、エロゲーキャラのヒロインを答えていました。
ちなみに僕は同じ質問に受けを狙って「ノルウェイの森の緑」とか言って、盛大に滑った記憶があります。可愛いんだけどなぁ、緑。
そんな友人の中でエロゲーのヒロインにハマり過ぎて、グッズなんかを買い込んだ後に結婚し、奥さんに捨てられた、という話もありました。
エロゲーもアニメもそうですが、その物語に付随するグッズ展開によって利益を出している部分があるので、キャラメインの方が展開しやすいんでしょうね。
僕、グッズ買ったことないので、本当エロゲー業界に何の貢献もしていない人間です、ごめんなさい。
その代わり、気に入ったエロゲーは繰り返しやるタイプです。
あと、評論家でエロゲーを紹介する人が何人かいます。その中で坂上秋成が、2010年代のジェンダーを考える上でやるべきエロゲーとして「月に寄りそう乙女の作法」を挙げていて、やりました。
エロゲーって言うからには18歳以上がプレイする想定で、作られるんですよね。その為か、ある部分を現実から離れて異常に描くことができます。
「月に寄りそう乙女の作法」は女装ものです。
主人公の男のが女装して、メイドになって働いてくという展開なんです。女装もののお約束らしいんですが、ゲームを進めていく上で、その主人公が一番可愛く見えてくるよう描かれます。
主人公は必死に女性として振る舞おうとし、自己暗示的な部分が垣間見えていき、その結果、彼から男としての意識や性欲が失われていきます。
あくまでコミカルに描かれますが、この男としての意識と性欲の消失から始まるヒロインたちと恋愛関係に陥っていく展開は面白いです。
男性と女性の恋愛ではなく、最初は女性と女性の恋愛として描かれるからこそ、人が人に惹かれる最初は別に性別の差異ではない(つまりセックスの有無ではない)と主張する作品になっています。
そういえば、古い作家ですが大庭みな子のデビュー作「三匹の蟹(1968年)」に、それに近い描写があったと記憶しています。「三匹の蟹」は簡単に言えば、家庭のある女性が若い男の子にナンパされて、一緒に夜の遊園地に行って結局、ラブホテルにまで行っちゃう話なんです。
で、若い男と性行為をするってなった時に、彼女の頭をかすめるのは、学生時代に恋愛関係に陥った同級生の女の子だった。
ここで間違っても旦那の顔が浮かばない点が「三匹の蟹」の優れた点だと個人的に思います。
読めば分かりますが、「三匹の蟹」の女性は旦那への愛を失ってしまっていますし、おそらく最初から好きで結婚した訳ではないようです。故に浮かぶのが好きだと心から思えた同性の女の子だった。
相手を好きになる、という感情は異性、同性関係ないと言う考えてみれば当たり前のことを、エロゲー(月によりそう乙女の作法)からも、文学(三匹の蟹)からも気付かされる。
名作にはジャンルの垣根を超えた価値があるように思います。
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