54 自分にとって最も大切なことを知らない。

 毎日、更新しようと決めて書き出してから、微妙に量が増えている気がします。前回とか特に。おかしいなぁ。

 普通は量を減らしたり、内容を薄めるのでは? と思ったりします。

 現実問題、書く時間や期間は一週間に一回の頃とは変わってしまったので、以前とは違う読み味を感じるかも知れません。

 良いか悪いかは、書いている僕には分からないのですが、ひとまずは続けられるだけやる、というスタンスでいきます。


 今回は、前回の「贅沢な失恋」とか「トロフィーワイフ化」とかを考える延長線上の話を。

 文藝雑誌の一つ、すばるの2018年5月号の特集が「ぼくとフェミニズム」でした。

 すばるは近年、評論活動に精力的な面があって「すばるクリティーク賞」なるものを募集もしています。僕はすばるの評論系の執筆者で、杉田俊介が大好きです。以前、買いそびれたすばるを図書館でまとめて読む、ということをした時に、貪るように杉田俊介の文章を摂取していた思い出があります。


 個人的に杉田俊介の「非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か」が大好きです。

 副題となっている「男にとって「弱さ」とは」という部分を、とても重要で一文では書き出すことは難しいのですが、あえて抜粋すると、


 ――男たちの最大の罪(自己欺瞞)とは、まさに自らの痛みに気づけないこと、「痛い」「苦しい」と口に出せないことかもしれないのに。そのせいで僕たちは、日頃の生活や性愛において異性や子どもたちに対する致命的な不感症/アパシーに陥っているかもしれないのに。そして「助けて」と言えないがために、自分の命を滅ぼし、無言のうちに他人にも、恋人や子どもたちにすら、「助けて」と言わせなくしていくのだとしたら……。


 です。

 これを凄く簡単に言えば、男は自分が「痛い」「苦しい」と口に出せないからこそ、恋人やこどもたちに「痛い」「苦しい」と言わせなくしている。

 それこそが男の弱さ、だと。

 そして、その弱さの根本にあるのは、自分の痛みに気づけないことだ、と。杉田俊介はこの状態をソクラテスの「アポリア」に似ていると言います。


 ――アポリアとは、自分にとって最も大切なことを、それこそを、自分は何も知らない、ということなのである。愕然とするような無知や無能さを思い知らされた人の、呆然自失の状態のことだ。


 これを読んだ時に、本当に呆然としたのを覚えています。

 僕はおそらく、自分にとって最も大切なことを、何も知らないんです。そして、おそらく知らないことに薄々気がついてはいる。

 からこそ、どうにかして、それを知ろうと今、僕は足掻いている最中なのだと思います。


 ちなみに、ちょくちょく話題に出す僕の弟ですが、彼も自分の弱さみたいなものに少し自覚的です。その自覚があるからこそ、結婚という他人と一緒に暮らすことに躊躇をしてように、僕は見えます。

 気づかぬ間に、共に住んでいるパートナーから「助けて」と言わせない空気を弟自身が作っていた。なんて、ことになった場合、彼自身が心底嫌っていた父親と同じになってしまう訳で……。


 そこで彼の中に沸き起こる罪悪感は、僕の想像を超えますし、本当に起きてほしくない未来です。なので、それに関して僕の立場でフォロー可能なことがあれば、やっていこうと思います。

 話を戻して、男は結局「自分にとって最も大切なこと」を知りません。知らない、ということさえ、知らない可能性だってある。そうすると、目に見えて分かり易い方へと思考は進んでしまいます。


 それはつまり、社会的な成功をしたら、若い女の子を捕まえて高級な食事や高価なプレゼント送って、綺麗なドレスを着せてトロフィー化させる、なんて「贅沢な失恋」状態に陥る。

 けれど、それは本人にとって最も大切なものに気づいていない状態である以上、空虚で、どうしようもない世界です。

 自分にとって最も大切なことが何か知らずに死ねば、それはそれで幸せ、などと言う考え方もありますし、実際そう言っている人と知り合ったこともあります。


 個人の幸せは、その個人が決めれば良いと思うけれど、本当にそれで良いの? と尋ねたくなる気持ちが僕の中にあります。

 が、まず僕自身が、最も大切なことを知っているのか? という問いの前で、少々自問自答したいと思います。

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