⑥ R-18文学賞から見る青春。
「わかりやすい一言」でわかったような気持ちになればそれでいいのであって、複雑なものをいちいち掘り下げて知ろうとする根気はないし、そこまでして理解したくないのだ、と思うことがある。
という文章が、2013年のユリイカ07「女子とエロ・小説篇」でありました。買った理由は「女による女のためのR-18文学賞」が好きだったからでした。
僕は男なので、「女による女のための」に投稿することはできません。だからでしょうか、受賞作が気になって仕方がなくて、一時期は受賞された雑誌を買っていました。こざわたまこさんの受賞作なんかは雑誌で読んで、「おぉ、すげぇ閉鎖感」と感嘆した覚えがあります。
そう「女による女のための」は、その名前が表すように限定された人に向けた賞である為か、受賞作にはある種の息苦しさ、というか閉鎖的な空気が付きまといます。それがとても良いんです。安易な物言いが許されるなら「青春」的なんです。
どこに行っても、自分の行きたい道には辿り着けず、せめて行き止まりであれば言い訳ができるのに、通行止めでさえなく、進みたくもない道を進まなければならないような物語。
あくまで僕の勝手な感想ですが、この感触を青春と呼ばずして、なんと言うのだという気持ちです。
ただ、冒頭にあるように「わかりやすい一言」で分かったような気持ちになるのは、少し危険なようにも感じます。ヤマシタトモコの「すばるの朝」という漫画で、必ず大切なものを見逃す男がいました。
分かったような気持ちになればそれでいい、と思考停止すれば、必ず見逃してしまうものがある、と僕は常に思ってきました。けれど、だからこそ答えを出せずに他人に背を向けられることもあります。
Aを取ればBを失い、Bを取ろうとすればAを失う。世の中は本当によく出来ています。
昔、恋人と別れた時、友人が僕に言った言葉がありました。「知らなくて良いこともある」と。
どうして僕は恋人に別れを切り出されたのか、なんて知らなくていい、と彼は言いました。知って、くだらないことだったらどうするんだ? と。
くだらないことでも僕は知りたい、と思いましたが、僕は単純に納得が出来なかったから、だと気づきました。ならば、もうそれは誰かと僕の問題ではなく、僕自身の問題だ、と。
僕は自分を納得させる為に、よしもとばななの「デッドエンドの思い出」を読みはじめました。何十回も繰り返して。
デッドエンドの思い出を簡単に説明すると、学生時代から付き合っていた、今は遠くに住んでる恋人から連絡が途絶えがちになって、勇気を持って恋人(彼)に会いに行くと既に、他の女と一緒に住んでいることを知ってしまった女の子の話です。
我ながら、恋人と別れた後にデッドエンドの思い出を何度も読むって、女々しくてヤバい奴だと思います。が、そういう心境だったのですから、仕方ありません。
よしもとばななの小説のテーマは基本的に「消失からの回復」です。何かを失うことで、何かを得る(得る為の心を得る)。
確か、ハゴロモという小説のあとがきで、よしもとばななは傷ついている時にしか作用しない小説です、と言った意味のことを書いていたように記憶しています。実際、その通りな部分もあって、よしもとばななの小説は普通の何でもない時に読むよりも、傷付いて苦しくて、途方に暮れている時の方がぐっと来てしまいます。
複雑なものをいちいち掘り下げて知ろうとする根気はないし、そこまでして理解したくないのだ、と思う誰かは常にいるし、そういう状態に自分が陥ってしまうこともあります。
それでも、可能である限りは「わかりやすい一言」で理解した気にならず、根気強く、複雑なものを掘り下げて知ろうとしたいと思います。
恋人と別れた後に、デッドエンドの思い出を読むことは、僕にとって恋人とどういう関係でありたかったのか、という自分の気持を知る為の鏡として、とても良いものでした。
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