二章 水の都 【ミネラ・クーリシュ】
遅れての紹介になっちまったが、ここでさっき出てきた――邪眼――について、俺が分かってる範囲でだけど話させてもらってもいいかな。
邪眼っていうのは、この世界で極稀に発生する特殊な眼らしく、開眼することを覚醒というそうだ。龍はもちろん、伝承によれば俺以外にも人間で覚醒した人はいるらしい。もう何百年も前の話しらしいけど。
覚醒すると、何らかの能力が発動して、凄まじい力が出せるってのが共通条件で、その能力は様々。
例えば、俺の邪眼の能力は……基礎七属性と呼ばれるこの世界の属性――【火・水・雷・土・氷・風・自然】――全ての術が使える、超特殊能力――【エレメンタル・セブン】――だと思われている。
だけど、使える魔術は、俺が中二病全盛期に考えた必殺技のみというあまりにも特殊過ぎるし、謎過ぎるが都合も良過ぎるお眼々ちゃんなのだ。
ただ、今の俺の話しから推測して頂けるだろうが、覚醒する理由やその後の発生条件、能力なども含め解明している部分は極めて少なく、現状お話し出来るのはここまでです。
すみません。でも、きっとそういうことに詳しい何千年と生きている仙人……ここじゃあ仙龍ってのがきっといるんだろうな。そういうお決まりだろどうせ。
「――ク。おい聞こえてるかオタク」
「――ッ! え?」
我に返り辺りを見回すと、心配そうな顔をしているメイド(今はまだ俺のじゃないけど)のリミアちゃんと、魔術で擬人化もどきになっている子龍のフリウス、そして呆れ顔はおなじみ、緑龍(りょくりゅう)のナディス。
「やっぱりお前、最初から変人だったが今はさらに様子が変人だぞ。急に独り言喋り始めて……そりゃ、友達いなくて日々淋しい思いして過ごしてる変人とはいえ……」
「いや申し訳ないが、アレ独り言じゃないんだ! なんていうか……そう、心の声! 的な……ってか、変人強調するな!」
「クロ……変人様、まだ異世界に馴染めずお辛い思いをされているのですね」
「ほらーリミアちゃんがまた俺の名前言い間違えてるじゃん」
「え? 私何か楚々致しましたでしょうか?」
「自覚無いんだね……リミアちゃん、恐ろしい子……」
「おい、そろそろ話しに戻りたいんだが、いいか」
「あ、ああ。スマン。んで、何の話だっけ?」
「はぁ~。だから、フリウスがなんで俺達がミネラ・クーリシュを目指してるのかって言うから、改めて俺達の目的確認をしてたんじゃないか」
「ほうほう」
「ちなみにお前、覚えてるよな、俺達のこの先の目的を」
「あったりまえだろ! 俺達の最終目的地は、そうリミアちゃんの実家! そこで俺はご両親にご挨拶をして……そ、その(チラッ)……せ、せい……正式な(チラッ)……こ、交際をだな(チラッ)、認めて……ゴニョゴニョ……」
と、俺は途中からリミアちゃんの視線が気になり、何度も彼女に視線を移し、最終的には恥ずかしくなって言えなくなってしまった。
どうやらこの支配からの……ではなく、少年としての卒業への道のりは、まだまだとてつもなく険しいようだ。
「と、とにかく! だからミネラ・クーリシュはあくまで通過点! そうだろナディス!」
ドヤ顔で決める俺。我ながらビシっと決まったと思っていた。がしかし――。
「はあああぁぁぁ~~~~」
ナディスさんは深~いため息。
「いいか、オタク。確かにリミアの故郷に行くのは最大の目的であり、ゴールと言ってもいい。だが、ミネラに行くのはお前のためなんだぞオタク。ミネラでお前の職探しをする。これも目的の一つだったはずだ。まさか、忘れたとは言わないよな?」
「……は、ははは。も、もちろんわ、忘れてるわけないじゃないくぁ! 舌噛んだ」
「お前思いっきり動揺してんじゃないかよ。もしかして、働きたくないから考えないようにしてたな、オタク」
「……ああそうだよ! 俺は! は! た! ら! き! た! く! 働きたく! ないんだよおおおおおお!」
「何で同じこと二回も言うんだよ」
「大事だからだよ! 俺の国のすご~い偉い人もそうやって言ってんだよ!」
「お前必死だな。そこまでして働きたくないのか――」
「働きたくないねぇ! 労働を強いられてるあっちの世界から開放されたんだ! 俺は働かんぞぉおおお! だぁっはっはっは――」
はっ!?
しまった――俺、リミアちゃんの前でなんて事を言ってしまったんだ……これじゃ俺が人間以下のクズだって思われ――。
「クロト様……でも、やはりクロト様には、ニィト? がとてもよくお似合いですから!大丈夫ですよ!」
――てんじゃねぇかよぉぉおおお!!
お〜い〜! 俺リミアちゃん公認のクズニートじゃねぇか! これ挽回できる余地ないじゃん! オワタやん俺……。
「お前の言い分は聞いてない。こっちもいつまでもタダ飯食わせる訳にはいかないんだよ。何でもいいから働け、クズ」
「おいナディス! お前、今オブラートにも包み隠さずストレートにクズって言ったな?オタクよりグレードダウンしてんじゃねぇか!」
「ワーワーうるせぇよ、クズ。安心しろ、クズ。最悪は俺が仕事紹介してやるから、クズ」
「お前ただクズって言いたいだけだろっ!? てかホントかよ! じゃあ最初からそれでいいじゃねぇか! んで、どんな仕事を俺に紹介してくれるんだ?」
「そうだな……汚物処理とか、災害処理とか、あとは臓器提供とか――」
「ちょいちょいちょぉぉおおおいい! 全部ハード過ぎるわ! 最後に至っては俺、リミアちゃんと旅出来なくなるから!」
ナディスのやろう……ホントに最悪の手段だったじゃねぇか。でもここで何かしらの職に就かないとマジで俺ゲームオーバーじゃん。
「お前はホントに文句しか言わないな」
「文句も何もお前がイジワルなことばっか言うからだろ! なあ、お前覚えてるか? 初めて俺達が出会ったあの頃。色々話聞かせて欲しいからうちに来いよって行ってくれたあの頃を!」
「ん? 森の時だろ? 覚えて…………イヤ、マッタクモッテオボエテナイナ」
「今明かに訂正したよな! しかもなんで片言になってんだよ! 絶対覚えてる反応だよな! それただのフリだから!」
こうなったら……神様ァ! このポンコツドラゴンに一泡吹かせてやってくだせぇ!
さあ! いつもみたいにちょちょいと――ん? なんだあのヒラヒラ落ちてくる紙は?
さては、神様からの手紙かな? 紙(神)だけに。ってんな寒いジョークある訳ないよな!
『今仕事中。話し掛けるな、クズ(笑)神様より』
ビリビリビリビリ……!
あぁんのクソやろぉぉおおお!!
何が仕事中じゃあ! 絶対暇しとるやろぉ! てか、紙に海苔付いてんだけどさ! 思いっきり何か食べながら書いたよなこれ! ただ面倒くさいだけやろ!
「しかも……アンタまでクズ言うなぁぁあああああ!」
もうなんなんだよ! どいつもこいつも俺に冷たくね? これじゃミネラなんちゃらに着く前に俺のメンタルが崩壊しちまうよ。
「皆さん、着きました。ここが水の都、ミネラ・クーリシュです。」
「えっ?」
「着いたな〜」
「無事に着きましたね。良かったです」
なんて思ってたらミネラなんちゃらに着いたらしい。
タイミングいいなぁ〜。これ絶対神様の仕業だな。うん。
色でいえば、白と青。
俺がここ、ミネラ・クーリシュを見て初めに湧き上がってきた感想である。
俺らの世界でいえば、ギリシャが一番近いかな。ほぼ全ての建物が白を基調として、至る所に張り巡らされた水路には青く澄んだ水が流れている。規模も様々で、大きい水路には橋が掛かり、その下を移動手段として使われている船が行き交えるほどにである。その部分はイタリア要素があるな。
「うぉぉおおお! スゲェえええ!」
「クロト様、凄い楽しそう。まるで無邪気な子供のようですね」
「ホントだよ。精神年齢低いのは知ってたが、ここまで全身でガキだったとはな。落ち着けオタク」
「これが落ち着いてられるかよ! こんな絶景、教科書かボッシュートのテレビ番組でしか見たことねぇよ!」
「よ、よくわからないですが、クロトさんのいた世界とは全然違うんですね」
「ああ! 少なくとも俺のいた町とは大違いだよ! ホントすげーな!」
ウフフフッ、あはははっ――。
「……さて、アホはほっといてとりあえず俺達は宿を探すとするか」
「あ、ナディスさん。それなんですが、もし皆さんが良ければうちに来ていただいても大丈夫ですよ。僕一頭暮らしなので」
「いや、流石にそれは悪いだろ」
「いえ、気にしないで下さい。寧ろ僕が来て欲しいくらいなので」
「いかが致しましょうか、主様?」
「そうだな、せっかくだからお言葉に甘えるとしよう。フリウス、少しの間お邪魔させてもらうよ。いいよなリミア」
「もちろんです! フーちゃん、お邪魔しますね!」
「よかったです! そんなに立派な家ではないですが、寛いでいって下さい」
「ああ、よろしくな……おいオタク。フリウスの家に行くぞ」
ウフフフッ、あはははっ――。
「はぁ……よっと」
「ウフフフッ、あはは――うおっ!?」
俺が間一髪でかわした何かは、ドゴォォオオオオン! と豪快な音と土煙を上げて着弾。
「あぶねぇなぁ! 何すんだよっ! ……ってこれモルゲンシュテルンじゃねぇかよ!」
(※英語ではモーニングスターと呼ばれています)
「おお~よくかわしたな」
「いや、よくかわしたなじゃねぇよ! なんでお前こんな物騒なモン持ってんだよ! てかどこから出したんだよ! ド〇えもんかよ!」
「ガミガミうるせぇな。いいから来い。フリウスがミネラにいる間、家に泊めてくれることになったから、早速行くぞ」
「そうなのか! ありがとうフリウス!」
「いえいえ。ゆっくりしていって下さい!」
「そういう訳だから。それと、ソレ取り行くのめんどくさいから持って来てくれ」
「うい――って重っ!!」
「……ようやく到着したのね。待ちくたびれちゃったわ」
「……ごほっ、ごほっ……ですな。予定より……ごほっ……ずいぶんと遅かったもので」
クロト達のいた表通りとはうって変わって、ここは建物の隙間、日の当たらぬ暗き路地裏から、その二頭の竜人は四人を見据える。
「あの緑龍、思ってた以上に影響を受けていない様ね」
その雌、妖艶な雰囲気を漂わせ、他を魅了するであろう容姿をする。この雌が龍であると容認できるのは、つばの広い被り物の下から覗ける瞳と、長いドレスの下に隠された尾のみである。
「……ごほっ、ごほっ……そのよう、ですな……ごほっ」
対してその雄、ボーラ―ハットを被り、タキシードの様な黒服に身を包むも、露わになる容姿は、二足歩行をした紛れもない龍である。
辺りの暗さで認識し難いが、明らかに血相が悪い。
「……ごほっ、ごほっ……伊達に、ごほっ、緑龍、ごほっ、ではないで、ごほっ、ごほっ、ヴオッホッ!」
「ちょっと! 私のドレスが汚れるじゃないのよ!」
「ごほっ、ごほっ……何を人間の様な事を仰られているのですか。それは魔術で変容させた、貴女様の鱗じゃありませんか……ごほっ、ごほっ……」
「おだまり。それより準備は進んでるのかしら?」
「……ごほっ、ごほっ……ええ。そちらは……ごほっ……問題なく。……ですが、」
「何かしら?」
「ごほっ……あの人間……ゴーシュがまだいらしていなくてごほっ」
「なんだ、そんなことなのね。いい、あの男抜きでこの作戦は実行するわよ」
「よ、よろしいのごほっ、ごほっ……ですか? 上からの指示では、ゴーシュを搖動に私とで行えと――」
「そんなの気にしなくていいわ。第一、あの御方だってアイツの事なんか信用してないわ」
「しかし、あの男は掴み所が無いというかごほっ、ごほっ……どうやって我々の一員になったのでしょう?」
「そうなのよねぇ、実は私も知らないのよ。一体あの御方はどのようなお考えであんなヤツを――」
「なんだなんだ? 噂されてると思ったらお前らか。何の話ししてたんだ? 俺も混ぜてくれよ」
「「――ッ!?」」
二人の背後には、背丈程の大剣と日本刀の様な刀を帯刀した全身黒尽くめの青年が茶袋を持って立っていた。
「おいおい、なんでそんなに身構えてんだよ。気楽にいこうぜ。よかったらコレ、食うか?」
「……いつからソコにいらしたのかしら? ゴーシュ・ドラ・ヴァルド」
「いつからって今に決まってんじゃねぇか。悪かったな遅くなってよ」
「……気が付きませんでしたよ。ごほっ、ごほっ……」
「おいおい大丈夫かよアンタ。顔色悪いぜ。治療院でも行ってきたらどうだ」
「お気遣いなく。これが平常なので」
「そうなのか。変なヤツだな。肉食え、肉を」
「こほんっ。そろそろ本題に入ってもよろしいかしら」
「ああ。そいで、今回の計画は――」
龍と邪眼とツッコミと!? 2 ~異世界だからって天職に就けるとは限らない~ ブリしゃぶ @buri_syabu
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