「ここって意外に風通しが良いんだな」


 八号は時計塔の五階の窓から、街の景観を見下ろしていた。たった一つの窓からは、新鮮で心地良い風が古びた室内へ舞い込んでくる。

 八号は、いや、八号たちは運に恵まれていた。幾つもの幸運が重なって何事もなく時計塔に着くことができた。スーパーからここに来るまでに誰とも遭遇しなかったこと、時計塔に誰もいなかったこと、未だに一号が目を覚まさないこと……。数え上げればきりがない。


「まあ、一号が起きないのは必ずしも良いことだとは言えないけどな」


 そう、あれから小一時間、彼女は未だ眠り続けている。

 脈、体温共に正常。外傷は無く、呼吸も安定している。ただ―――


「心配なのは目、だな」


 八号が運んできた時と比べると明らかに腫れは引いてきているのだが、中々目を覚まさない。心配になった八号は寝ている一号の顔を覗き込んでみた。別に、やましい感情なんて五%くらいしかない。消費税より少ないじゃん。


「はあ、寝てるだけならめちゃくちゃ可愛いんだけどなあ」


 安らかに眠る彼女の顔は――訂正、これでは一号が死んでいるみたいだ。心地よさそうに眠る彼女の顔は、まさに眠り姫だった。初めて会った時にも思ったが、やはり一号は可愛い。

 思わず見惚れてしまった。


「危ねえ、一瞬だがこいつがただの可愛い女の子に見えてしまった。まったく何を考えてるんだ俺は。こいつは平気で人を殺すような奴だぞ!? 三号だってこいつに―――」


 それを意識した途端に、一号に対する憎悪が湧いてきた。


「そうだ、お前のせいで三号は……」


 無性に腹が立った八号は、一号に平手打ちの一つでも決めてやろうと考えた。

 部屋の中央付近で仰向けに寝ている一号の傍らに立ち、彼女を見下ろす。そして八号は、一号がしっかりと寝ているのを確認し彼女に跨った。いや、正確には跨ろうとしたその時だった。

 一瞬足元がふらつき、バランスを崩した。


(きゃああああああああああああああああ!!!!!)


 心の中で絶叫。だがもし声に出せば一号に気づかれてしまう。そうなれば終了だ。

 音をたてないように気を付けていた八号だが、それどころではない。体が自身の意思に反して前のめりに倒れていく。

 ……そしてついに、事件は起こってしまった……。


 もふんっ。


 そんな感触と共に八号の両手が着地した場所は小さいが柔らかな双丘。つまるところ、一号のおっぱいだ。


(ンヒイィィィィィィィィィィィィ!!)


 不本意にもその柔らかさが手から伝わってきて、何も考えられなくなる。全くどうすればいいのか見当もつかない。

 八号はひとまず動作を停止し、冷静に今の状況を分析する。

 時計塔の五階、一人の男性が寝ている女性の乳房を揉んでいる。―――――犯罪である。


「やばい、どうしよう―――あっ」


 しまった。つい口に出してしまった。起こしてしまっただろうか。因みに、ここで一号が目を覚ました場合、八号の人生が即時に終了するのは自明である。


「んっ…………くふぅ……」


 一号は歯を食いしばり艶やかな声を出した。だがその官能的な姿を見ても可愛いともエロいとも思わないほどに八号の頭は焦っていた。

 とにかく彼女から離れなければ。

 それが混乱する八号の指揮系統が下した恐らく最善と思われる行為。早急に一号から離れ、電光石火の勢いで土下座した。


「すみませんでしたっっ!!!」


 ……。


 少し待ったが彼女からの返答は返ってこない。恐る恐る顔を上げると、一号は再び快眠に入っていた。


「よかった……本当によかった……」


 どうやら気づいていないみたいだ。さっきのことは……無かったことにしよう。

 そう決意しながら、手を動かして一号の胸の感触を思い出す八号であった。




 結局、一号はその数分後に何事もなかったかのように目を覚ました。


「おえっ……何かとても気持ちの悪い夢を見た気がする……」


 先程のような惨劇を二度と起こさないように一号に背を向けて外を眺めていた八号は、背後から聴こえる声に多少動揺しながら振り向く。


「何と言うか……その……ごめん」

「んにゃ……何の話よ?」


 寝ぼけているのか、虚ろな目で一号は答えた。それに加えて、あろうことかあの一号が猫のような仕草で寝ぼけ眼を擦っている。

 今の状況について一号に言及したいが、万が一彼女が完全に目を覚ましたことを考え、やむなくスルーする。


「いや、何でもない。やっと目が覚めたんだな」


 始めはとろんとした目をしていた一号だったが、意識が覚醒するにつれ段々と目を見開いていった。


「え、なんで私はここにいるの? あれ? 確かスーパーで……あれ?」


 どうやら焦っている様子。忙しなく周りを見回している。


「とりあえず落ち着け、順番に話すから」


 一号はその一言に反応しこちらを睨む。当たり前かもしれないが、八号に対して未だ敵意を持っているらしい一号。


「始めに言っておくが、俺はお前と戦う気なんかない」

「ねえ、あなたが私を助けたの?」


 八号の台詞とは到底無関係な質問。なんとなく予想はついていたが、一号はやはり人の話を聞いていない。


「あ……ああ、そうだ。俺がやった。因みに言っておくと、俺はお前と戦う――」

「じゃあ、ここまで運んだのは?」


 ――何なんだお前は。人の話は最後まで聞けよ。


「え……ああ、それも俺がやった。だから俺はお前とたたか――」

「なら、私が寝てる間に何かやったのは?」

「ああ、それも俺が――いや、俺は何もしていない……です」


 危うく口を滑らせるところだった。心の中で額を拭う八号。


「……お前が寝てる間に何かあったのか?」


 あくまで自然に、何も知らない感を醸し出しながら問う。


「うーん……おかしいわね。私が寝てる間に誰かに胸を揉まれた気がしたんだけど……」


 顎に手を当てて唸る一号。

 例によって八号の話を聞いていないが、今回は話が噛み合っているから良しとしよう。


「って、今何て言った?」

「だから、私が寝てる間に胸を揉まれたの!」


 そう言うと同時、一号が物凄い威圧感を伴って八号の顔を覗き込んだ。


「ま、さ、か、あなたじゃあないでしょうねえ?」

「は……い、いえいえ違います。断じて俺ではございません」


 さもそれが当然かの如く自然と敬語を使ってしまう。嫌な汗が一筋、背中を伝った。


「もちろん俺はお前の胸なんか揉んでないし、ずっと二人きりだったから他の人が揉んだわけでもない。気のせいだろ」

「でも……妙にリアルだったのよね……揉まれてる感じとか」


 一号は自分の胸を触りながらも、八号から視線を離さない。

 明らかに疑われてるよね、これ。

 このままでは精神が持たない。どうにかして話を転換させなければ。


「なあ、話が逸れたが、俺はお前と戦う気なんかない」


 この台詞を言うのは三度目である。どうせ無視されると予測した八号は、一号の返答を待たずに話し続けることにした。


「だから一号、俺と停戦協定を結んでほしい。ただ、別にお前と手を組んで誰かを倒そうとかそういうわけじゃなくて、このままやり過ごすんだ。俺らは誰も殺さないし、誰にも殺されない。それを前提にこのゲームをクリアしてやろうと思ってる」


 八号の言葉を境に、一号の目が真剣に変わった。


「あなた、それ正気で言ってる?」

「ああ、正気だ。この部屋を出たら直ぐ階段がある。その階段を少し降りた所にお前が持っていた木刀が置いてあるから、もしお前が俺と組むのが嫌ならそれを持って出て行ってくれ。別にお前がどうしようが俺は何も言わない。その代わり、お前が倒れても俺は救ってやれない」


 最後の一言は少し傲慢だっただろうか。いや、こういう時は強気で言った方がいいってばっちゃも言ってたからきっと大丈夫だろう。

 八号は一号に引導を渡すことにした。このゲームはあくまでサバイバル、元々は個人戦だ。ここで一号を強制する権利なんかない。

 正直、承諾を得られる確率は低い。八号は、一号が断った場合のことも考えていた。

 一号は暫く目を瞑り考えていたが、突然音もなく立ち上がり、八号とたったの一言も交わすことなく部屋を後にした。


「やっぱりかあ。まあ、仕方ない」


 気持ちを切り替えろ、と自信に一喝し、立ち上がる。


「さてと、次は―――」


 スーパーに行って食糧を調達し直さないとな、などと考えながら部屋を出る。まあ、あいつの性格を考えると―――。

 刹那、自分の目前を何かが音を立てて横ぎった。


「……これは……木刀!?」


 思わず飛び退く、ふりをする。


「本当に無防備なやつね。私がその気ならあなた殺されていたわよ?」


 声の主は一号。予想通り、入り口の陰に隠れていたらしい。


「正直予想外だった。お前はそんなことしないと思っていたんだが……甘かったな」


 喉元に木刀を突き付けられながらも、冷静に答える八号。

 予想外というのは嘘だ。もちろん予想していたが、ここは彼女に対して下手に出るべきだと判断した。


「はあ、私はこんなやつに命を救われたのね。本当、呆れちゃうわ」


 一号はため息交じりにそう答えた。そして―――。


「でも、少なくともあなたが私に対して敵意がないってことはわかったわ。いいわよ、あなたの提案に乗ってあげる」

「本当か!?」

「ええ本当よ。これからよろしくね」


 一号は笑っていた。八号も笑った。そして八号は自然な流れで彼女に手を差し伸べた。


「は? 何この手」

「いや……握手をするのかと……」

「なんで私があなたと握手しなきゃいけないの?」


 ――漫画とかだとここは固い握手を交わす場面じゃないのか。俺が間違っているのか。


「いや……その……」

「漫画の読み過ぎじゃない? そんな軽々しく女子に触れようとしないで」


 こいつ鬼か。だがしかし図星過ぎるため何も言えない。


「で、まずは何するの?」

「ああ、とりあえず食糧を調達しにスーパーへ行くつもりだ」

「ふーん。ならさっさと行きましょう」


 一号はそそくさと階段を下りて行ってしまった。


「あ、おい! 待てって!」


 八号は急いで身支度を済ませて彼女の後を追った。その後ろ姿を三号と重ね合わせ、もう誰かを失うのは御免だ、などと考えながら。






 ――― 一日目 昼 ―――






「はあ……ったく、くそ暑いな……本当に苛々するぜ」


 広場の西側へと続く大通りを、一人の男が気だるげに歩いている。周囲の建物は皆一軒家ばかりで、爛々と輝く陽光を遮るものは何一つない。只今の時刻は十三時四十五分。本来ならば人影の一つや二つはあってもおかしくはない時間帯だが、幅二十メートルはあるその大通りにはその男ただ一人しか存在していなかった。


「ああ、うぜえ」


 男の名は六号。いや、名というのは齟齬が生じる。このゲームを行っている十人の男女は記憶を消された故に、自身の名前がわからず、その胸に書かれている番号で呼び合うしかないのだ。


「お、丁度いいところにカモが出てきたじゃん。あいつをぶん殴って気を晴らすか」


 六号は顔にかかった長髪をかき上げながら、獲物を見つけた鷹のような目つきで前方を見つめる。視線の先にある曲がり角から出てきたのは五号だ。


「あんなひょろひょろのじじいじゃあ張り合いがないが、少しくらいは楽しませてくれよ」


 ――向こうはまだ俺に気づいてねえ。だが不意打ちっつーのも面白くねえ。―――どうするか。


 五号は背後に迫る気配に気づくことなく、南へ向かってゆっくりと歩いている。六号は暫く五号の後をつけていたが、ふとあることを思い出し立ち止まった。


「そうだ、こいつで電話すりゃあいいんだ」


 ――あくまで自然に話しかけるんだ。そしてあいつが油断したところを…………。


「待ってろよ五号、最恐のショーの始まりだぜ」


 つい頬が緩んでしまう。六号は一呼吸おいて、自身のヘッドフォンに手をかけた。手探りで五号を示すボタンを探す。


「あいつが言ってたことがあってんならこのボタンを押せば―――」


 最初に広場に集まっていた時、五号は皆にヘッドフォンの説明をしていた。このヘッドフォンには縦に五列、横に二列の計十個のボタンが付いていると。そしてその順番は左列の上から下に向かって順に一から五、右列の上から下に向かって六から十だと。

 六号がボタンを押してから数秒の間をおいて、五号が何かに反応した素振りでその歩みを止めた。


「ビンゴ!」


 この通信機能を使うのは初めてだが、電話みたいにすればいいんだよな。


「よう、五号のじじい。俺は六号だ」

≪おや、六号さん。あなたが私に何の用で?≫


 五号は背後を確認しようともせず、ただ立ち止まって六号と通話していた。


 ――あのじじい、電話には反応してるが俺がここに居ることには気づいてねえみたいだな。よし、鎌かけてやる。


「おい、どこ見てやがんだ。お前の直ぐ右にいるじゃねえか。ほら、早くこっちを見ろよ」


 五号は促されるままに右を向いた。六号は五号が右に気を取られている隙に五号のすぐ後ろまで駆け寄る。


「ばーか。俺はさっきからお前の後ろにいたぜ。不注意にも程があるってんだよ!」

「な……騙していたんですか……」


 五号が声に気づいて後ろを振り向く。六号はタイミングを見計らって五号の腹に弱めの拳をいれた。


「とろすぎんだよ、じじい」

「が……がはぁ!!」


 五号は目を見開いて吐血した。


「ぐう……あなたの能力は……腕でしたか……」


 その口から鮮血を滴らせながら、腹部を押さえて蹲る五号。


「ああ、そうだよ。俺は腕が強化されたんだ。ま、これから死ぬやつに話しても無駄だけどな」

「それなら……私だって……」

「お前の能力なんざ興味ねえ。いい加減うざいんだよ」


 五号が起き上がろうとしたところを、両手を組んで上から叩き落した六号。五号の背骨が砕ける鈍い音が響く。

 一気に静まり返る。五号は地面に倒れ伏せたきり、完全に動かなくなった。


「けっ、つまんねえの。もう死んじまったのかよ」


 六号は、もうこんな屍に興味はねえ、とすぐさま来た道を引き返す。


「くっはははは、感謝するぜ!このゲームを考えたやつは最高だ!殺人っていうのはすかっとするな!」


 壊れたように笑った。


「さてと、次は誰を殺ろうか」


 そして、再びそのヘッドフォンに手をかけた―――。




 場面は少しだけ移る。時刻は十四時三十分、スーパーと時計塔の丁度中間地点に位置する公園で八号達は食糧等の入った袋を両手に提げ、休憩をとっていた。公園と言っても小さなもので、ブランコが二つと滑り台、そして深緑色の岩でできた謎のオブジェ――といってもただ一メートルくらいの岩が置いてあるだけ――しかない。


「うううううううううう、死ぬ。絶対死ぬ」


 愚痴をこぼしながら、八号は深緑色の岩に腰かけた。汗が止めどなく流れ出てくる。


「はあ、いい加減聞き飽きたわよその台詞。にしてもよくそんな汚いところに座る気になるわよね」


 八号を余裕の表情で見下し、一号。


「うるせ……誰のせいでこうなってると思ってんだ……」

「さあね。ほら、行くわよ。いつまで座ってるの?」


――こいつ鬼か。人間の所業じゃねえぞこれ。全く、俺は家畜かよ、チクショー…………。ああ、これは家畜という言葉と畜生という言葉をかけて―――どうでもいいな。


「重い、そして暑い。これじゃあ時計塔に着く前に死んじまうぞ俺」

「煩いわね……男ならぐちぐち言わずに運びなさいよ」


 相変わらず慈悲の欠片もない一号は、八号を一人残し、公園を後にした。


「とは言ってもだな、さすがにこの量はおかしいと思うんだ」


 気合で一号に追いついた八号は、率直にその気持ちを述べる。

 一号が持っているのは自らの武器である木刀と、調味料が少し入った袋のみ。一方、八号が持っているのは鍋やフライパンなどの調理器具やガスコンロ、食器、野菜や肉などの食材、それらを保存するための氷とクーラーボックス、それから…………。

 自分でも何を持っているのか把握できていなかった。


「俺が今こうなっているのはお前のせいなんだから、もう少しくらい持ってくれてもいいんじゃないか?」


 食糧を得るためにスーパーへ来た時、てっきりできあがった状態で売っている弁当を食べるのかと八号は思っていた。だが一号はスーパーに入った途端に「さて、何を作ろうかしら」などと言い始めたのだ。一応反論はした八号だったが、一号に難なく言い負かされ今に至る。


「ほら、もう時計塔見えてるじゃない。あと少しなんだから頑張りなさい」

「お前……」


 その後、八号は全ての体力を使い果たして、なんとか時計塔に辿り着いた。


「はぁ……つ、疲れた……」


 建物の中に入った瞬間に足から崩れ落ちる。もう限界だ。


「ちょっと、何休んでんのよ。五階まで運ばないと」


――だからお前は鬼か。鬼畜過ぎるだろ。


「わ、悪い……しばらく休ませてくれ……」


 体を起こそうにも力が入らない。いつまで経っても起きようとしない八号を見かねた一号は、大きく溜息をついて、


「はぁ、ったく仕方ないわね。私も手伝ってあげるから協力して運んじゃいましょ」


 一号は生気の全く感じられない八号の顔を見下ろして微笑む。一瞬彼女が天使のように見えたが騙されてはいけない。そもそも、片方だけがこんな重労働を課せられていること自体が間違っている。男女の差は考慮しても、協力するのは至極当然である。


「やっとわかってくれたか……」

「何か言った?」

「いえ何でもないですご協力感謝いたします」


 八号の返答には見向きもせず、彼女は軽めの荷物を数個程持って先に階段を上がっていってしまった。

 残されたのは大きな荷物と疲弊しきった八号。


「結局こうなるのか……」


 俺ってこんなキャラだったっけ、などと呟きながら、荷物を運ぶため一人寂しく何度も階段を往復した八号であった。




「はあ、これで最後っと」


 最後の荷物を床に置き、腰を押さえて大きく体を反らす八号。


「流石に腰が……いてて……」


 全てを運び終えた達成感と疲労から気を緩めたその時、首筋に冷たい感触が走った。


「うわっ冷た! お前何を―――」


 溜まっていた疲労もあり半ばキレながら振り向くと、一号が両手に水の入ったペットボトルを持って立っていた。


「ご苦労さん! はいこれ、水しか無かったんだけど、いいかな?」


 一号は八号の手にペットボトルを落とすと、ベタな展開で悪かったわね、と照れくさそうに微笑んだ。


「え、あ、ありがとう」


 様々な感情がこみ上げてくる。だが何よりも今の彼女は可愛かった。やはり一号は鬼なんかではなかったのだ。

 そんな感激の眼差しで一号を見ていると、彼女は突然頭を下げた。


「その……ごめんなさい」

「へ?」


 突然謝りだした一号に対して、状況が掴めず戸惑ってしまう。


「あなた、私と最初に会った時のこと覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ……」


 頭の中で思い起こす。それは八号が五号に呼ばれ、広場へ向かっている時だ。あの時は謎の勘違いによって初対面の女子に拳で殴られ心身ともに大打撃をくらった。


「あの時はね、私、あなたはただの変態だ、こんなゴミ死んでしまえばいいのにって思ってたの」


 ――そんなこと思ってたの!? さすがにひどくね!? 

そうは思ったがとても口には出せない。


「それで今まであなたのこと嫌ってて、ずっと冷たい態度とってきた。でも、スーパーでは敵である私を助けてくれたし、その後も何だかんだで優しいところはあるし、やっぱり私間違ってたって思う。だから―――」


 ――告白の流れキター!! やばい、どうしよう。なんて返事すればいいんだろう? オーケーを出してもいいのか? いや、駄目だ。今は断らないと。


 男子高校生特有の―――いや、童貞特有の自意識過剰な妄想がビッグバンのように誕生し、膨張した。


(ごめんな、俺とお前はただの協力関係だから―――)


 ――違う。これでは一号を傷つけてしまう。


(その気持ちはありがたいが、俺には三号が―――)


 ――いや、一号に対して三号のことを話すのはよくない。


(俺は巨乳が好きなんだ)


 ――いや、本当は大きすぎない方が好きだが……って何の話だ。全く意味が分からない。


「あなたのことを信じて、対等な仲間として関わっていきたいの。今まで本当にごめんなさい」

「…………え?」


 ――告白じゃない……だと……?


 目の前で頭を垂れている一号。このまま待たせるわけにはいかない。何か返事をしなければ。どうしよう、何て言えばいいんだ。とりあえず何か言わないと……。


「その……俺、実は一号のことが―――」


 ――好きで……って待て待て待て!? 俺は何を言っている!?!?


 さっきまで告白のことを考えていたせいでつい口走ってしまった。それにしても、この状況で告白するのはあまりにも謎すぎる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり何!?」


 どうやら混乱しているのは八号だけではないようだ。


「今のは、その……違うんだ! 何でもない!! 忘れてくれ!!」


 あんな妄想をしていたなんてとても言えない。頼む忘れてくれ、と手を合わせて頭を下げる。


「えっと……その……私、喉が渇いたから飲み物取ってくる!」


 一号は持っているペットボトルから水を周囲にまき散らしながら、部屋を出ていった。


「飲み物なら持ってるじゃん。あいつ相当テンパってるな」


 そう言いながら、持っているペットボトルを開けようと栓抜きを手にした八号。


「……ん、なんで栓抜き持ってんだ、俺?」


 自分でも何を考えているのかわからなくなり、少しの間その場に立ち尽くした。




――――――――――――――――――――――――――――――――—————




一号

性別:女

人物:JK。ポニテ。よくいるヒロイン的性格。恋愛経験希薄。


二号


三号→脱落

性別:女

人物:茶髪。ショートボブ。可愛い系。


四号


五号→脱落?

性別:男

人物:メガネおじさん。優しそう。五十代。


六号

性別:男

人物:パツキン。パリピ。喧嘩好きそう。二十代。サイコパス。


七号

性別:女

人物:お母さん的な。三十代。茶髪。おっとり。


八号

性別:男

人物:主人公。童顔。童貞。高校生。


九号


十号

性別:男

人物:メガネくん。大学生。優等生って感じ。


謎の男

人物:謎の空間で八号と会った。上から目線でアドバイスしてきてちょっとウザい。

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