4
時計塔を出発した八号達は、食糧や生活用品を手に入れるため、商店街へ向かっていた。
「商店街に着いたら、まず最初に武器屋を見に行く」
「武器屋……なんで武器屋に行くんですか……?」
隣を歩いていた三号が、上目づかいで八号を見上げる。可愛い。
「ああ、あの武器屋には何故か武器が大量に置いてあるんだ。そうだ、武器の一つくらい持ってないと危ないと思うし、三号も小さめのナイフくらいなら―――」
「嫌です」
三号は真剣な表情で答えた。
三号がこんなにはっきりと断るなんて珍しい、と八号が驚きの目を向けると、三号は焦って首を横に振った。
「い、いえいえ、別に八号さんの意見が間違っているとかじゃなくて、私はただ、自分の手で人を傷つけるのが嫌なだけなんです」
こんなに純真な子がいてもいいのだろうか。三号が優しさを見せるたびに心配になる。
「お前本当に優しいな。でも、もし誰かが襲ってきたらどうするんだ?」
「その時はその時です。それに、もし私が武器を持っても上手く扱えませんし、同じことですよ」
そう言うと、三号は穏やかに笑った。
「それより、私たちはこんなに仲良くしてていいんですか……?あんまり仲良くしてると……その……いざって時に……」
「まあ、その時はその時だろ。あまり体力には自信は無いけど、協力関係にあるからには三号を死なせたりしない」
「わ、私が言いたいのは……」
それきり、三号は黙って下を向いてしまった。
「な、なあ。俺なんか変なこと言ったっけ?」
「もう! 違いますよ!」
三号は顔を真っ赤にしながら「八号さんだって人のこと言えないくらい優しいじゃないですか」と小声で呟いた。
「何か言った? お、それより商店街に着いたみたいだ」
「まったくあなたって人は……あ、武器屋ってここですか?」
三号が指さす先には例の武器屋。店の外からでも、その武器の多さは容易に分かる。
「じゃあ、ちょっと中見てくるな。三号はどうするんだ?」
「私はちょっと先にあるスーパーで食品を取ってこようと思ってます」
「じゃあ、また後でな。終わったら迎えに行くから」
「わかりました、では」
三号は八号に手を振ると、スーパーへ向かった。八号は三号が料理をしている場面を思い浮かべながら、例によって開かない自動ドアを手動でこじ開け、武器屋の中に入った。
「三号の手料理とか食べてみたいな……いや、よく考えたら何もない時計塔じゃ料理できないじゃん――っておお、何と言うか、凄まじいな」
店内は見渡す限り武器で埋め尽くされていた。正面から入って右手側には剣の類が、左手側には銃の類が規則正しく並べられている。
「どれにしようかな」
―――何だろう。こういったものを見ていると、とても気持ちが昂る。
「取りあえず、銃を一丁と剣を一本持っていくか」
―――銃と剣を持って戦うのってかっこいいよね。
八号はこれはゲームだ、と心を落ち着かせ、ショーケースに入った一番高そうな拳銃に手を付けた。
「でも、銃は詳しくないんだよな、これだって何て名前かわからないし」
実際に手に持ってみると、銃というのはとても重く感じた。
「コルト、シングルアクションアーミー……? ピースメーカー……? どれが名前なんだ?」
当然、拳銃初心者の八号には、名前を知ったところで何も起こらない。
「まあ、何でもいいか。この銃って西部劇とかでよく出てくるし、これに決めた!」
八号が手に取った名も知れない銃は、どうやらシングルアクションという形らしい。いい感じに古びた所とか、持ち手の部分の曲がり方とかが何ともイカす。
「さて、取扱いの説明は後で見るとして、次は剣を選ぶか」
この時八号は、銃弾を装填しないという致命的なミスを犯していたのだが、本人がこの時点でそれに気が付くことはなかった。というより、説明書すら見ていないわけである。ピースメーカーくんには申し訳ないが、活躍する機会は暫く訪れないだろう。
右手のポケットに拳銃を構えて、剣を見て回ることにした。この武器屋にはカッターナイフから薙刀まで、世界中の刃物という刃物が集結しているらしい。八号はその中でも、日本刀エリアに足を運んだ。エリアに入ると、いくつもの刀が鞘に収まっている状態で壁に吊るしてある。
「やっぱり日本刀だよなあ! これぞ大和魂!」
この男にとって武器とは見た目と雰囲気が全て。性能もへったくれもないのであった。
日本刀の一つを手に取り、それを鞘から抜いて実際に振ってみる。
「お、思ったより重いな……マンガとかのアレは演出だったのか……」
二刀流や三刀流なんてかっこいいな、と考えていた八号だったが、すぐにそんなものは空想の産物だと実感した。確かに、両手に一本ずつ持つことはできるが、自在に扱うにはほど遠い。ましてやそれを使って相手と命を懸けた戦いをするなどできるはずがない。長年にわたって鍛えていれば話も変わってくるのだろうが、今の八号には関係のない話だ。
武器を選ぶにあたって、マンガや時代劇を参考にするなど愚の骨頂。全く、しょうもない男である。
「これじゃあ、片手に剣、片手に銃という夢のシチュエーションができないじゃないか。あ、それより銃の使い方を見に行かないと―――ぐっ!」
キイイイイイン。
再び銃売り場に戻ろうとした時、ヘッドフォンから聴こえる特有の耳鳴りが八号を襲った。
「この感覚は……あの時と同じだ。でもなんでゲーム中に通信がはいるんだ? 三号か?」
その謎は直ぐに解明した。八号の問いに答えるかのように、ディーラーが話し始める。
≪皆さん、いかがお過ごしでしょうか。もうサバイバル生活には慣れましたか? そんな皆さんに一つお知らせがあります――≫
ゲームの補足でもするのかと思った八号は、動作を停止して耳を澄ませた。完全なる静寂。止まった世界で、自分の鼓動だけがその動きを加速させる。
≪―――只今十三時。三号さんの脱落が確認されました。繰り返します。只今――≫
―――何…………だって……?
「三号が……脱……落……?」
頭が真っ白になった。全く思考が働かない。だが、そんな八号の頭の中で、ディーラーの声が何度も反響している。
―――何故? どうして? どこで? 誰が? 俺は何をすれば。
ふとした瞬間、ばらばらに散っていた情報という光が一つに収束した。
混乱している八号の頭でも、誰が殺したかは直ぐに分かった。今三号を殺すことができるのは、さっきの時点で三号が北側にいると言っていた一号しかいない。
「三号が脱落した……一号……どうして……!!」
考えるより先に体が動いた。剣を持ったまま、怒りに任せて事件現場であるはす向かいのスーパーへと駆ける。棚を崩し、ガラスを割り、武器屋の内装を破壊しながら、無我夢中で走った。何度も足がもつれ、転び、壁にぶつかり、いくつも傷が出来ていたが、八号の頭は三号のことしか考えられなかった。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ!」
走っている途中に三号の顔が何度も浮かんでくる。
―――ほんの少しの時間だったがとても楽しかった。三号のおかげで初めてこの世界に来てよかったと思えた。あの優しい笑顔がもう一度見たい、もっと三号と一緒に話していたい。それなのに――――。
八号は鞘に入ったままの日本刀でスーパーの窓ガラスを割って中に入った。窓ガラスが飛散する音だけが響く。スーパーの中は整然としていて、争った形跡など一つもなかった。―――そこに人が倒れていること以外は……。
「三号!! おい、しっかりしろ!!」
八号が声をかけると、三号はうっすらと目を開けて微笑んだ。
「あはは、やられちゃいました…………どうやら私、脱落しちゃったみたいですね……」
「生きてるよな!? よかった! ま、まだ何とかなるはずだ。ちょっと待ってろ―――」
八号が応急措置をするために包帯などを取りに行こうとすると、三号は弱々しく八号の服の裾を引っ張った。
「八号さん……ヘッドフォンが壊れてしまってます……もう無理です……手遅れなんです…………。だから……最後くらい、一緒に居てください……」
「三号……最後とか、言うなよ……」
三号の声は掠れていて、震えていて。死への恐怖がひしひしと伝わってくる。それでも彼女は自分の最期を受け入れ、その上で八号と一緒に居たいと言ってくれた。
――それなのに……それなのに、俺のせいで……!
「あは、八号さんのそんな顔初めて見ました……本当に面白くて、優しいんですね……」
「お、面白いは……余計だよ……馬鹿」
「えへへ、すみません……ですが私、そんな八号さんのことが好――――――」
三号が何かを言いかけた途端、ゲーム機が壊れたように視界にノイズのようなものが走った。いや、正確に言うとノイズのようなものが目の前に現れた。得体の知れないそれは、不吉な空気を漂わせながら三号がいた位置で蠢いている。
「くそ……何だこれ……」
モザイクのようなそれは八号の目と鼻の先で蠢いている。触ろうと手を伸ばすと確かにそこには三号の体があった。しかしまったく動かすことができない。
どうすることも出来ないまま、ただただ時間だけが無駄に過ぎ去っていくのを感じることしかできない。八号は唇をかんだ。
それは八号にとって永遠のような時間だったが、実際は数秒と経っていないらしい。
暫くすると、ノイズの中の、三号の感覚がふっと消えた。と、同時にノイズが晴れていく。
元通りになったそこには、三号の姿は跡形もなくなっていた。
「あ、あれ……嘘だよな? そんな簡単に人が消えるなんて……」
今でも、三号が「うふふ、冗談ですよ」と笑顔で話しかけてくるのではないかと思えて仕方なかった。
「何で……なんでだよ……なんでよりによって三号が死ななきゃならないんだよ……」
―――あんなにも平和的で誰よりも優しい人間なのに……。
「そんなのゲームなんだから仕方ないでしょ?」
突然、前方から聞き覚えのある声が聞こえる。八号が痛む体を起こして見上げた先、一号が棚の陰から平然と顔を出した。その整った顔は怖いくらいに冷静で、人間味がない。高めの位置で結ばれたポニーテールがたおやかに揺れるが、その美しさが実感を生まず、どこか不自然な感じがする。その手には三号の血で赤くなった木刀。しかし、張本人である一号の顔には後悔どころか何の感情も浮かんでいないよう思えた。それは、人の死に慣れている顔。彼女の過去については三号から聞いていた八号だったが、それを思い出せるほどの平常心は持ち合わせていなかった。
「お前……なんで三号を殺した……」
「はあ、何言ってんのよ。そういうゲームなのよ? あ、もしかしてあなたたちデキてたの?」
一号はにやりと嘲笑した。
「こいつ……」
――抑えろ。我慢するんだ。復讐したって何も生まれない。落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
自身に、必死にそう言い聞かせる。拳が血で滲むほど力強く握りしめ、唇を噛み締めながら、八号は何とか理性を保っていた。
「あいつは……三号は無抵抗だったはずだ。戦う必要はなかっただろ」
「そんなの無抵抗のやつが悪いのよ。私はただゲームに従っただけだわ」
一号のその一言に、八号の中で理性の糸がプツリと切れた。自分の体に湧き上がる感情を抑えられない。何が正解か、なんて考える余裕などなかった。
「この……やろおおおお――――!!」
八号は両手で日本刀を鞘から抜く。体勢が整っていないため、全身を持っていかれながらも、遠心力を利用して一号に切りかかる。
「はあ、単純なやつね。そんな遅い剣じゃあ私には当たらないわよ?」
一号は持っている木刀を構えようともせず、八号の剣をするりとかわした。音を立てて空を切る八号の剣。
「くそ! くそ! くそッッ!!」
―――こいつが三号を殺した。俺が代わりにこいつを……!!!
八号は、完全に理性を失っていた。
「ぶっっっっ殺す!!!!」
歯は軋み、目は紅く血走り、その顔はぐしゃぐしゃになっている。
―――そんなことはどうでもいい。今はこいつを……こいつを殺したい。
何度も何度も、不恰好な剣技で一号に切りかかるが一向に当たる気配すらしなかった。
「何よその剣の振り方、まるでばらばらじゃない」
未だ八号の剣は一号の体を捉えられないでいる。
―――何故だ、なぜ当たらない。俺はこいつを殺したいのに……。
一号に対する憎悪だけが八号の体内で増殖していく。そうして八号の憎しみが飽和した時、突然ぐわん、と視界が揺れた。
「なっ……!?」
視界が一気に闇に閉ざされる。体勢を立て直そうと四肢に力を込めるが全くびくともしない。八号はなす術も無く崩れ落ちていった。
***
気が付くと八号は、何もない暗黒の上に立っていた。否、浮かんでいた、という方が適切かもしれない。
――あれ、俺は何をしていたんだっけ?
なぜ自分がここにいるのか、今まで何をしていたのか、全く思い出せない。
周りを見渡すが、見る限り上下左右前後どの方向にも無限に闇が広がるばかり。まるで星の無い宇宙を漂っているような感覚に陥る。
そんな闇の中、八号以外にあるものが一つ。
それは男だった。八号の目の前に、ある男がいた。その男は真っ直ぐにこちらを向いて立っている。
「焦るな。感情に負けるな。もっと冷静になれ」
目の前の男は言った。その声には靄がかかっているようで聞き取りづらい。男の正体が気になる八号だが、その顔は闇に隠れていて見ることができず、誰なのか判断できない。
「お前は、誰だ?」
まず八号は問うた。その問いに男はこう返す。
「俺からは言えない。それよりも、とにかく落ち着け。三号もお前の復讐なんか望んではいない。おっと、まずいな。後は自分の力で頑張ってくれ」
男は八号にそう告げると、闇へと消えていった。
そして男がいなくなると同時、八号の意識は再び現実へと戻って行った。
***
八号が目を開けると、スーパーの床が鼻の先まで迫っていた。
「危ねえ!!」
咄嗟に両手を突き出し、バネの要領で即座に立ち上がった。辺りを見回す。見えるのはスーパーの内装と、木刀を持った一号。
――そうだ、俺は三号を殺されてこいつと戦っていたんだ。そして、いつの間にか気を失って時間が……。いや、俺がまだ転んでいなかったということは、とても長く感じたあの時間は実際には一秒もなかったのか。それより、あの男は誰だったのか。俺がいた場所は何処なのか。何故俺は―――。
数々の謎が逡巡する中、男に言われるがままに八号の頭は冷やされていった。自分でも驚きを隠せないほど、急速に感情が冷めていく。まるで魔法でもかけられたみたいに。そしてそれに比例するように、男の言葉が思い出される。
『とにかく落ち着け。三号もお前の復讐なんか望んではいない』
――あいつの言うとおりだ。三号は絶対に復讐なんか望んでいない。さっきの一号の発言は癪に障ったが、あんな見え見えの挑発に乗る必要もない。いずれにせよ、このまま戦っても勝つ方法がわからない。いや、確実じゃあないが方法はあるな。それに賭けるか。
今の八号は、当人でも不思議なほど冷静だった。信じられない速さで思考が進む。
「どうしたの?攻撃はもう終わり?」
黙り込んだ八号を一号は、お前の剣はその程度なのか、と嘲笑する。
八号は、一号が攻撃してこないのを確認して自身の剣を床に置いた。
「ああ、どうやら俺の剣じゃあお前は倒せないみたいだな」
八号の言葉に一号は不思議そうに目を瞬かせた。つい先ほどまで理性を失っていたやつが突然冷静になり突拍子もないことを言い出したのだから、驚くのも無理はないだろう。
両者が傷つかずにこの無駄な戦いを終わらせるには、一号の心が揺れている今しかない。
―――ここからは、賭けだ。
「なあ、俺のことを見逃してくれないか?」
突然の提案に眉をひそめる一号。やはり順調には進まなそうだ。
「そうやって自分だけ逃げようっていうの?」
――予想通り攻撃的に返してきたな。一号が俺に対してこんなに強気になれるのは、性格の問題もあるが、主な理由は一号が俺に確実に勝てると思っているからだろう。
だから、そこを突く。
「別に逃げるわけじゃない。正当な取引だ」
八号は一号が視認できる範囲でスーパーの中を歩きながら問うた。
「これのどこが正当だって言うの? 第一、あなたと私では置かれている立場が違うのよ?」
「全くもって正当だね。いや、立場に関しては俺の方が上かもな」
「あなた、舐めないで。やろうと思えばあなたなんて直ぐに殺せるのよ」
自分の安全と、もう一つの理由から八号は一号と距離をとった。
「まあそう焦るな。それより一号、この世界で勝敗を決めるのは何だと思う?」
不意に飛んできた質問に、一号は疑問を感じながらも答える。
「そんなの、強さじゃないの?」
「ああ、強いものが勝つのは世の常だ。だが正確に言うと少し違うな」
「な、何よ……?」
よし、一号は今俺の話に興味を持っている。そして、俺に注目している。
「この世界で勝敗を決めるのは、能力だ」
「…………何が言いたいの?」
「言い換えれば、この世界で一番重要なのは能力だということだ」
「だから、何が言いたいのよ」
「話を戻そう。俺の方が立場が上だと言える理由についてだが」
八号は一旦歩くのを止め、一号の方に向き直る。
「情報っていうのは時と場合によっては武力よりも強い抑止力になる。俺はお前の能力を知っているが、お前は俺の能力を知らない。俺はまだ能力を見せてないからな」
「強がらないで。私だってまだ能力を見せてないわ」
一号は木刀を正面に構えて一歩踏み込んだ。
「おっと、そのまま攻撃していいのか?」
八号は両手の間で三角形を作るように、自身の手のひらを胸の前にかざした。
勿論、八号が手をかざしたところで何も起こらない。これは完全なブラフだ。だが八号の能力をしらない一号にとってはそれも一見、脅威に見えている。
「な、何をするつもり?」
「それ以上お前が近づいたら、撃つ」
撃つ、という危険を感じる言葉に反応し、一号の動きが止まった。八号はタイミングを見計らって予め予測していたことを言葉にする。
「お前、目が強化されただろ?」
「な、何を根拠に―――」
一号の声が、ほんの少し震える。一号が無意識に起こした少しの動揺を、八号は見逃さなかった。
「理由ならちゃんとある。まず最初に、お前は自分の木刀を構えずに俺の剣を避けた」
「そんなの、武術とかやってたら誰でもできるわよ」
「いや、違うな。もし武術を習っていたなら、なおさら構えるはずだろう。その構えが一番戦い慣れていて、確実に勝つ確率は上がるからな。だがお前は構えなかった。そこからわかるのは、『武術をやっているが、それを使わなくても問題ない手段があった』もしくは『武術はやったことがないが、それでも戦える手段があった』のどちらかだ。いずれにせよ、何かしらの考えがあったのだろう。ここで問題になってくるのは『なぜ俺に勝てると考えたのか』ということと、『その手段とは何か』ということだ。前者は、まあ、三号に勝ったことで自信がついたのが主な理由だろう。後者に関してだが――」
一気にまくしたてる。饒舌になり過ぎたと自分で反省して一息入れ、今度はゆっくりと話し始めた。
「人が戦いで生き残るには二種類ある。『負けない』と『勝つ』だ。分かり易く言うと、最強の盾を持った兵士は誰にも破られないため生き残り、最強の矛を持った兵士は必ず突き殺せるため生き残るということ。その内、お前の場合は人に負けない能力―――つまり敵の攻撃を防ぐ、いや、避ける能力を手に入れた。違うか?」
そうであってほしい、という八号の願望も含めた推理。間違っていては、今までの行動が水の泡になるどころか、生死が危うい。
「…………」
「ここで種明かしだ。今まで俺が歩き回っていたのは、お前に能力を浪費させ、疲弊させるためだ」
「…………」
一号は、八号の問いに答える様子もなく、黙って俯いている。
これは肯定した合図だと捉えていいのだろうか。いや、まだ確定はしていない。あまり気は進まないが、少し煽ってみるか。
「何を俯いているんだ? どうした、早く能力を使って俺を倒してみろよ?」
「…………ってるわよ……」
一号は小声で囁くが、八号の耳に届く声量ではなかった。
「え?」
「そんなのわかってるって言ってんのよ!!」
一号は腫れ上がった目で八号を睨み付けた。赤くなった双眸からは一滴また一滴と雫が滴り、頬を伝ってスーパーの床を濡らしている。
どうやら感情が飽和して泣いているらしい。これは予想外、いや予想以上だ。
「さっきから何なの!? 急に冷静になったかと思ったら説教始めて……まじでうざいんだけど! 私の能力だってばれてるし、でも私はあなたの能力わかんないし……ああもう! どうすりゃいいのよ! さっきから涙は止まんないし……もう何が何だかわかんないよ……」
一号は腰から崩れ落ち、未だ止まらない涙を小さな手で必死に拭っている。その声は耳を塞ぎたくなるほど悲痛で、ただただ悲しく周囲に響いた。
三号を殺したことは絶対に許せないが、目の前で女の子が泣いているのに平然としていられるほど八号の心は冷酷にはなれなかった。
「な、なあ……もう終わりにしないか?」
「……嫌……よ……まだ私は……戦えるから……」
一号は目を擦りながら立ち上がった。しかしその目は彼女の意思に反して、不自然なほど止めどなく涙を流し続けている。一号がいくら拭っても、彼女の目は言うことを聞かない。
流石に違和感を覚えた。
――あの涙は何故流れてるんだ。悲しいから? 怖いから? いや、俺は大きな勘違いをしているのでは―――。
「なあお前、もう限界だろ。本当は今殆ど周りの景色が見えていないんじゃないのか?」
あれは感情によるものではなく、目に負担がかかり過ぎたせいだったのかもしれない。そう考えると、一号が急に取り乱したのも合点がいく。
「煩いわね……まだ戦えるって、言ってるのよ……」
そう言ってこちらを見据える一号。その目は虚ろで、明らかに焦点が合っていない。このままでは危険なのは明白だ。
「おい! もう能力を使うのは止めろ!! 一生目が見えなくなるぞ!!」
「嫌よ……私はあなたを―――」
言い終わる前、一号は全身の力が抜けたように俯せに倒れた。八号は驚いて彼女に駆け寄る。
「おい! しっかりしろよ、おい!」
何度も確認したが、一向に返事は返ってこない。それどころか、彼女の額には不自然な汗が流れ、目を固く瞑り何かに魘されるように苦悶の表情を浮かべている。
「どうすりゃいいんだ」
八号に残された選択肢は三つ。
一、一号を保護し手当する。
二、このまま放置する。
三、ここで一号を殺害する。
……そんなの、考えるまでもない。
「くそ、三号の敵に何をしてるんだよ俺は」
結局、ぐったりとした一号を抱えて、ひとまず時計塔へと向かった八号だった。
――――――――――――――――――――――――――――—————————
一号
性別:女
人物:JK。ポニテ。よくいるヒロイン的性格。
二号
三号→脱落
性別:女
人物:茶髪。ショートボブ。可愛い系。
四号
五号
性別:男
人物:メガネおじさん。優しそう。五十代。
六号
性別:男
人物:パツキン。パリピ。喧嘩好きそう。二十代。
七号
性別:女
人物:お母さん的な。三十代。茶髪。おっとり。
八号
性別:男
人物:主人公。童顔。童貞。高校生。
九号
十号
性別:男
人物:メガネくん。大学生。優等生って感じ。
謎の男
人物:謎の空間で八号と会った。上から目線でアドバイスしてきてちょっとウザい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます