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「可愛いね、名前、何て言うの?」
「いと、です。ひらがなで、いと」
「へぇ、可愛いね」
「今どきの名前じゃないかもしれないんですけど、ほらあたしってバカでしょう? だからひらがなの名前にしたんですぅ」
「え、ウソだぁ」
「えへへ、ウソです」
なんだよ、可愛いな、全く。
「あたしの名前、漢字で結ぶって書いてユイって読むんです。嬢の時も源氏名が良く分からなくて本名のまましていたんですけどね」
俺が初めてユイちゃんに出会ったのは彼女がキャバクラに勤めていた時だった。ユイちゃんは昔の男に利用されてしまってボロボロの状態で嬢の仕事していた。けれどその辛さは顔には出さなかったらしい。そんな状態でも頑張って笑っている彼女に心を惹かれる人は俺も含めて多かったと思う。
「あの頃はとにかく一生懸命に働いていて、お金を返すことに必死で、でもそんな時にゆぅくんと出会って。まさか結婚までしてくれるとは思いませんでしたけどぉ。ゆぅくんと結ばれて、すごく優しくしてくれて、それから子供が出来て。名前はゆぅくんが決めてくれたんですけど、あたしの名前が綺麗だからって、漢字の左っかわをとって“いと”にしてくれたんです」
「へぇ、素敵だね」
さすが噂のゆぅくん。ユイちゃんに駅で一目ぼれしてからずっと彼女の事を溺愛してくれて、俺もなんだかグッときてしまう。おじいちゃんじゃなくて父親の心境か。
「はいっ、素敵でしょ。すごくかわいいんです」
「だろうね」
だっていとちゃんを見るユイちゃんの表情が本当に幸せそうだから。大好きって気持ちが溢れ出ているから。
「こりゃいとちゃんもユイちゃんに似て美人さんになるなぁ」
眉の形とかユイちゃんにそっくりだし。小柄で色白だし、将来有望だなぁ。
「えへへ、そうじゃないと困りますよぉ」
「え」
「だってゆぅくんに似たら、いとがかわいそうじゃないですかぁ」
「それ、旦那さんの前で言っちゃダメだよ?」
「良く分からないけど、もう諦めたって言ってました」
にこーっと笑うユイちゃん。悪気がないのが良く分かるから、旦那もそうなるわな。
「大丈夫、きっとかわいい子になるから」
「わぁスカイさんもそう思いますぅ?」
思う思う。きっと素敵な家族になるんだって。傷つけられる辛さを知っているユイちゃんなら、きっと笑顔の溢れるあたたかな家庭を築けるはずだから。
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