第64話 発射テスト

 次の日、いつものように学園に登校し、昼休みを迎えた。今日は、シンヤと学園内のテーブル付きの青空ベンチで弁当を食べていたのだが、そこに赤崎さんがやって来た。


「なんだよ、レオナ。何か用か?」


 シンヤは食事を終え、テーブルにうつ伏せになっていたのだが、顔だけ起こし、赤崎さんの方を向く。


「いえ、別にこれと言った用事はないんだけど……。ちょっと気になったことがあったから……」

「気になることって?」


 僕は赤崎さんに問う。


「いえ、ここんとこ数日、あなた達ふたりが一緒にシンヤの家に向かってるのを良く見るから。なにか悪いことでもしてるんじゃないかと思って……ね!」


 ……これが女の勘というやつなのだろうか……。赤崎さんに知られたらパチンコ開発は中止に追い込まれてしまうだろう。でも大丈夫だ。こんな時に備えて事前にシンヤと対策はしているのだ……!


「僕がシンヤに勉強を教えてもらってるんだよ。相変わらず講義が全然わからなくてさ……」

「ふーん……。シンヤ! アンタちゃんと教えることができてるんでしょうね?」

「馬鹿にすんなよ! お前なんかよりよっぽど上手く教えてるっての! なあ、シュウ!」

「う、うん」

「どうせ、また、イメージ、イメージって言ってるんでしょ」

「だーから! 馬鹿にすんなっての!」

「ま、いいわ。危ないことはしちゃダメよ。二人とも!」


 赤崎さんはそう言うと、その場を立ち去って行った。


「ナイスだぜ! シュウ!」


 シンヤは満面の笑みで僕にサムズアップをする。僕は苦笑いで答える。赤崎さんに嘘を吐くのは忍びないが、僕としてもパチンコ開発を中止されるのは避けたい。シンヤのならず者をぶっ倒すという使用用途はともかくとして、一つのハイテク機器の開発に携わることができるのは個人的に楽しいのだ。


 講義が終わり、シンヤと僕はラボに向かう……。


「よーし、じゃあ早速これを着てくれ!」


 シンヤは例のごとく、僕にSSSを手渡す。僕は着替えていると、SSSの左腕の部分に直方体の小さなボックスが取り付けられていることに気が付いた。ボックスには細かく穴が開けられていた。


「シンヤ、この左腕に付いてるのなに?」

「ああ、小型風速計だよ。中に風速計が入ってんだ。穴が空いてるのは風を通すためだな。小さいし、あんまり目立たないだろ?」


 風速計か……。これで風速と風向を計って、その情報を受信したSSSが修正してパチンコを発射するわけだな。


「よーし、そんじゃあ今日は予定通り、昨日のデータを元にSSSにシュウの動きを修正させる実験……というかテストだな。早速始めようぜ!」


 既に僕が着ているSSSとパチンコ、風速計との連動は出来ているとのことなので、僕は的から十メートル離れ、パチンコに付けられているボタンを押し、赤色のレーザーポインタを的の中央に合わせ、距離を計り、弾を発射する。肉眼で確認できるとはいえ、高スピードでゴム弾は射出され……見事に的の中央に命中した……!


「す、すごい……!」


 僕は思わず、口に出してしまう。実を言えば昨日、データ集めのために僕が的に向かって撃った約千発の弾の内、中央に当たったのは5発程度。確率で言えば0・5%程度だったのだ。それが、SSSの補助により一発目から中央に当てることができたのだ。


「シュウ! 感心してる場合じゃねえぜ! テスト続行だ!」


 僕たちはその後もテストを行い続ける。SSSの修正プログラムは凄く優秀だった。結局、百発放って中央に当たらなかったのはわずかに2発。その2発も大きく外れたわけではない……。


「命中確率九十八%。合格だな。よし、次は十五メートル離れた位置から撃ってみてくれ!」

「データ収集は必要ないの?」

「ちょっと距離が変わったくらいで一々、データ収集し直してたら、時間がいくらあっても足りねえだろ? だから、SSSのコンピュータが自動で計算して射出角度や体の動きを修正するプログラムを作ってみた。さすがにゼロの状態から、体の動きを補助させるのはしんどいから、昨日ある程度、人間がパチンコを撃つ時の体の動きをてSSSに覚えさせたってわけだ。シュウの体を使ってな!」

「プログラムのことはよくわからないけど……、とりあえず、これからは距離を離しては撃つっていう作業を繰り返せば自動でSSSが学習してくれるってことだね?」

「そういうことだ! ちゃちゃっとやってこうぜ! そうそう、一発撃ったら、オレの合図があるまで次の一発は撃たないでくれよ!」


 僕はシンヤの言うとおりに十五メートル離れ、パチンコを的に向かって撃ち放つ……! ゴム弾は的の最右端に当たってしまう。中央からは大きく外れてしまった……。


「よーし。次撃つのはちょっと待ってくれよ!」


 シンヤは何やら持っていたノートパソコンのキーボードで作業している。


「シンヤ、何してるの?」

「今撃った弾が的からどれくらい離れてたかをSSSに入力してんだ! よし、終わったぞ! 続けてくれ!」


 僕は頷き、再び十五メートル先の的に向かって発射する……。今度は中央には当たらないまでも、かなり近い位置に着弾する……。SSSの修正が上手くいったらしい。シンヤの入力が完了したら、再び僕は発射する。それを繰り返す……。少しずつだが、着弾が的の中央に寄っていく……。そして、六発目……。


「おお! 中央に当たった!」


 僕はSSSの修正能力の高さに驚きを隠せず、声を上げる。


「まだまだ安心できねえぜ? シュウ、どんどん撃ち続けてくれ! 外れた時だけ、SSSにデータ入力するから、その時だけ撃つのをやめて止まってくれ!」


 その後も僕らは命中率が九十八パーセントを超えるまで撃ちまくった。十五メートルの距離が終わったら二十メートル、二十メートルが終わったら二十五メートルといった具合に距離を伸ばしていった。


「よっしゃ! 三十メートルの距離でも命中率九十八パーセント達成だ!」

「シンヤ、これ以上はシンヤの家の庭でも無理だよ。もっと広い場所でやらなきゃ……」

「そうだな! 今日はこれでおしまいだ! 明日は河原に行ってテストしようぜ!」


 午後九時半、僕らの実験は一旦終了し、解散したのであった。

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