第61話 走り込み

 次の日、僕はシンヤに運動のできる服装でラボに来るように言われた。青色の中学時代のジャージを身にまとい、僕はラボに向かう。そこにはサッカーのユニフォームを着たシンヤが立っていた……。


「シュウ、オレは心を鬼にするぜ?」

「え、なに、どういうこと? てか今から何をするの?」


 戸惑う僕を気に留めず、シンヤは話し続ける。


「前々から思っていたんだが、シュウは貧弱すぎる……。パチンコを撃つくらいで息切れしてるようじゃ駄目だ! ……今日は走り込みを……マラソンをする……!」

「そ、そんな……」


 なんてことだ……。長距離走は僕が一番嫌いな競技なのに……。ちなみに好きなスポーツなどない!


「早速行くぞ! オレに付いて来い!」


 シンヤはそう言うと、凄いスピードで走って行く……。


「ま、待ってよ!」


 僕は急いで、後を追う……。なんて早いペースだ……。僕は必死で走るが、全く追い付かない……。


「ひぃ、ひぃ」


 僕はシンヤが待っている交差点まで何とかたどり着いた……。


「シ、シンヤ……。僕もう駄目だよ……」

「何言ってんだ! まだ、5分の1も来てねえぜ?」

「そ、そんな馬鹿な……」

「取りあえず、これ飲め!」


 シンヤは僕にペットボトルのスポーツドリンクを手渡してくれた……。


「あ、ありがとう!」


 僕はお礼をして、一気に五百ミリリットルを飲み干す……!


「ば、馬鹿! そんな一気に飲んだら腹膨れちまって余計に苦しくなるぞ!」

「だ、大丈夫だよ! それに飲まずにはいられなかったんだ……」

「まあ、いいけどよう……。そんじゃ再開だ! あそこに見えるコンビニで取りあえず待ってるからな……!」


 シンヤは再び凄いペースで走りだす……。あそこに見えるコンビニって……急坂の上じゃないか……。僕はくじけてしまいそうな心持だったが、走り出した。


「ひゅー、ひゅー」


 僕は必死の思いで高音の息を吐きながら、コンビニに到着した……。


「だ、大丈夫か……? シュウ……」

「お腹痛い……」

「だから、言ったじゃねえか! 一気に飲むから……。コンビニのトイレ借りてこいよ……」

「うん……」


 僕はコンビニに入り、用を足す。ついでに飲料水も購入して外に出た。


「今度は飲み過ぎるなよ……」

「うん……。今日はありがとう」

「え?」


 シンヤがこいつ何を言ってるんだ? という目をする。まさか……。


「まだ、終わってないぜ……? 3分の1が終わったってとこだぞ……」

「そ、そんな……」


 まだ、走るのか……。僕の心は絶望に染まる……。それからも同じようにシンヤが先行し、僕が後を追うという構図が続く……。


「シュウ! 頑張れ! あと百メートルだ……!」

「ひゅううう。ひゅううう」


 僕は声にならない声をシンヤに届ける。僕はゴールであるシンヤ宅に倒れ込むように入る。


「あああああ……! やった……! やったぞ……! 僕はやり遂げたんだ……!」


 僕は達成感から、仰向けに倒れたまま、天に拳を突き出す……!


「ありがとう……。シンヤ……。シンヤのおかげで僕はやり遂げることができたよ……!」


 シンヤは感動のあまり、涙を流していた……。


「たった3キロのマラソンで、こんな感動的な構図にしてしまうなんて……。お前みたいなやつ初めてだよ……。変な感情が湧きおこって、情けないやら、哀しいやらで涙、出ちまったぜ……」


 大事なことだから、もう一度言っておく……。シンヤは感動のあまり、涙を流していた……。決して、呆れたり、情けなかったりで涙を流してるわけじゃないから!

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