第59話 トライアンドエラー
翌日、講義が終わったシンヤと僕はラボに向かった。到着すると、シンヤは僕にSSSを手渡し、着るように促す。僕がSSSを着装し終わると、シンヤは改良したパチンコを見せてきた……。
「これが照準装置を組み込んだ新タイプだ! 使い方はこうだ」
シンヤがラボの壁に向かってパチンコを掲げ、柄についたボタンを押す。すると、壁に赤色のポイントが映しだされる。
「おお……」
僕は、レーザーポインタを間近で見たことがなかったので、少し感動して声を出してしまう。良く良く見ると、パチンコの柄の部分に小さな画面が取り付けられていてそこには壁までの距離と思われる数値が表示されていた……!
「おお!」
僕はそのハイテクっぽい仕様に驚嘆する……。
「すごいなシンヤ! こんなものを作っちゃうなんて……!」
「レーザー距離計自体は全然大したことないぜ? どこにでも売ってるからなこんなもんは……」
レーザー距離計なんてものがあるんだ……。知らなかった……。どうも、僕はこういう実務に使うような道具に関して知識が少ない。もっと勉強しなきゃな……。
「ただ、レーザー自体はちょっとばかし強力にしてるぜ! なんせ百メートルまでを正確に測定してもらわないといけないからな!」
……百メートルかぁ。距離はいくらでも良いよっていったけど、結構長い距離だよなあ。
「よーし、そんじゃ早速、実験に入って行くか! シュウ、外に出てくれ!」
外に出ると既に実験準備は完了しているようで、円状の的が描かれた壁が用意してあった。的は直径1mぐらいで、それがダーツの的のように線と色で分けられていた。
「実験方法は簡単だぜ? 今からオレが手本見せるから覚えてくれ!」
「う、うん。わかったよ」
「まず、SSSのシステムを2倍にしてパチンコを構える。柄に付いているボタンを押してレーザーポインタを起動し、赤い点を的の中央に合わせて的までの距離と角度を計る」
「うん、うん」
「次になるべくパチンコの位置を動かさないようにしながら、この特製ゴム弾を親指と人差し指で挟むようにして、ゴムを引っ張り撃つ!」
シンヤの放ったゴム弾は吸いこまれるように的の中央にぶち当たる。
「これだけだ!」
「これだけ!?」
「ああ、この実験、ようはトライアンドエラーを繰り返して、もっとも適切なパワーと角度をSSSに覚え込ませることにある。つまり、データ集めだな。ゴム弾をパチンコで撃ちまくってどういう風に体を動かしたらゴム弾が正確に飛ぶかというデータをSSSに把握させるんだ」
「なるほど、まずは僕が自力で的の中央に向かってパチンコを飛ばす。命中したり、しなかったりするかもしれないけど、そのデータから、百%命中する時の体の動きがどうなっているかをSSSに覚えさせる。そうすれば、僕が間違った力の動きをしていたとしても、SSSが補助して無理矢理、必ず命中する体の動きに修正してくれるってことか」
「そういうことだな。今回のパチンコ開発でシュウに協力してもらう作業を段階分けすると大きくわけて2つになる。まずはデータ集め。とにかく的に向かってゴム弾を数撃ってもらう。次にそのデータに基づいてSSSに的中時の体の動きを覚えさせた上での発射実験。この二つだな。これを距離に応じて繰り返す……頼むぜ? オレは終始、データ収集に専念する必要があるからよ」
「了解! じゃ、早速始めよっか!」
僕はシンヤに言われた通り、システム2倍のパワーで約十メートル先の的の中央にポイントを合わせる。良く狙いを定め、ゴム弾を発射する。
「は?」
シンヤが唖然とした表情でゴム弾の行く末を見る……。僕の発射した弾は僕の2~3m先の地面に埋まり込んでいた……。
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