第55話 ただのパチンコじゃねえんだぜ?
少女の……アスカ・ユアサの踊りは……バレエか何かの踊りなのだろうか? 全く、踊りに詳しくない僕にはさっぱりだ。ユアサ・アスカは三十分ほど踊っていただろうか。結構な長時間だ。あの小さな体のどこにそんな体力があるんだろう。僕なら今頃疲れて倒れているな……。
「あっ。終わった」
僕は独り言をぼそっと呟く。終わったのはユアサ・アスカの踊りだ。時計は午後6時を指し示していた。
「しまった。つい見とれてた……」
この三十分の間、全く論文を読んでいなかった。 アスカ・ユアサの踊りは……何故かはわからないが、僕の眼を釘づけにさせた。不思議な魅力のある踊りだった。……なぜ、僕は魅力を感じたのだろう? 踊りにキレがあったから? 誰もいない中庭で少女が一人で踊っていたから? 単純にアスカ・ユアサがかわいいから? 答えは見つからなかった……。
「っ! 早く帰らなきゃ。もう、寮の夕食の時間だ……」
僕は図書館を後にして、寮に帰宅した……。
翌日、僕はいつも通り、通学路を歩いていた。
「おっす! シュウ!」
シンヤだ。昨日のちょっと沈んだ空気は感じられない。表情も明るそうで安心した。
「おはよう。シンヤ。調子はどう?」
「調子? ああ、昨日、気分乗らないってオレが言ったからか? んなもん飯食ったらすぐ気分良くなったぜ! ラボ集合するの、中止にしなきゃよかったな!」
どうやら、全く尾は引いてないようだ。それなら良かった。
「今日はオレ、サッカー無いからよ。放課後、ラボ集合な!」
その日の講義が終わり、僕たちはシンヤ宅のラボに向かった。シンヤはラボに着くとすぐに、自身のSSSを着込む。
「おーし、ちょっと準備するからよ。待ってくれよ」
シンヤは着替えながら、僕に声をかける。着替え終わったシンヤは、ラボの奥に置いてある箱の中から、Y字型の物体を取り出す。もちろん、先日言っていたパチンコだ。
「どうよ? これ」
シンヤが僕に感想を求めてきた。どうよ? と言われても……大したコメントは僕の頭に浮かんでこない。
「そうだなあ……。ただのパチンコにしか見えないけど……強いて言うなら、玩具のパチンコだったら柄の部分がプラスチックだと思うけど、それは金属製になってて丈夫そうだなあって感じかな」
僕がシンヤに感想を告げると、シンヤはニッと笑う。
「これはな。ただのパチンコじゃねえんだぜ? 今から見せてやるよ!」
ま、そりゃそうだよな。シンヤがわざわざ僕に見せてくるんだ。ただのパチンコなわけがないよな……。
僕らは庭に移動する。シンヤご自慢のパチンコの威力を見るために……
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