第54話 見たことのない踊り
「すまねえな。シュウ……。変な雰囲気にしちまってよ……」
シンヤが僕に謝って来た。僕らは午後の講義に備え、学園内を移動していた。別に謝ってもらうようなことではないのだが……。
「何も気にしてないよ。それよりも二人の方が心配だよ。昔、何かあったみたいだけど……」
シンヤは苦笑いを浮かべる。
「シュウ、悪いけどよ……。身内の問題ってやつなんだ……。詮索しないでもらえると助かる……」
僕は「分かった」と答えた。話したくないことを無理に聞く必要はないだろう。
「そのかわり、相談があればいつでも乗るよ……。……って、僕に相談なんかしても何の役にも立たないだろうけど……」
「そんな事ねえよ。ああ、時期が来たら、お前に相談させてもらうよ……。ちぇっ! なんか気分乗らねえからさ、今日のラボ集合はなしで頼むわ」
僕はまた、「分かった」と答え、講義室に入り席に着いた……。
その日の放課後、ラボ集合の約束が無くなった僕は、図書館の専門書物区画に行くことにした。理由は単純。論文を読むのに必要な外国語の辞書や参考書が多数置いてあるからだ。調べ物をするのにこの場所は最適なのだ。それに一般書物区画は市民に開放されていているのに対し、専門書物区画は川永学園関係者にしか入れない。より静かな環境で学習に集中できるのだ。
「ここにするか……」
図書館は3階建なのだが、僕は入口から一番遠い3階北側の窓際に設置された机で荷物を広げることにした……。入口から一番遠いからか、人が少なく集中できそうな環境だ。
僕は早速、論文を取り出し、読み進める……。慣れない外国語に苦しみながら、辞書とにらめっこを続けながら読み続ける……。……1時間程経った頃だろうか。図書館に備え付けられた時計の針が午後5時30分を指していた。ふと、窓から外を眺めて見ると、図書館と研究棟の間に造られた中庭に妙な人影を見た。その人影は中庭の中央で踊っていた。少女だ……。少女が一人で見たことのない踊りをしている……。
少女の髪は銀髪だった。不思議な踊りと相まってその姿は、とても神秘的に僕の眼には映る。
「アスカ・ユアサ……か?」
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