第53話 命が奪われたら
なんじゃそりゃ。神の矢、シンヤ? ゴッド後藤といい、この付近の学生たちはあだ名を着ける時に二つ名を考えなきゃいけない決まりでもあるのだろうか……。
「まったく、天野くんも一緒に何してるのよ……」
僕は正直に、怖くて動けなかったことを含めて、事の顛末を説明した。
「もう、情けないんだから……。助けを呼びに行くくらいできたでしょ?」
「申し訳ない……」
「おいおい、シュウは情けなくなんかねえぞ。オレをかばってくれたんだからな!」
「アンタが首を突っ込まなければ天野くんは怪我なんかしてなかったのよ? もっと責任を感じなさい、シンヤ!」
赤崎さんが再びシンヤを叱る。シンヤは不満そうに口を開く。
「なんだよ。じゃあ、オレにカツアゲを見逃せって言うのか?」
「見逃せ、なんて言ってないわよ。でも、わざわざアンタがケンカする必要ないでしょ? 今天野くんに言ったように、助けを呼びに行けば済む話じゃない!」
「でも、それじゃあ遅いかもしれねえだろ……。奪われた金が返ってこねえかもしれねえ」
「お金なんて、後で警察なり何なりが取り返してくれるわよ。アンタたちが怪我する方が大変でしょうが!」
「……金なら、そうだな……。奪われても大したことはねえよ。でもよ、それが命だったらどうだよ……。その場で助けられなくて命が奪われたら……」
なんだ? シンヤが物騒なことを……まあ、いつも物騒なことは言ってる気がするが、妙に真剣な口調で話している……。『命が奪われたら』なんて……。ちょっと考えすぎじゃないか? だが、そんなシンヤを赤崎さんが見つめていることに気が付いた。その表情はどこか強張っていた……。
「アンタ……、まさか、まだ兄さんのことを引きずってるの……?」
「当たり前だろ! あん時、オレに力さえあれば……、逃げずに闘えたら……誠さんは……お前の兄貴は死なずに済んだかもしれねえ……!」
「そんなこと……」
赤崎さんはシンヤに何かを訴えようとしたが、僕と目があって言葉を噤んだ。シンヤも少し俯いた格好で握り拳を作りながら、同じように黙り込んだ。しばしの沈黙が流れたあと、赤崎さんが口を開く。
「……とにかく、危ないことはやめてよね……。ホントに心配してるのよ、私……。アンタにまで何かあったら私……」
「……わかったよ。なるべく危ない橋は渡らないようにする。オレも悪かったよ。すまん……」
重い雰囲気がテーブルを包む。僕は二人の間に入ることが出来ず、ただただ状況を見守ることしかできなかった……。
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