第52話 神の矢、シンヤ

 午前中の講義が終わり、シンヤと僕は赤崎さんに言われた通り、学園近所のファミレスに向かっていた。僕らはたまにファミレスで一緒にご飯を食べているのだが、毎回、席は決まっていて、誰もいなければ左奥に座ることにしていた。僕らが到着した時、既に赤崎さんはそのいつもの席で眉間にシワを寄せて腕組みして待っていた。なんか怖い……。


「おっす、待たせたな」


 シンヤがいつもの軽い口調で話しかけた。


「私、もう頼んだから。二人もさっさと頼みなさい」


 やはり、どことなく、赤崎さんの機嫌が悪いように感じる。僕たち何かやったっけ?


「おい、なに、怒ってんだよ? こっちは何もしてないってのによ。気分悪いぜ」

「何もしてない、ねえ」


 赤崎さんはドリンクバーのオレンジジュースをすすりながら僕らの顔を見る。


「シンヤも天野くんも随分顔に擦り傷があるようだけど、一体この連休中何をしていたのかしら?」


 僕らの顔にはまだ治りきっていない擦り傷や切り傷が残っていた。もちろん、カツアゲ事件の時にできたものだ。


「こ、これは……」


 シンヤが「げっ! そのことか」とでも言い出しそうな表情をする。赤崎さんはその表情を見逃さない。


「あらあら、何か口にするのも憚れるようなことでもやったの?」

「……」


 僕たちは沈黙する。


「シンヤ! アンタまたケンカしたでしょ!?」


 赤崎さんが凄い剣幕でシンヤに怒鳴る。赤崎さん、『また』って言ったな。ということはシンヤは良くああいうケンカをしているのか……。


「アレはケンカじゃねえよ……」とシンヤが答える。


 まあ、確かに不良同士がやるケンカかと言われればちょっと種類は違う気がする。僕らにはそれなりの大義名分があった気がする。カツアゲされてる高校生を助けたのだから! ……僕は何もしてないけど……。


「アンタ、今巷でどんな噂が流れてるか知ってる?」

「知らねえよ」

「……ゴッド後藤をぶっ飛ばした二人組の他所者がいる。その内一人は中坊くらいなのに、矢のような、とんでもないパンチを繰り出した。名前はシンヤ。神の矢、シンヤ……。……ですって! 良かったわねぇ。いいあだ名を着けてもらえて!」

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