第46話 一万項目
「それじゃ、早速、やってもらいたいことを説明するぜ」
シンヤが切り出す。僕らはパソコンの前に移動していた。
「なんてことはねえ。やること自体は単純なんだ。まず、第一にシュウの事前信号をSSSに付属した小型コンピュータにインプットしなきゃならねえ。そのためには実際にシュウが体を動かした時に出る事前信号を収集する必要がある。項目はこんだけだな……」
「うわ、こんなにあるのか……」
スーツの作動部位が細かく分かれているだろうことは予想していたが、精々数百箇所だけだと思っていた。しかし、どうやら見積もりが甘かったようだ。ざっと見ても確認項目は一万箇所近くあるようだ……
「人間の体は関節だけでも二百六十近くあるからな……。これを曲げる時、伸ばす時だけでも2倍の520通りのデータが必要になるわけだ。さらに同じ関節を動かす場合でも……例えば膝関節一つとっても、歩く時、走る時で運動量が変わる。もちろんそれに合わせて事前信号も変化しちまう。これでも色々法則を発見して確認項目を減らしたんだぜ?」
シンヤは一体どれくらいの時間をかけてこのSSSを作ったんだろうか。SSS本体はもちろん、おそらく、付属の小型コンピュータ、そのソフト、データ集め……諸々が自作のはずだ。その努力を思うと脱帽する。
「やり方はわかったよ。早速作業に入らせてもらうよ」
「ああ、頼む。まあ、説明の通り、やること自体は単純なんだが、なんせ作業量が多いんだ。少しずつやってくれ2、3カ月くらいかけてもらっていいからよ」
確かに一万近くの情報を入力するのには骨が折れそうだ。
「そうだ。『シンヤの事前信号』と身体能力補助スーツに入力している『本信号のデータ』ももらっていいかな?」
「別にいいけど、あんまり参考にはならねえと思うぜ?」
シンヤはため息を吐きながら答える。
「オレも法則性がないか確認したんだが……、少なくとも、『オレの事前信号』と『人類に共通する本信号』の間に関連性は見つけられなかった……」
僕にも考え付くことくらい、シンヤが試してないわけなかったか……。二つのデータに共通する法則を見出せば作業が効率よく進むと踏んだのだが、どうやら難しいようだ。
「本信号って全人類で共通しているの?」とシンヤに確認すると、本信号については世界で研究が進められ、信号パターンが決まっていることが判明しているそうだ。身体能力補助スーツに関してはこのパターン全てを入力し誰が使っても対応できるようにしている、とのことだった。
しかし、これが事前信号となると、まだ研究が進んでおらず、データも少ないらしい。シンヤも自身のデータだけなんとか採取し、やっとのことでSSSを完成させることができたのだそうだ。どうやら、僕も地道に自分の事前信号データを収集するしか道はなさそうだ……。
「…………一万項目か……いけるかな?…………」
「シュウ、どうしたんだ? ぶつぶつ独り言なんか喋って……」
「いや、なんでもないよ。1日でも早く完成させるよ。待っててくれ」
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