第44話 スーツ
シンヤが信じられないと言った表情で僕を見る。僕が貧弱なことは僕が一番よくわかっている。もう体力面に関して僕は自分のことを諦めているのだ。そんなことよりも気になるのはこっちの方だ。
「それにしても、このタイツ一体どうなってるんだ?」
「タイツじゃかっこ悪いな。スーツって言ってくれよ。すげえだろ、これ。このスーツは平均成人男性の筋力の1.5倍までの力を出すことができるんだ。工事現場や工場での力仕事、介護なんかもだな。そういったところで働く人たちの肉体的疲労を軽減するために作ったんだ。あと、年を取って筋力が落ちた人が装着することで寝たきりを防ぐことにも使えるかもな」
確かに画期的な発明だ。これまでにも、肉体労働の補助をする装置は作られてきた。だが、どれも機械のアームを体に装着させて補助するものばかりだった。小型化も図られてきたが……それでも取り着けの煩わしさや狭い場所では使いづらいといった問題点が残っており、なかなか普及していなかったというのが現実だ。もちろん金銭的な問題もあっただろうが……。しかし、シンヤのタイツは服の下に着ても目立たないくらいに薄いし、装着も容易だった。値段さえクリアすれば、すぐにでも普及するに違いない。ただ、僕はそんなことよりも気になることがたくさんあるのだ。
「こんなに薄いのにどうやって成人男性の1.5倍の力をだせるのさ!? 人工筋肉はどこに付けてるの!?」
人工筋肉とは筋肉の代わりをする装置のことを言う。アームを取りつけて補助するタイプの場合はアーム部分のことを指す。しかし、シンヤのスーツには人工筋肉となりうる装置は着いておらず、布切れだけだ。
「人工筋肉はこのスーツ自体だ。このスーツに使われてる生地がみそでよ。この生地のなかにはすごく細くした金属繊維が入ってんだ。この金属繊維は電気が流れることで形状が変化する特殊なもんなんだ」
「じゃあ、その形状の変化を人間の生体電位信号とマッチングさせて装着者が動きたい方向に合わせて金属繊維を曲げることで筋力を補助してるってこと?」
「そのとおり。生体電位信号の読み取りは背中の首元に付けられた小型コンピュータで行って、小型コンピュータはそこから各部に電気を送り、金属繊維を……スーツを動かすってわけだ」
シンヤがハイテクというだけのことはある。僕が装着した感じ、動きにくい、パワーが上がっていないと思う体の部位はなかった。つまり、それだけ、スーツが作動する部分が細分化され、体の隅々までパワーがあがるように設計されているということだ。十、二十ということはないだろう。もしかしたら数百か所は作動部位が分かれているのかもしれない。その処理をあの小型コンピュータ1台で、しかも高速度で行っているわけだ。これがハイテクでなければ、世のコンピュータはすべてローテクになってしまうだろう。
「シンヤ、すごいよ! こんなの作っちゃうなんて」
「だろ?」
シンヤがドヤ顔をする。それだけの自信作ということだろう。でも僕にはまだ知りたいことがある。
「でもシンヤがカツアゲの時、着てたのはこのスーツじゃないんだろ? それも見せてよ」
「やっぱ、気づいてたか」
シンヤがにやりと笑った。
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