第29話 論文を盗む?
「クッソー……。どういうことだよ」
なんで、ドイツ語で書いてるんだよ……。アドラー教授はドイツ人だったっけ? そこまでは把握してない。他の教授の論文も図書館でコピーをお願いしたが、英語で書かれているものもそれなりにあったが、それ以外の言語で書いている人が意外にも多かった。まだ、発表しない非公式の論文だから、母国語で書いているんだろう。
ドイツ語、中国語、スペイン語、ロシア語、極めつけはヒンディー語だ。書いている文字が何語かを調べることでさえ時間を要した。
「お、天野君じゃないか」
僕を呼ぶ声がしたので振り向くと石田さんと金山さんがいた。
「図書館で勉強かい?」
「ええ、講義を担当している教授の論文をコピーしに来たんです」
「ふーん。なら、僕らと同じ目的ってわけだね」
「石田さんと金山さんも?」
「ああ」
「あ、俺とこいつは理由がちょっと違うぜ」
金山さんが会話に侵入する。
「俺は単純明快に論文を勉強するためにもらいに来たんだ。でもこいつは違うぜ。論文を盗みに来たんだ」
「え?」
僕は石田さんの方を見た。論文を盗みにだって? それってもしかして……。
「論文の内容を外部に漏らすってことですか?」
「まあ、そういうことになるね。正確には僕の勤め先に渡すんだ」
「ええ!? さすがにだめでしょ! 受付の人も言ってましたよ! 学園外の人に見せたらいけないって!」
石田さんは僕の言葉を聞くと、メガネをくいっとあげながら微笑んだ。
「それは建前だよ。天野くん」
「建前?」
「そう、さすがに公に『自由に持って行っていいですよ』、なんて言えないだろ。無法地帯になってしまうからね。だから、条件を付けているんだ。川永学園の関係者だけ、とね」
「そんなことありえるんですか? 石田さんの思い込みじゃないんですか?」
「君、ストレートにひどいこと言わないでくれよ……。ありえるよ、というか学長自身が言ってたからね」
「学長が!?」
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