第28話 論文を手に入れた
図書館に到着すると、僕は早速受付の人に論文をコピーしてくれるように頼んだ。
「それでは、論文名と研究者名をこちらの用紙に記入してください。後、学生カードの提示もお願いします」
受付の人が事務的に回答する。分りました、と言ってみたが良く考えてみると、論文の名前など知らないことに気付いた。
「すいません。論文名が分らないんですけどどうしたらいいですか?」
「そうしましたら、教授名だけ、取りあえず記入していただけますか?」
僕はアドラー教授の名前を記入して受付の人に渡した。記念すべき1回目の講義を担当した教授だ。
「少々お待ち下さい」と言って受付の人は奥の部屋に入っていき、1分ほどで帰って来た。
「アドラー教授の論文でお渡し出来るものはこれだけあります」
受付の人がリストを見せてくれた。そこには論文のタイトルと思われる英語の文字列に番号が振られていた。六十五本ほどの論文をアドラー教授は発表しているようだ。
「これをお願いします」と僕は六十番のタイトルを指さした。アドラー教授が講義した内容である「蛍光蛋白質を用いた生細胞非破壊観測法」と書かれていたからだ。
「それでは、三十ページありますので、百五十円いただきます」
僕は代金を支払うと、印刷を待った。待っている間、受付の人に確認したが、公式に発表されているものであれば、世界中の論文が印刷できるらしい、と言っても川永学園が特別というわけではなく、どこの大学でも同様のサービスを行っているらしい。特別なことがあるとすれば川永学園の教授の論文については非公式のもの、つまりまだ世間に発表していないものも取り扱っており、それを渡せるのは川永学園の関係者だけということだった。したがって、学園外の他者には見せてはいけないと何度も念押しされた。ちなみに「蛍光蛋白質を用いた生細胞非破壊観測法」は非公式の論文だった。まだ世間に発表していないものを講義で説明するなよ……。
「こちらがお求めの論文となります」
「ありがとうございます」と言って僕は論文の入った封筒を受け取った。
さっそく、封を開けて確認する。タイトルは英文で書かれていた。論文は基本、世界的に普及している英語で書かれるものだから、そこに戸惑いを覚えることは無……。
「え?」
僕は止まってしまった。そう、普通、論文は英語で書かれるものなのだ。そうなのだが……。僕は思わず、論文を叩きつけて、大声で突っ込んだ!
「なんで、ドイツ語で書いてんだ!?」
「図書館ではお静かに!!」
受付の人の怒号が静かな図書館に響き渡った……。
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