第26話 カフェで勉強会④

「ま、私もあんまり天野くんのことバカにできないのよねえ……。私の場合、入学したときに教科書読んでなかったから……。天野くん以上に悲惨な状態だったわ……。今思い出しても腹立つわ……。理解していない私を見て何も言わずにバカにしてくる栗江の顔!」


 その頃から栗江と仲悪かったんだな……。ま、栗江の性格の悪さは僕も知ってるとおりだ。今更驚くことでもない。栗江のことは取りあえず触れずに、赤崎さんに対処方法を聞くことにしよう。シンヤに聞いても、天才的過ぎて参考にならない。


「赤崎さんは事前に教科書読んでなかったんだ……。でもさ、赤崎さん成績優秀な方だよね、どういう風に勉強したの?」

「とりあえず、教科書を1週間で読んだわ。専門書ってのはホントに読みづらいわよねえ。分からない用語が出てきたらそれを調べなきゃならないし……」

「1週間?」


 あのページ数の教科書たちを1週間で読み終わったのか!? 僕も教科書は全て読んでいるが、それは入学前からコツコツと読んできたからだ。とてもじゃないが、講義を受けながら、1週間で読み切れる量じゃない……


「シュウ、こいつの勉強方法聞いたってそれこそ参考にならねえよ。ちょっとこれ読んでみろよ」


 シンヤは「身体接続同期論」とかいうタイトルの本を僕に渡した。僕が見たことのない教科書だ。


「最近発売されたばかりの本だ。レオナも読んだことないと思うぜ。それじゃ、1分でどこまで読めるかやってみるぞ。十ページの本文からスタートな! よーい、どん」


 シンヤは腕時計のボタンを押した。ストップウォッチ機能が付いているのだろう。1分で読めだって? 無茶を言うなあ。十ページを開いて、本文を読んでいったが……


「はい、終わり。1分経ったぞ」


 なるべく早く読んだけど、最初の見開き二ページ位が限界だった。しかも、文字を目で追っているだけで、内容を理解しきっているわけでもない。


「まあまあ、良いんじゃね? 普通の人よりは十分早く読めてると思うぜ。んじゃ、次。レオナの番な」


 僕が赤崎さんに本を渡すと、シンヤは再び「よーい、どん」と掛け声をかけた。いや、シンヤがこんなことを言い出したのだ。予想はしていた。していたが…… 赤崎さんはとんでもないスピードでページをめくっていく、シュババババッと音が聞こえてきそうなくらいだ。


「はい、終了」


 シンヤが合図を送る。赤崎さんが読んだページ数は二十ページ程度だろうか。単純計算で僕の十倍のスピードで読んだことになる……。


「やっぱり、読みにくいわね。専門用語が入ってくると……」

「それじゃ、質問、この本のタイトルにもなってるけどよ。ここでいう同期ってのはなんだ?」


 シンヤが赤崎さんに本の内容を質問している。ちゃんと読めているか確認するためだろう……。間髪入れずに赤崎さんが答える。


「簡単に言うと生体信号と義手の動きをタイムラグなしに動かすこと。これまでの義手にも生体信号を受けて指を動かすものはあったけど、どうしても生体の手よりも反応が鈍くなっていた。この専門書ではそれを防ぐ手立てを書いてるってことらしいわよ」

「まあ、正解だな。付け加えるなら、これまでの義手は生体の本信号を受け取ってから作動していた。でもそれだと、レオナが説明したとおり、タイムラグが出ちまう。そこで人間が無意識で出している本信号前の事前信号を受け取って義手を動かそうってわけだ」


 聞くまでもなく、赤崎さんは本の内容を把握していた。あのスピードの速読をしているにもかかわらず、だ……


「な、参考にならねえだろ?」

「うん……」


 シンヤが僕に確認する。僕は力なく頷いた。

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