第22話 まずい、まずい!

「まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!」


 僕は寮の自室で、頭を抱えて一人言をつぶやいていた。いや、つぶやいていたというにはあまりに大きい声で叫んでいただろう。他の寮生に聞こえるかもしれないと思い、僕は口を押さえた。「まずい」という言葉は僕の焦りの感情を表した言葉だ。あまりに僕は追い詰められていた。



 川永学園に入学し、講義が始まって一週間が終わろうとしていた金曜日だ。僕の心は焦りと不安で支配されていた。この一週間受けた全ての講義、結局僕はどの講義も全く理解することができていなかった。1日目が終わった時点で、嫌な予感はしていたが……まさか、1講義も理解できないとは思わなかった。

 シンヤは理解できているらしいので、思い切って教えてもらったのだが…… 


「シュウ、イメージだぜ、イメージ! 超ひも理論とかはイメージできんだろ? それと一緒だ! それぞれの教授が持っているイメージを感じとれ!」と、とても理系とは思えない体育会系のノリで解説してくる。放課後に時間をもらって教えてもらおうとしたのだが、「悪いなシュウ、今からサッカー行かなきゃなんねえんだ! そうだ、お前も来るか!?」と勉強のお願いは断られ、遊びに誘われた。


 なんでもシンヤは近くの中学校のサッカー部に顔を出し、練習に混ぜてもらっているらしい。僕には考えられないコミュニケーション能力だ。スポーツに全く自信のない僕はシンヤの誘いを「勉強するから……」と断った。シンヤは「なんだよ、ノリ悪いなあ。スポーツもしねーと、頭働かねえぜ?」と言いつつも無理に誘うことはなく、学園外へと消えていった。その後、僕は寮に戻り「まずい、まずい」と頭を抱えていたという訳だ。


 一応、どの講義も板書されていたことは1文字も漏らさず、ノートに書き留めたのだが、読み直しても理解できないから、ただの呪文にしか見えない。お経でも読んでるような気分だ…… このままでは埒が明かない! 僕は恥を承知でケータイのメッセージアプリで助けを求めることにした。赤崎さんとシンヤに……。


「『明日土曜日だけど二人とも暇? 一緒に勉強してくれませんか?』と」

 僕はメッセージアプリの送信を押す。


『しゃあねえなあ。午前中だけだったら良いぜ?』、『駅前のカフェで良い? その代わり何かスイーツおごってもらうから!』、二人から承諾の返事をもらった僕は『ありがとう』と返事を打った。

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