第21話 決起集会

「さて、後輩諸君、学園には慣れたかしら?」


 赤崎さんが僕とシンヤに質問してきた。


「んなもん、まだ慣れるもくそもあるかよ。初日の午前中が終わったばっかだろうが」

「まあ、確かにそうね」

「講義が思ったより大変そうなイメージかな。教科書理解すれば何とかなるだろと思ってたんだけと……」

「かなり特殊らしいわよ。うちの学校。他の大学じゃさすがに教科書の内容をやらないってことはないらしいから」

「おい、飯食うときまで、勉強の話すんなよ。まずくなるじゃねえか」

シンヤはポークステーキを頬張りながら、発言する。


「ははっ、そうだね」

 僕らはそれぞれ自分が注文した食事を食べ始めた。皆お腹が空いていたのか、食べてる間は誰も口を開かなかった。食べ終えて口を開いたのは赤崎さんだった。


「そういえば、いきなり『今日集まろう』って言いだしたのは何か理由があったの?」

「大した理由じゃねえよ。レオナとは正月以来会ってなかったし、こっちに引っ越してきてから、まだ会ってなかったからな」

 このファミレス食事会を計画したのはシンヤだったのか……。


「シュウと俺とレオナ、この3人同い年だからこれから頑張ろうぜっていう決起集会にしたいと思ってよ、今日は呼んだんだ」

「へえ、アンタにしては気が利くじゃない」

「レオナと同期入学の栗江だっけか? あいつも同い年って聞いたからよ、呼んだんだけど……」

「栗江!?」

 僕と赤崎さんは一緒になって驚く。


「栗江も今日来るの?」

 赤崎さんがシンヤに確認する。


「来ねえよ。用事があるからって断られたよ。来るんだったら先に飯食わねえよ」

 赤崎さんは安堵したため息をつき、

「全く驚かさないでよねえ。あんな奴と一緒にご飯なんて食べられないわよ」

「なんだよ、お前。そんなに栗江と仲悪いのか?」

「実家に帰るたびにアンタに愚痴言わなかったっけ? 嫌な奴と寮で相部屋になったって。覚えてない?」

「ああ、言ってたな。覚えてるぜ」

「だったら、栗江を呼ぼうとするんじゃないわよ! 大体どこで栗江にあったのよ?」

「お前に会いに寮に行った時だな……。3月下旬くらいだったな。お前実家に帰ってていなかったけど……。そん時に寮母さんに紹介されたんだよ」

 おそらく、僕が栗江の下僕をしていた時期だろう。シンヤと会わなくて良かった……。


「レオナが嫌ってるのは知ってたけどよ、かわいそうだろ? 一人だけ食事に誘わないのは。あと、なんでシュウも一緒に驚くんだ? 栗江を知ってんのか?」

「ああ、僕も同じ寮なんだよ。栗江と……。で、まあ、僕もちょっと栗江は苦手なんだよ……」

「お前もあの寮なのか! てか何で苦手なんだよ? ちょっとおとなしそうだけど、まあまあ美人で、話した感じおしとやかな感じだったぜ? シュウが好きそうなタイプじゃん?」


 僕が好きそうなタイプってどういうことだよ。たしかに見た目は清楚な感じで、お嬢様って感じだが…………タイプだな。そう、見た目はタイプだよ。だからといって、人を下僕扱いするような、ましてや洗脳をしようとするような人間を好きになってしまうほど、僕は愚かではない! 僕が栗江にされたことをシンヤに話そうとした時、赤崎さんと目があった。赤崎さんは首を横に振る。そうだ。赤崎さんに忠告されていたのだ。栗江が横暴であることを話さない方が良い。話せば、栗江から報復がある、と。シンヤにも話さない方が良いだろう……。


「いや、美人だからこそさ、苦手なんだよ。緊張して話せなくなるからさ……」

「ああ、そういうことか」

 シンヤは納得するように話す。とっさについたウソだが、信じてもらえたようだ。


「お前はなんで、そんなに嫌ってるんだよ?」

 シンヤが今度は赤崎さんに尋ねる。


「女同士ってのは、いろいろあるのよ。男には理解できないことがね……。ところで、天野くん、今の話だと私に対しては緊張してないから……。私は美人じゃないってこと?」


 しまった、シンヤに対してはあの弁解で良かったけど、赤崎さんの癇に障ったみたいだ。


「いや、赤崎さんも美人だよ! 赤崎さんの場合は自分から話してきてくれたから大丈夫というかなんと言うか……」

「冗談よ、冗談。気にしてないわよ」

 僕が言葉に窮していると、赤崎さんは少し笑いながら答える。どうやら僕がとっさについたウソを見抜いた上で、少し意地悪してきたみたいだ。

「だいたい、別に好きな人以外に美人だと思われなくてもいいのよ。たった一人の好きな人が自分のことを好きだと言ってくれればそれでいいのよ。世の男全員虜にする必要なんて……」

 赤崎さんが持論を展開していると、シンヤが口を挟む。


「なんだお前、好きな奴でもいんのか?」

「い、いないわよ! 仮定の話よ、仮定の話!」

 赤崎さんが顔を真っ赤にして否定する。どこか慌てているようにも見える。

「なんだよ、そんなに声大きくする必要ねえだろ」

「アンタが変なこというからよ! ったく……」


 赤崎さんは一呼吸置くと、シンヤに問いかけた。

「栗江も呼ぼうとしてたってことは、もう一人の同い年も呼ぼうとしてたわけ?」

「もしかしてアスカ・ユアサのことか? さすがに声かけられねえよ。あんな有名人、住んでる世界違いすぎて、何しゃべったらいいかわからねえしよ」

「ま、そうよね。さすがのアンタも声かけられないわよね」


 そうか、アスカ・ユアサも僕と同い年だったな……とてもそうは見えないけど…… そんなことを考えながら時計を確認すると、針は12時45分を指していた。講義開始の13時まで15分を切っている。


「もう、こんな時間か、お会計して、学校に戻ろう! 遅れちゃうよ」

 僕は二人を促した。


「そうだな。サボろうかと思ったけど、初日から授業バッくれるのはさすがにまずいよな!」

「シンヤ、お前サボる気だったのかよ……」


 シンヤの言葉に少し呆れながら、ファミレスを後にし、僕らは学園に戻るのであった。

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