第18話 初めての講義
「お、もう講師の人来たみたいだな……」
シンヤと昼食の約束をしていると、教壇には既に外国人の教授が来ていた。1限目はたしか、分析化学だったな……。講師はアドリアン・アドラーという名前だったはずだ。
「ハイ、ミナサン。時間ニナリマシタ。ソレデハ講義ヲ始メタイト思イマス!」
発音までネイティブ並みにとはいかないが、かなり流暢な日本語を喋っている。まあ、仮に、流暢でなくても問題ない。この分析化学の講義も含めて、全ての講義の教科書は川永学園入学前に、なんなら受験前に読んだことがあるものばかりだった。内容も理解している。講師が外国人だからといって臆することは何もない。さあ、どこからでもかかって来いってなもんだ。
「サテ、ワタシ、アドリアン・アドラー、教授ヲ努メテイマス。担当ハ分析化学デスガ……コンナ教科書ヲ追ッテイク講義ヲシテモツマラナイトオモイマス。ダカラコウデース」
そういうとアドラー教授は教科書をポーイと床に投げ捨てた。
「『研究者ハ知識ノ習得ニ貪欲タレ』、川永学園ノ素晴ラシイ校訓デース! カツテ、数学ノ未解決問題デアッタ『ポアンカレ予想』ニ対シテ数学者『ペレルマン』ハ物理ノ知識ヲ用イテ、解キ明カスコトニ成功シマシタ。知識ニ貪欲ダッタカラコソ成功シタノデス。サテ、ミナサンハ川永学園ニ入学シタノデス。既ニ『研究者ハ知識ノ習得ニ貪欲タレ』ノ精神ヲ持ッテオイデノハズ。故ニ教科書ノ内容ハ既ニ勉強シテ知ッテイルコトバカリデショウ…… デスノデ、コノ講義デハ私ガ携ワッテイル最先端ノ研究結果ニツイテ皆サンニ紹介シタイト思イマス!」
そう言うと、黒板に『蛍光蛋白質を用いた生細胞非破壊観測法』と書き始めた。そして、つらつらと式を書き、解説をしていく、が正直全く理解できなかった。そもそも蛍光蛋白質など僕は勉強したことがなかった。生細胞非破壊なんて単語も初めて聞いた。なんのこっちゃ、だ。かろうじて分析化学の教科書に載っていた理論が応用されているのだろうと推測することはできたが、確信には至らない。理解できないまま。講義は進んでいき、1限目の80分が終了した。
「ソレデハ、コレデ講義ヲオワリタイト思イマス。来週ハ『パルスレーザーを用いた高速分光技術』ニツイテ講義シタイト思イマス、オ楽シミニ!」
そういうと、アドラー教授は教室を後にした『蛍光たんぱく質を用いた生細胞非破壊観測法』の説明はもうこれで終わったということか?
……全く理解できていないんだが……。
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