第17話 利根川伸也(シンヤ)との出会い

 教科書も購入し、今日からついに講義が始まる……。土曜日に教科書を買いに行ったが、どの教科書も過去に読んだことのあるものばかりだった。正直、既に持っている教科書がほとんどなのだが、改訂されている教科書が多いので、念のため指定された教科書全てを購入し直した。

 

 初めての講義に興奮しているのか、僕は少し早起きしてしまった。カバンに買ったばかりの教科書を詰める。買ったばかりの教科書はどことなく良い香りがして、学習意欲をたき付けてくれる。寮で朝食を食べ、学園に向かう。ちょっと着くのが早すぎたかな……。講義開始の時間までまだ30分以上ある。しかし、校内で突っ立ていても仕方ない。講義室で座って待つことにしよう。


 講義室に到着すると、扉前のカードリーダに学生証をかざして鍵を開けて中に入った。するとそこには既に先客がいた。金髪のツンツンヘアー、耳にはピアスが空けており、ズボンにはチェーンが付いている。見た目は不良としか思えない男が机に突っ伏して眠っていた。僕が教室に入って目覚めたのか、こちらの方を見て来る。目付きも悪い。年齢は僕と同じくらいだろうか。


「おはザース」

「お、お、おはよう……」

 男が朝の挨拶をしてきた。僕はどもりながら挨拶し返す。僕は不良が苦手なのだ。


「ん―? お前もしかして、玲於奈(レオナ)が言ってた天野ってやつか?」

「え?」

 レオナ…… 赤崎さんのことだな。じゃあもしかしてこの男が……


「君、もしかして利根川くん?」

「おう、利根川伸也っていうんだ。よろしくな! ま、レオナから俺のことは聞いてんだよな」

「う、うん。聞いてるよ」

 金髪の不良とは思っていなかったけどね……。


「僕の名前は天野秀一郎、よろしく利根川君」

「おう、堅苦しいのはなしで行こうぜ、シンヤって呼び捨てで頼むわ。俺も秀一郎は長いからシュウって呼ぶからよ。いいだろ?」

 シュウ……か。あだ名で呼ばれるなんて小学生以来だな。小学生のときはアマちゃんって呼ばれてたっけ。なんだか照れくさいが、温かい気持ちになる。


「うん、いいよ。僕もシンヤって呼ばせてもらうよ」

「よっしゃ、これでもう俺達ダチだな!」

 シンヤは僕の肩をポンポンと叩く。


「シュウ、お前どこ住んでんの?」

「寮に住んでるんだ。ここから徒歩10分かからないくらいの場所」

「寮かよ。門限とかあんだろ?」

「まあね。18歳までは20時までに、19歳以上は0時までに帰らないといけないんだ」

「はあ? 固っ苦しくねえか、それ」

「まあ、一応決まってるってだけで、、みんな守ってないけどね。寮母さんは19時までには帰るし、鍵はそれぞれ持ってるから」

「ふーん、ま、風呂トイレが共同ってだけで俺は住みたくないね。気使うじゃん?」

「まあ、それは言えるね」


 風呂の使用時間も一応、新入生は19時から20時までの間、2回生は22時から23時の間、というような具合に決まっているのだが、これももう守られていないというのが現状だ。研究室に配属されたりすると、定まった時間に入浴することが難しくなるからだ。幸い、学園内にもシャワールームがあるそうで、そちらを利用する人も多いらしい。


「シンヤはどこに住んでんの?」

「近所にじいちゃんの家があってよ。つっても、じいちゃんもばあちゃんももう死んじまったから、空家になってたんでな。そこ使わせてもらって悠々自適の一人暮らしってわけだ。今度オレんち来いよ。面白いもん見せてやるからよ」

「うん、是非行かせてもらうよ!」

 面白いもんってなんだろうな。まあ、今聞いても家に行くときの楽しみがなくなる。聞かないでおこう。


「お前、今日昼飯はどうすんの?」

「食堂で食べようと思ってるんだけど……」

「今日は食堂やめて近くのファミリーレストラン行こうぜ!」


 せっかくのお誘いだ、断る理由もない。シンヤの提案に乗り、昼休みはファミリーレストランに行くことになった。

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