第10話 赤髪の少女

「栗江、あんたどういうつもり!?」


 赤髪でポニーテールをした女性が怒りの表情を見せ、栗江に問い詰める。


「あんた、天野秀一郎をルームメイトにして何を企んでるの?」

「何も企んじゃいないわよ」

 しばしの沈黙が流れた後、赤髪の少女は栗江に対して質問を行う。


「あんたが私とのルームシェアを頑なに断ったのは天野秀一郎と同部屋になるためだったのね。抜かったわ」

「赤崎玲於奈(あかざきれおな)。やっぱりあなたちょっとお頭が弱いわね。それとも私よりも入ってくる情報が少ないのかしら?」

 赤髪の子は赤崎玲於奈さんというらしい。


「くそっ! こんな事態になるなら実家に帰省するんじゃなかったわ。天野秀一郎、こいつにひどいことされてない?」

 赤崎さんが僕に問いかけてくる。


「いや、まあパシリをさせられたり、肩揉みをさせられたりはしましたが……」

「大丈夫そうね」


 赤崎さんは良かったというような安堵の表情を僕に向ける。僕にとってはパシリをさせられるのも十分ひどいことの範疇なのだが、どうやら赤崎さんにとってはひどいことではないらしい。逆に言えば赤崎さんの心中では、もっとひどいことを栗江が僕にしていても不思議ではないということだ。どういうことだよ……


「悪いけどこの事態を見逃すことはできないわ。天野秀一郎は私が預かるわ。良いわね?」

 赤崎さんは、栗江を睨みながら警告する。


「うーん。私の目の届く所に置いておきたいんだけどね。あんた達と敵対するのは避けた方がいいかもね」

「了解と受け取るわよ。さすが、眼鏡をかけているだけのことはあるわね。確かにお利口さんだわ。お頭の弱い私と違ってね」

「あら、気に障ってたのね。名家出身の人間は古い慣習のせいか頭が固い上にプライドも高くて困るわ」

「だまれ! 新興勢力め!」

「頭だけじゃなく、口も悪いのね。直した方がいいわよ」

「ふん! これ以上あんたとやりあう気はないわ。天野秀一郎、さっさと荷物全部まとめなさい! 私の部屋に移動するわよ!」


 赤崎さんが僕に促す。赤崎さんも気の強そうな人だが、栗江のそばにいるよりは絶対に「まし」だ。荷物をまとめ終わって部屋を出ようとしたとき、栗江が赤崎さんに向かって言い放った。


「それ、私たちが思っていたような人間じゃないわよ。期待はずれね」

「そりゃどうも。でも可能性がある以上、ほっとくわけにはいかないわ。それに……それならそれで構わない。わたしはあんなもの嘘だと信じたいのよ」

 赤崎さんはそう言い残すと僕とともに部屋を出た。


「嘘だと思いたい、か……それは私も同感だわ」

 

 部屋から出る間際に発した栗江の独り言が耳に残った。

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