第7話 場所替え

 僕は室内に入って部屋を見る。カーテンで部屋の中央が仕切れるようになっており、最低限のプライバシーは守られる構造になっていた。左右の壁際にベッドと箪笥が、奥の窓際に学習机が窓に向かうように設置されている。

 広さは10畳くらいだろうか。部屋の入り口は左よりに設置されているため、カーテンで仕切られた左側のスペースにまず入らなければ右のスペースには入れない造りになっている。左側にはすでに栗江さんのものと思われる私物が置かれていた。


「それじゃあ、あなたの場所はそっちだから」

 またも栗江さんが不機嫌な言い方で案内する。


「分かりました……。あの、すいません、えーと怒ってます?」

「は?」

「すいません!そりゃ怒りますよね!着替えの最中を覗かれたりしたら……本当に……」

 本当に申し訳ありませんと言おうとした時に彼女がさえぎるように口を開いた。


「なんで怒る必要があるの?」

「え?」


 僕はそこで言葉を失ってしまった。怒ってるわけではない? では今までの不機嫌な言動はなんだったんだろう?


「いいから早く荷物の整理を終わらせてくれる? 隣でガサガサされると集中できないから」


 彼女はそういうと、机に向かって作業をし始めた。何をやっているのか気になったが、覗きこんで確認するような勇気もない。ただでさえ先ほど下着姿をみてしまったのだ。彼女の逆鱗に触れるような行動は慎まなければ……。そう思い僕は、荷物の整理をしようとしたが、あることに気づき手が止まった。


「あのぉ、栗江さん、部屋の場所なんですが、僕と栗江さん入れ替わった方が良くないですか?」

 僕は恐る恐る彼女に尋ねた。


「私は先輩よ。私は去年からここにいるの。あなたが空いたスペースに入るのが当然だと思うのだけど」


 彼女は強い口調で指摘する。確かにそうだ。年功序列はある程度守らなければならないものだ。いや、彼女と年齢は一緒だが……。入学した順番で先輩後輩の関係なのだ。序列は守らなければならない! 僕もそう思う。しかし、それでも変わってもらう理由がある。


「今の配置だと僕は部屋に入るたびに栗江さんのスペースを横切らないといけなくなるんです。そしたらさっきみたいなことに……その……着替えとかそんなのを見てしまう可能性が出てきてしまうので……」


 僕の言葉を聞くと、彼女はまるで当たり前であるかのようにこう答える。


「あなたに着替えを見られてなにか私に困ることがあるの?」


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