第2話 アスカ・ユアサとの出会い(テレビ)
幼馴染が死んだ。それはもうあっけなく。
僕の家の隣に住んでいたその少女はクラスでもかわいいと評判だった。家が隣同士ということもあって家族ぐるみの付き合いをさせてもらっていた。幼稚園、小学校が一緒でよく一緒に通っていた。
小学2年生の時だった……。幼馴染の彼女は突然、病気にかかってしまった。白血病だったと後で聞いた。
「死んだらどうなるのかなあ……」
幼馴染の少女は病室で、お見舞いに行った僕に話しかけてきた。僕は何も答えられなかった。彼女が治ると信じていたし、死んだらどうなるかなんて分からなかったから……。
彼女は間もなく亡くなった。わずか8歳だった。
彼女と同じく8歳の僕にとって、それは衝撃の大きな事件だった。その日を境に僕は変わってしまったのだと、今になって思う。
僕は死に対する恐怖を抱くようになってしまった。いや、恐怖を越え、興味を持つようになっていった。オカルト話の類を中心に、死と死後の世界について調べまくったが、結局、僕が納得するような答えはなく、嘘としか思えないものばかりだった。
「死んだらどうなるのかなあ……」
彼女の言葉が僕の頭の中で蘇る。彼女はどんな思いで最後を迎えたんだろう、と思考を巡らせる。彼女のことを思えば死後の世界があってほしいと願った。でも、調べれば調べるほど……、死の先には無しかないと僕は思うようになっていった。
そんな中、ある時、僕に転機が訪れた。それは公共放送の科学番組をテレビで見ている時だった。
『この度、アメリカのとある大学研究室でネズミの寿命の大幅な延長に成功したそうです。本日はその内容に迫って行きたいと思います!』
アナウンサーが番組内容を解説している。死に興味を持っていた僕にとって、寿命の延長という言葉は僕の目をテレビに向けさせるには十分だった……のだが。
『細胞分裂に限りのあるネズミのDNAに特殊な酵素を与えることにより、寿命の大幅な延長が可能になったということです』
正直言って、期待外れだった。というのも、以前にも同じような内容の本を読んだことがあったからだ。大幅に寿命が延びたというアナウンサーの言葉を聞き、科学の発達はすごいなあとは思ったが……、同じことを聞いても仕方がない、とテレビの電源を落とそうとした、その時だった。アナウンサーの言葉が耳に入る。
『それでは、今回の実験に成功した、若き天才をご紹介しましょう』
若き天才という響きがなんとなく気になり、テレビを消さずに点けたままにした。その若き天才研究者の容姿は僕の想像を超えていた。画面に映っていたのは8歳の僕と年齢が近そうな人物。かわいらしい小さな少女だったからだ。最初は研究者本人ではなく、その娘か何かだろうと思っていた。しかし、テレビのテロップには研究者アスカ・ユアサという名前とともに天才少女という文字が浮かんでいる。名前から僕と同じ日本人であるかと思ったが、アメリカ人らしい。
『今回の実験、どんなところで苦労しましたか?』
アナウンサーが通訳を介して質問する。
『特に苦労はしていません』
アスカ・ユアサは英語で答え、テレビ画面の字幕に言葉が映しだされる。
『この実験結果は人間にも応用できるのでしょうか?』
『応用できると考えています。いずれは人類に不老不死をもたらすことも可能でしょう』
英語は分からないが、受け答えする少女は堂々としていてカッコよかった……。
僕は同年代の少女が最先端の研究をしていることを知り、何故かライバル心を持ってしまった。いや、正確には、大したことがない自分と天才少女を比べ、自分自身の不甲斐なさに対して怒りを覚えたのだ。
「おかあさん、ちょっと本屋に行って来るね!」
テレビ番組が終わると僕は母親にそう言った。
「なに? また、都市伝説とか幽霊とかの本を買いに行くの?」
「違うよ。勉強の本を買いに行くんだ!」
「勉強の本?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます