干渉少女
向風歩夢
第1話 僕と神
その少女は僕がよく知る顔をしていた。もうその顔を見ることはないと思っていた。間違いなく、彼女は死んだのだから。
「君が始まりの神、クロスドか……」
僕は目の前の少女に問いかける。この現代において『神』なんて言葉を生き物に……、ましてや人間に向かって使うことになるとは思わなかった。ただ、彼女の容姿は神と称しても言いすぎではないほどに美しかった。神秘的という表現が似合う、似合いすぎている……。
「あなたがアマノ・シュウイチロウ……」
声までそっくり……か。そりゃ当然だよな。無機質な喋り方もそっくりだ。
「悪いけど、君たちの思うとおりにさせるわけにはいかない」
僕は少女の攻撃に備えて構える。僕が装着している特殊なスーツ『SSS』はとっくにバッテリー切れを起こしている。身体能力強化の手段が失われた今、自前の貧弱な肉体のみで戦うハメになってしまった。
「あなたが私の『干渉』を邪魔するのならば、私は全力で排除する」
物騒なことを口にする彼女の表情は全く崩れない。無表情のままだ……。そんなところまで似るものなのだろうか……。
「君たちがやろうとしているのはただの大量虐殺だ。僕の家族、友達も犠牲になる行為だ。そんなことは絶対にさせない」
僕は語気を強め、彼女に宣言する。僕がここに……彼女の元に辿り着くことができたのは、仲間の協力が……犠牲があったからだ。皆の思いに応えなければいけない。全ては世界を救うために……。
「いや、違うな」と僕は小さくつぶやく。
世界を救うなんて大それたこと、僕にはできない。今になっても、実感が湧かない。自分に特殊な力が宿っているなんて。
「消えてもらう」
まったく感情のこもっていない声で彼女は僕に死の宣告をする。
「空間、切断」
彼女は呟くように言葉を唱える。その瞬間、僕の左腕は包丁で切られた野菜のように鮮やかな断面を残して分離する……。
「あぁああああああああああああ!?」
激痛が僕を襲う。切断された左腕が燃えるように熱い。
「はあ、はあ……!」
大丈夫だ、落ち着け。教えられた通りにやるんだ……。集中しろ……。僕には『能力』があるのだから……。
僕は『能力』を行使する。分離していた左腕が再結合される。結合された手が閉じ開きできることを確認した。無事に左腕の機能は取り戻せたようだ。
「その力は……」
彼女の無表情が僅かに崩れ、目を見開く。
「あなたも『干渉』したのね。『理』に」
ああ、と僕は答える。
「……僕の場合は『干渉させられた』って言った方が正しいけどな……」
そう、僕は『干渉させられた』のだ……。目の前の少女と同じ顔を持った人間に……。
……舞台は、一昔前に遡る……。
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