第18話:グリドラ

「俺はあのじーさんに育てられたんだ」

 リゲルが何かを訊く前にグリドラは言った。

「両親が早くに死んで、身寄りのない俺を引き取ってくれた。丁度機械技術者の後継者が欲しかったんだそうだ。手先は器用だったしやりたいこともなかったからその誘いに乗った。じーさんは後継者を育てられるし俺は衣食住が手に入った。お互いに利益があった」

 作業台でハントを解体している老人を少し離れたところで見守る。

 身体全体は老いているものの、手先の動きは機敏で若々しい。

 何をやっているのかさっぱりわからないリゲルから見ても、その雰囲気は頼りがいのあるものに思えた。

「だけど俺には機械技術者の才能がなかったみたいでな、簡単なものなら何とか修理もできたが当時主流だったアンドロイドとか精密機械になるとてんでダメなんだ。直すどころか修理前より状態を悪くする始末で毎日じーさんと客に怒鳴られる始末。それが嫌になって腹いせに財産のほとんどを盗んで出て行った。出てって密猟者になってからは戻らずじまいで今に至るってことだ。じーさんだって盗人の俺になんて会いたくなかっただろうしな」

 まさかあんなにあっさり作業をしてくれるとは思わなかった。

 門前払いされるだろうと覚悟はしていたが肩透かしをくらったような感覚だ。

 あの感じだと直らないということはなさそうだ。

 数年とはいえ老人の姿を見ていれば修理の難易度くらいは理解できるし、プロとしての意識はあってもできないものはできないと言う性格なのを知っているためでもあった。

 随分と静かだ。

 部品同士が当たる音しか聞こえない。

 何かしら言葉が返ってくると思っていたグリドラが隣に視線を向けると、すっかり眠りに落ちたリゲルの姿があった。

 疲れえていたのかいつの間にか眠ってしまったらしい。

 考えてみれば今朝から行動しっぱなしでまともに休んでいなかった。

 種族が違うとはいえリゲルはまだ子供。

 疲れてしまうのは当然だろう。

 正直に言えばグリドラも疲れが溜まっていたが、老人の前で無防備な姿を晒すのは気が引けたため不思議と眠気に襲われることはなかった。

 昔一緒に暮らしていて子弟の関係であったとは言え、今は被害者と加害者だ。

 老人だって自分のテリトリーで眠られたくはないだろう。

 ハントの修理が終わればすぐに出ていけるようにしておかなければ。

 一体いくら請求されるだろうかと別の心配もある。

 自分の有り金を計算して頭が痛くなった。

 考えてみればジャッカルの毛皮の代金は貰っていないし、そもそも珍しいカウム族であるリゲルやアンドロイドのハントを売り飛ばそうと計画していただけにグリドラの財産はそう多くはない。

 他人の金を盗むほどだ。

 貯蓄やらなんやらを計画的にできる性格でもなく、仕事で得た収入はそのまま生活に回していた。

 支払いまで考えてなかったなと心の中で苦笑する。

 しかし、ここまできたら仕方がない。

 借金をしてでも払うものは払わなくては。

 もしかしたら自分のやったことが巡り巡って戻ってきたのかもしれない。

 そんな風に感じた。

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