第14話:誠
また随分と変わった仲間を連れてきたものだ。
目の前に立ちはだかる少女型アンドロイドに、アユガータは関心のため息を吐いた。
彼の前職の影響だろうか。
今は製造も禁止されている貴重なアンドロイドを所有していたなんて。
昔の伝手で手に入れたのだろうか。
それにしては、随分と薄汚れている気もするが、繊細な機械が詰まっていることには変わりない。
外側に興味はない。
重要なのはその中身だ。
多少傷つき使えない部分が出たとしても、利益は充分にある。
損が気にならない程度の益が。
大量に降ってきたガラスの破片を払いながら、前方の存在達を観察する。
厚着をしていたおかげで怪我は最小限で済んだものの、頬が少しヒリヒリした。
仲間……、仲間なのだろう。
仲間と表現できるほど親しいのかは現段階では判断しかねるが、あれだけ他人に興味を持たなかったグリドラが必死にカウムを自分の元から離そうとしている姿を見れば赤の他人ではないだろう。
天井の窓を破って突入してきたアンドロイドだって後ろの二人を庇っていた。
機械の塊に『庇う』などという思考回路が存在するのだろうか。
少なくとも、アユガータが今までに見てきたアンドロイドは人間の指示に従うだけの機械人形だった。
さて、どうしたものか。
どうしたものかと自身に問いかけている時点でおかしな話か。
この問いかけをアンドロイドに投げかければ、どんな回答が返ってきたのだろう。
あぁ、面白い。
目の前に広がる光景が非常に面白い。
今では製造されることに無い繊細な機械が数え切れないほど詰まったアンドロイドは額に空いた小さな穴から細い煙をあげ、呆気なく倒れている。
自分の価値もわからず庇われたことにも気が付かず呆けているカウムに、彼にとっては何の価値もない1匹と1体をどうやってこの場から連れ出そうか必死に考えているのだろう苦しげな表情を浮かべるグリドラ。
幼い頃両親に連れて行かれたサーカスでも感じたことのない高揚感に胸が熱くなる。
異世界の住人に出会ったような奇妙な感覚がそこにはあった。
カウムとアンドロイドが欲しい。
だが、別の欲が頭をもたげる。
それはいけないと、小さな警告が静電気のように、脳の裏側をバチリと叩く。
だが痛みは一瞬で過ぎ去り、その程度の刺激では動じない欲の存在感を際立たせただけだった。
珍しいこともあるものだ。
アユガータは自分を納得させる文言を頭の中で並べ始めた。
このまま争ったとしよう。
十中八九、拳銃を所持している自分が勝つだろう。
いや、待て。
仮に、かなりの低確率ではあるが銃弾が全て外れたらどうだろう。
小さなカウムはともかく、体格はかなりいいグリドラが本気で殴りかかれば、肋骨が浮き出ているような細身のアユガータに勝ち目はない。
肉弾戦を逃れたとしても、倉庫にある商品に何かされても困るし、そうだ、まかり間違って銃弾が商品に当たってしまってはそれこそ本末転倒だ。
特に信頼や信用のある間柄とは言いにくいが、共に働く仲間達への報酬が減ってしまうのは非常に困る。
不満が爆発すれば、ただでは済まない。
違法な商売に加担している輩にはそれ相応の理由があって当然。
逆に言えば現状に満足している状態であれば彼らはとても従順で、それこそどんな命令でも即座に動いてくれるので、アユガータにとっては都合のいい手足だった。
手足が脳の命令を無視して暴走するなど許されない。
故に、かなり強引なメリットデメリットを十分に熟考した上で彼が出した決断は、グリドラを含むこの奇妙な集団を見逃すことだった。
「そこのカウム君」
アユガータの声に、今初めて彼の存在に気が付いたリゲルが驚いたように顔を上げる。
「君はグリドラさんのことを何も知らないようですので、親切な僕から説明をして差し上げましょう」
なんていいタイミングなのだろう。
折角の貴重な作品の修理の依頼をされるなんて腹立たしくてしょうがなかった案件。
おまけにこちらの保存方法にいちゃもんまで付けてよくタダで直せなんて大口を叩けるものだと、しっかり脅して正規の料金を納めさせてもまだ腹立たしかったあの成り金男を心の奥底でほんのわずかながら褒めてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます