第6話:道のり
「生まれて初めてカウムを尊敬した」
「それはどうも」
「お前らは本当に役に立つな」
真っ暗な穴の中を四つん這いで進む。
夜目が利くとは言っても目の前は土壁。
見えていようがいまいが差して問題はないのだが、後ろを進むグリドラはそうも言っていられないだろう。
数センチ先のリゲルの尻すら見えていない状態らしく、もう何度頭突きをされたかわからない。
そのたびに何故かこちらが文句を言われる理不尽さに腹を立てながらも、人間とはなんて不便な生き物なのかと不憫にも思う。
そもそもどうしてこんなことになっているのかと言うと、街へ行く唯一の道が土砂崩れで通れなくなっていたためだった。
グリドラはその事実を知らなかったらしく、【通りで誰も来ないはずだ】と呟きながら酷く驚いていた。
「ここは道が舗装されている分、ジャッカルが入りこむ可能性も高くなる。最近は獲物が少なくなったせいか、人里にも下りてくるようになったからな。それを防ぐために罠を沢山仕掛けてあるし、一番安全な通り道が断たれたのはかなり痛い」
斜面の崩れ具合からして土砂は大体50メートルは続いているようで、とても通れる状態ではなかった。
「道はここしかないの?」
「あるにはあるが、あまりお勧めはしない」
グリドラが言うもうひとつの道というのは断崖絶壁を通るコースで、足場は30センチもない地層の壁沿いを進むもの。
足場は脆く崩れやすいうえに、むき出しの地層の壁しか身体を預けられるものはない。
幅が極端に狭いため横になって進むことしかできず、足の先には空中しかない。
休憩を取ることもできないそんな場所を数時間も進むなど現実的ではない。
「ジャッカルと戦うよりも生存率は低いだろうな」
ならばどうすればいいのか。
本格的に頭を悩ませ始めたグリドラの横で、リゲルは土砂崩れのあった山肌に注目していた。
街とこの森を繋ぐ道はおそらく、今回の様に土砂が崩れたり地震により沈んだか隆起したことにより自然にできた通り道なのだろう。
山にVの字の切れ目をいれたようなその道のサイドの地層の壁。
爪でひっかくとぼろぼろと簡単に崩れたが、奥には粘土を含んだ湿った土がぎっしりと詰まっている。
ここを掘れば反対側まで出られそうだ。
道沿いに穴を掘り進め、土砂が無くなった辺りを見計らって横に貫通させれば正規の安全ルートで街を目指せるはずだ。
リゲルの提案にグリドラはふたつ返事で賛成した。
「お前、見た目ほどバカじゃないな」という余計なひと言も忘れない。
我関せずでじっと来た道を眺めていたハントに声を掛け、1匹と1体と1人は仲良く縦に並んで横穴を進み始めた。
「もう少し広い穴が掘れれば文句はないのにな」
「だったら黙っててよ」
この中で1番大きいグリドラにはリゲルの掘る穴はかなり狭いようで、息苦しそうに身体をよじる。
その後ろにいるはずのハントに至っては物音ひとつ立てないものだから、本当についてきているのか心配になる。
振り返ったところでグリドラの身体が壁になってハントの姿は見えず、試しに呼びかけてみるも案の定返事は無い。
「言ったろ、声帯機能が壊れてるって」
変わりに望んでいない返事が返ってくる始末。
岩や硬い部分もなく、順調に掘り進める。
そろそろ土砂の範囲を抜けただろうか。
念のためグリドラに問いかけてみると、同じ意見が返って来た。
90度折り曲げるように、今度は左側を掘り進める。
最後の土壁が崩れ、新鮮な空気が通り過ぎた。
「ん?」
風の流れに逆らうように、覚えのある臭い。
グリドラは言っていた。
ここは安全な道だと。
ジャッカルが通り抜けられないよう、罠がいくつも仕掛けてあると。
ならば、今罠が土砂の下敷きになり都合よく横に空いた穴があったなら。
罠のない安全な通り道があったなら――。
「早く出ろ!」
異変にいち早く気が付いたのはグリドラだった。
後ろから思い切り突き飛ばされる。
目測はばっちりだったらしく、リゲルが転がり出たのは崩れた土砂の数メートル先。
綺麗に整備された道の上だった。
「止まるな、走れ!」
息つく暇もなくグリドラに抱え込まれる。
反対側には自分と同じように抱えられたハントの姿。
その視線の先には、今まさに穴を潜りぬけようとしているジャッカルの姿があった。
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