第5話 母の助言

 私は落ち込んだ状態で下校していた。自宅に近づくにつれ、見慣れたいつもの風景が広がってくる。どことなくいつもより周りが暗く感じるのは日が暮れかけているからかな。

 学園に野球部はなくて、私は野球ができないという現実。担任の先生からは他の運動部に入るよう勧められたけど、取りあえず保留した。1カ月以内には部活動に入らなければならないということも伝えられた。

 自宅にたどり着いた私は何も言わずに、いや言えずに玄関から家の中に入った……。


「おお、どうしたんだ? いつもならうるせえくらいに『ただいま、お腹減った』とでけえ声出すっていうのに…… なんかあったのか?」


 金髪の長い髪に耳には銀色の丸いピアス、服装はジャージ姿、おまけに口にたばこを銜えており、見た目はその辺のヤンキーみたいな姿の女性、つまり私のお母さんが話しかけてきた。

 私は半泣きになりながら、状況をお母さんに伝えようとした。


「学校行ったら、ケンカで、廃部で、野球出来ないんだよう」

「は?」





「はぁー、確かに書いてあんなぁ。小さくよう!」

 

 こりゃ気付かんわ、とでも言いそうな様子でお母さんは安い発泡酒で晩酌をしながら書類を覗いている。お母さんが晩御飯を作っている間に私は書類を捜し出し、落ち着いた今、食事をしながら状況を伝えているのっだ。


「まあ、無いもんは仕方ないわな。」


「それはそうなんだけど……」


「で、いつ野球始めるんだ?」


「え?」


「え? じゃねえよ、廃部になってたくらいで野球辞めんのか? 俺の娘はそんなやわじゃねえと思ってたんだがなあ」

 

 はっとした。そうだ、何を廃部くらいで私は諦めていたんだろう! そうと決まったらさっそく明日、早朝から動き始めなければ!


「お母さん! あたし明日早いからもう寝るね!」


「まだ8時だけどもう寝んのか?」


「うん!」


 私は風呂とはみがきをぱっぱと終わらせ、2階にある自分の部屋に入り、ベッドに横たわった。さっきまでの暗い気持ちはどっかに行っていた。それよりも明日への期待が上回っていた。切り替えの早さと前向きさが私の長所だから!

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