第3話 野球部ないんだって……

「気にしても仕方ないよね!!」


 私は心の中でそんなことを言い聞かせながら、入学式に参列していた。校門での出来事は確かに恥ずかしかったが、過ぎたことをくよくよしてもしょうがない!切り替えの早さと前向きさが私の長所だから!


 入学式ではなんか偉そうな人たちが頭の良さそうなことを話していた。理事長、校長、来賓、生徒会長……。話は半分くらいしか理解できなかったけど、その話しぶりからわたしが通っていた公立の小中学校とは明らかに雰囲気が違うのが伝わって来た。さすがはお嬢様学園。でもやっぱり、この類の式典はつまらない! 私はこういう堅苦しい集会は大の苦手なのだ。早く終わらないかな。この後はクラスに分かれて説明会だからね。ここで1年間苦楽を共にするクラスメイト達と会えるわけだから今から楽しみで仕方ないよ。


 つまらない入学式をどうにか耐えて乗り切ると、説明会が行われるとのことで、私は自分のクラスである1年E組の教室に入った。すでに座る机は出席番号順に決まっていたから自分の机を見つけて席に着いた。


 取りあえず、私は自分の周りに座っている子達に「私、北中学出身の桃井桜、これからよろしく!」と話しかけ、握手をした。緊張しているのか、「うん、よろしく……」と顔を引きつかせながら答える子が多かった。これから一年間あるんだ、少しずつ仲良くなっていけたらいいよね。中には「桃井さん、あなた、馬鹿みたいに明るいですね、一年間よろしく」と言ってくれる子もいた。うんうん、よろしくよろしく。


 そうこうしていると担任の先生が現れ、説明会が始まった。授業の進め方、教科書の購入方法、食堂、売店、図書館などの施設の利用時間、学園規則などの説明を受けた。生徒は必ず同好会か部活動に入部しなければならないことも言われた。言われずとももう野球部に入ることに決めてるんだけどね。


 つまらない説明事項も終わり、ついに自己紹介の時間となった。まずは担任の先生が自分の自己紹介を、その後は出席番号順に生徒が自己紹介をしていくことになった。この辺はお嬢様学校とはいえ、その辺の小中学校と変わらないやり方のようだ。

 私はクラスメイト達が自己紹介をするたびに、何かしらのアクションを取った。ギャグをやる子には突っ込みを入れ、名前と出身中学しか言わない子には、好きな芸能人のタイプや趣味を言うよう促したり、陸上部に入ると自己紹介をする子にはどんな競技をやっているのか、サッカー部に入ると自己紹介をする子にはどのポジションをやってるのか聞いたりした。


 最初は緊張からか、顔を引きつらせていたクラスメイトもアクションを続けることで緊張が解れて来たのか、少しずつ笑ってくれるようになった。うんうん、良いクラスになりそうだね。

 そしてついに私の番になった。私は席から立ち上がり話す。


「私の名前は桃井桜、果物の桃に井戸の井、名前の桜は桜の花の桜です。平仮名じゃなく漢字で書きます。出身中学は北中学、男子と混ざって軟式野球をやってました!!」


 クラスメイトから「へえ。」という声が聞こえてくる。まだまだ女子が中学レベルで男子と一緒に野球をやるというのは珍しいからね。


「部活動は女子硬式野球部に入部します。以上です!」


 あまり凝ってない自己紹介だと自分でも思うけど、後は皆の質問を受けよう。そのために皆に対してアクションを取ったんだもん。さあ、どんどん質問して!好きな芸能人、趣味、野球部でやりたいと思ってるポジション、全部答えるよー!!と私は目を閉じ少し顔を上に向け、拳を腰に当て、えっへんポーズを作り、クラスメイトからの質問を待った。しかし、誰からも質問は来ない。それどころか周りのクラスメイトを見渡すと哀しそうな目で私を見ているような気がした。


「皆、そんな緊張しなくても何か質問してくれてもいいじゃーん!?」


 沈黙に耐えられず、私はクラスメイトに声をかけるが、哀れなものを見るような冷たい眼差しが溶けることはない。すると、後ろの席の子が小さな声で話しかけてきてくれた。


「桃井さん……今、華の峯学院に野球部はないんだよ……」

「え?」

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