第2話 華の峯学園入学式前
「ここが、お母さんが通ってた学校……」
私、桃井桜は桜の花が散る校門の前に立っていた。今日からお母さんと同じく、この華の峯女子学園に入学し、女子硬式野球部に入部し、全国制覇し、女子プロ野球選手になって、それからそれから……
「とにかくやるよ! やってやるんだー!!」
私は周囲にたくさんの保護者や生徒がいるのも忘れて大声で叫んでしまった。周りからひそひそと声が聞こえる。
「なにあの子? 大丈夫なのかしら?」
「はしたない! 本当に華の峯の生徒なの?」
「あんな子と関わっちゃダメよ!」
私への苦言が陰口となって襲いかかってくる。しまった、母さんにも注意されてたのに……。気持ちが高ぶるとつい、声が大きくなってしまう……。私の悪い癖だ。今も大きな声を出したつもりなんかなくて、自分に言い聞かせるだけのつもりだったのに……。
校門前で新入生徒を入学式会場に誘導していた先生っぽい人がコホンと咳払いをして話しかけてきた。
「元気が有り余っているのは結構ですが……今の品位に欠ける言動は頂けませんね。名門華の峯に相応しい行動をするように。あなた、中途入学組ね?入学会場の講堂はこの道を突き当たって右になります。遅れないように!」
……怒られてしまった。無理もないことだよね。この華の峯学園は小中高大一貫のお嬢様学園だから。品の無い行為はすぐさま注意されるのは当たり前だよ。
この学園の初等部に入学するには、生徒には高い学力が、保護者には高い収入と家柄が求められるんだって。中等部には入学試験がないから、初等部からエスカレーターで中等部に進学するらしい。これが高等部になると事情が変わる。高等部には一定の中途入学枠が存在し、一般の人間も受験することができる。私もお母さんもその一般枠で華の峯に入学したわけ。
「一般入学の人間に対してあの学園は眼を光らせてるぞ。品位がないだとか美しくないだとか出る杭だと判断したらどんどん打ってくるんだ。学園の権威のためだなんだと言ってな。とにかく悪目立ちはしないように気を付けろよ。『お嬢様になるための居残り補習』を受けなきゃいけないハメになるからな」
私はお母さんの忠告を今更ながら思い出していた。しかしもう遅い。悪目立ちした私は先生に怒られ、周囲からは冷ややかな目線を送られていた。もっとも、突然大きな声を出すことはお嬢様学園でない普通の高校であっても同じように非難されていただろうけど……。
私は真っ赤になっているのが鏡で見なくとも分かるくらいに顔に熱を感じ、恥ずかしさに耐えながら、下を向いて講堂へと足を進め、その場を去った。
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