フラワーナイン

向風歩夢

第1話 サクラと出会い

「すいませーん! 起きてもらえますかぁ?」


 暗闇の向こうから誰かを呼ぶ声がする。しかし、聞き覚えのない声だ。自分に対するものではないと思い、顔を机に突っ伏せたまま、再び心地よい眠りに落ちようとした。

(そういえば、俺はどこにいたんだっけ?)

 ふと、自分の置かれている場所に疑問を感じたが、すぐに答えを思い出した。そうだ、図書室に俺はいるのだ。この学園は下らない「しきたり」を持っており、なにかしらの同好会か部活動に必ず参加しないといけない。そこで俺は帰宅部になりたかったのだが、従いたくもないしきたりに従い、仕方なく文芸部に籍を置き、部室である図書室で明日の授業までに提出しなければならない数学の課題をしていたのだ。いつの間にか眠ってしまったみたいだが……


「ねえ!起きて?」


 再び、聞き覚えのない声が誰かを起こそうとしている。そういえば、この図書室に俺以外の人間いたっけ? そんなことを考えていると……


「ねえ!!起きてえええええええええ!!」

「うわぁ!?」


 突然、体を強く揺さぶられた俺は思わず、声を出しながら突っ伏していた顔を跳ね上げた。俺の心地よい眠りを邪魔した奴はだれだ? と声をかけてきた人間の顔を覗いた。


「はー、やっと起きてくれたよ」


俺を起こした犯人はこちらの驚きの表情など見ていないのか、満面の笑みでこちらを見ていた。悪気はないらしい。

 やはり、聞き覚えのない声、そして見覚えのない顔だ。俺が混乱の渦に巻き込まれている中、彼女はこう話し続けた。


「私たちと一緒に野球しよう!!」


それが、俺と天才野球少女、「桃井 桜」との初めての遭遇だった。

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