第13話 Hand to hand combat
「あの声……リーシャか」
「美洋君!」
微かな悲鳴が聞こえた瞬間美洋達は元来た道を走り出す。先ほどすれ違ったロボットがリーシャに遭遇したにしては炉夫の動きのわりに早すぎる。何故なら美洋たちが遭遇した場所からリーシャたちがいるはずの入り口までは距離がある。声もこの夜の静かな時間でなければ聞こえなかっただろう距離だ。
しかしそうなると他の危険がこの場所にあるということを指している。同じようなロボットが大量にあるのか、はたまた別の危険があるのか。
走ること二分、無事でいてくれることを祈りながら美洋は入り口までたどり着く。だが、そこにいたのは、
「よかった、無事だったか」
ピノキオがリーシャをお姫様だっこして待機していた。
「はい、無事です。ただまあ、ご覧のように気を失っていますが」
確かにそのようだった。だらんと力なくリーシャの腕は地面にむかって伸びている。
「何があったんですか?」
美洋が息を整えている間にハイドが質問をする。周りを警戒したように見渡しながらも美洋たちに近づくピノキオ。
「先ほど戦闘を目的としていると思われるロボットから襲撃を受けまして、その攻撃でマスターは意識を失ってしまったのです。幸いロボットは撃退できましたが」
「そうか……ありがとう」
状況を理解し、お礼を言う美洋。
その時ピノキオの腕の中にいたリーシャの眼が開き、小さく口をパクパクさせる。美洋たちの方を向いているせいかピノキオからは見えない。
怪訝な顔になる美洋。だが次の瞬間、美洋の横にいたハイドが飛び出し、ピノキオの腰にタックルを決める。
「な?!」
「ハイド?!」
驚きの声はピノキオと美洋から。そして同時に、不意打ちのタックルによりリーシャが地面に落下し、それをハイドが受け止める。
「美洋君! 逃げるよ!」
「な、なにがどうなって……」
「話しはあと! ピノキオさんが起き上がる前に!」
そう言うや否や、リーシャを抱えたまま元来た道を走り、店の奥に逃げ込むハイド。美洋はそれを追いかけながら後ろを振り返る。
そこには美洋たちが見たロボットと同じように赤い目を光らせたピノキオが地面にぶつけた自分の体を点検しながら立ち上がるところだった。
〇〇〇
「はあ、はあ、ハイド、急にどうしたんだ。リーシャさんは何をいったんだ」
走りながら美洋はハイドに問いかける、彼はまだ何が起こったのかを理解していない。
「リーシャさんが口の動きで伝えてきたのは『襲撃者はピノキオ』。詳細はわからないけど、ピノキオが私たちに害をなすと判断したのでこうして逃げてるの!」
「なんだって……どういうことですか。リーシャさん」
美洋の疑問は当然だ。ハイドの小さな腕にお姫様抱っこされているリーシャは舌をかまないようにしながらも説明を開始する。
「ごめんなさい……私sもよくわかってないんです。ピノキオが周囲を警戒してくれていたんですけど突然動きがぎこちなくなって……。それで正常な動きに戻ったかと思ったら拳を私に振り上げてきた殴ってきました。美洋さんたちを呼ぶために悲鳴を上げました。あと気を失ったふりも……」
「案外冷静なのね……」
「私を餌にした方が美洋さんたちも簡単に捕獲できると思ったんでしょう。というかピノキオならそう判断すると思いました」
とっさの機転に驚きながらハイドはリーシャをほめる。
「でも一体どういうことだ? それだけだとピノキオがどういう状況になっているのかわからないんだけど……」
「そうですね……。あ! これを」
ふと思いついたようにポケットの中をがさごそと漁るリーシャ。そして探し物が見つかったらしく、ポケットから取り出したものを美洋に投げる。
「おっと、これは?」
走りながら飛んできた物体はタブレットのようなものだ。すでに電源が入っており何かのデータを示している。
「ピノキオのバイタルデータのようなものです。見ればピノキオの今の状況が分かるはずです!」
その答えを聞き、画面に目を落とす。何のデータかわかった今、彼にも画面のデータが何を示しているのかわかった。
だが……
「おい、どうなってる。あいつハッキング受けてるぞ」
そう、そのデータが示していたのは紛れもなくピノキオが何かしらのハッキング、或いはウイルスに侵されているといものであった。だが、その情報を聞いてもリーシャはそこまで驚かなかった。
「やっぱり……それに私に拳をふるうということは相当奥の方までやられていますね」
「なにか覚えでもあるのか?」
リーシャの思わせぶりな態度に美洋は切り込む。ややあって彼女から答えが来る。
「多分……ハッキングを受けたとしたらフォルダーを開けた時です。あの音声ファイルの。あのあと一回だけですけど私の声に対する反応が遅れました」
「なるほど……そうなると僕のミスか」
念のためにハイドとともにフォルダ捜査をさせたことに公開を覚える美洋。だが
「美洋君! そうじゃないよ! まずはこの状況を打破しなきゃ!」
ロボットがいないかどうか、前方を確認しながらハイドが美洋に伝える。現状は彼女の言う通りよろしくない。入ってきた入口の方はピノキオが追ってきているため使えない。
そしてここまで大きなショッピングモールならばあるはずのほかの出口もすべてロボットたちが見張っていた。
「あの、美洋さん……提案なんだけどこんなのはどうでしょう。わたしなら追ってきているピノキオを止められます」
〇〇〇
カツ―ン、カツ―ンと音が響く。エルデロイドの青年ピノキオがショッピングモールの道を進む。
入口からここまで、このショッピングモールに大量に隠されていたロボットを動員しながら彼は美洋たちの逃げ道を着実につぶしている。
「ふむ……しかし殴られて意識を失わないばかりか、その瞬間に気を失ったふりをするとは……マスター、いえ元マスターもなかなかのものですね」
だれに聞かせるわけでもない独り言、のはずだったがピノキオの耳には音声が届く。
『確かにね。私が想定していたよりもどうやらずっと賢い……いやたくましい子だったらしい。もしかしたら君の不調に感づいてショッピングモールに入らなかったのかもしれないね』
「気付いていた? 私がハッキングを受けたことに?」
驚いた声を出しながらもその顔は不愛想な顔のままなのはエルデロイドというよりロボットに近い。
『そうだよ。その場に美洋君がいれば私はハッキングが終了した瞬間真っ先に襲わせていた。彼がいなかったからリーシャを餌に使おうと思ったまでだ。彼女が与えられた君に対する強制コードはすでに消しているしね』
強制コード、それは入力されただけで行動をすべて制限されるというもの。人が正面から直接戦っては勝ち目のないエルデロイドに準備されているのは当たり前といえよう。
だが、それは同時にもっとも秘匿される情報でもある。なぜならばそれがばれてしまえば今のピノキオのように操り人形にされてもおかしくない。
「なるほど。ではこのまま捜索を続けますが、なにか必要事項はありますか?」
『ない、存分に国家製造エルデロイド第一号としての実力を見せてくれたまえ』
「了解しました。マスター」
そこで通信は切れる。男か女かもわからない音声。ただ一つわかるのは脳に直接送られてくる指令を全うしなければいけないということ。
一つ、水城美洋の殺害
一つ、エルデロイド『ハイド』を回収すること。
リーシャのことに関しては特に触れられていないがこの指令に反するのであれば消すしかないと考えるピノキオ。
彼の現在の思考はそれだけだ。自分を支配したのが何者か、何の目的があってなのか、そこに思考リソースを割くことは許されていない。
と、そのとき、彼の右を移動していたロボットが腕を回す。何かを発見したようだ。
このロボットはピノキオが操っている。先ほどの制限された思考リソースはここに割かれていた。
「ふむ、これは……シャッターがいくつか壊されている。人では厳しそうですのでやったのはハイドでしょうが……一体何の目的が……」
彼が、彼らが見つけたのはショッピングモールの、閉店し、シャッターが壊された店が並ぶ中でどの店も必ず一つは穴が開き、中に人が通れるほどのスペースができている、というものだ。
目的が分からず一瞬とまるピノキオだったが様子を見るために周りに待機しているロボット群にそれぞれ中を見にいかせる。罠があるのか、それとも中にだれか潜んでいるのか、それを暴くためだ。
しかし、
「ふむ……誰もいませんか……」
一応それぞれの店の中を隅々まで捜索させるが人が隠れられるものはない。
「ふむ……本当にいないようですね。それでは次の捜索ポイントに移」
「獲った~~!!」
「?!」
突如響くのはエルデロイドの少女の声。だが前後左右を見渡してもだれもいな
直後、ピノキオの頭部に衝撃が走る。
「が!?」
混乱するピノキオ。だがその間にも視界は閉ざされ、腕を拘束される。
「リーシャさん! 今です!」
「わかってるわ! ありがとう!」
ピノキオは首の後ろにひっそりと存在するキーボードを触れられたことを知覚する。
「強制停止コード入力!」
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