第10話 Another person
「良し、話はまとまったようだな。それではリーシャ。協力していいと言われたんだ。彼も呼びなさい」
「ん? まだだれか補佐役がいるのか? 流石に何人も子守をするつもりはないぞ……」
「子守!? って、そうじゃなくて……近藤さん、承知しました。ピノキオ! おいで!」
そしてこの部屋に六人目の人物が現れる。
「やれやれ、マスター。あなたが騒いだせいで随分と予定が押していますよ」
それは長身の男であった。年齢は美洋より上だろう。外見年齢は二十代の後半。身長は美洋よりも高く百九十ほど。黒のオールバックに赤い瞳。その鋭い瞳でリーシャに視線を飛ばす。
「ピノキオ?」
一方で名前を聞き、首をかしげる美洋。リーシャと同じくコードネームだとは思うが、さっきまでこの場にいなかった理由が彼には思い当たらなかった。結局一緒に付き添いになるのならばリーシャと一緒に出てくればいい。
だが、その答えはすぐ隣にいるハイドによってもたらされる。
「美洋君……彼、私と同じエルデロイドだよ」
「なに?」
驚きのあまりハイドの方を振り向き、そして再びピノキオへと視線を移動させる美洋。ハイドはまじまじとピノキオの方を見つめピノキオもその視線に気が付いたのか赤髪の少女に視線を合わせる。
「話が早いようで助かる。私はお前と同じエルデロイドだ。もっとも開発に関してはハイド、お前のものを参考にして作られた劣化版だがな」
「劣化版?」
不思議そうに首をかしげるハイド。ピノキオはさらに口を開こうとするがその前に大人の二人組の帰りの準備が整い立ち上がり、近藤が別れの挨拶をする。
「話が始まったところで申し訳ない。私たちは次の仕事がある。めちゃくちゃにされた情報を少しでも元に戻さねばならんからな。ここらへんで失礼させてもらおう。あとは若い人同士で頼んだよ」
「あ、はい、わかりました」
不意に言われたためか美洋の口から出たのは呆けた返事だったがそれを気にすることなく部屋を出ていく二人。
結果残されたのは人間二人とエルデロイド二体。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れること数秒。ようやく一人が口を開く。
「あ、あのさ……とりあえずもう一度自己紹介し直さない?」
〇〇〇
「水城美洋。年は十九。法執行官として働いている」
「ハイドです。美洋君の一番のパートナーです!」
ぶっきらぼうに自己紹介をする美洋。場所は先ほどレイたちを迎え入れた応接間。美洋たちは先ほどと変わらない位置に座っている。なぜかハイドは美洋に腕にべったりと抱き着いているが。
「エルデロイド試作品ピノキオ。マスターはリーシャ」
「はい! このピノキオのマスターやってます! リーシャです!」
そして、大人たちが座っていたところに今度はリーシャとピノキオが座っている状況だ。
「マスター?」
「そう! マスタ―! 私の仕事はピノキオと一緒にいること!」
不思議そうな顔をする美洋にリーシャが説明になっていない説明をする。呆れたように隣に座っていたピノキオはため息をつき説明を開始する。
「水城美洋様。このリーシャは人並みにならパソコンに通じています。ただあくまで人並みに、彼女の本懐は電気工学とは遠い所にあり、今管制室で行われているであろうデータ復旧に参加する技能もないため、こうして同じエルデロイドを使役する美洋様のところに私含めて預けられる運びとなりました」
「ああ、そういうこと……」
「フーン」
ようやく納得した美洋。だがハイドの方は納得していないようだ。敵意を込めたような声が続く。
「で? 美洋君は今から捜査とかしなきゃいけないんだけどあなた達どうするつもり? まさかだけどついてきたりしないよね?」
有無を言わさぬ迫力の笑顔を目の前に座る二人mというかリーシャの方にぶつける。だが彼女もまたどんな精神の持ち主なのか、涼しい顔でそれを受け流す。
「そのまさかだけど? 聞いてなかった? 私はエルデロイド、ピノキオのマスターとして先輩マスターである美洋さんに師事しに来ているのよ? ついていくのが当たり前じゃない?」
バチバチと、音が鳴っているのかと錯覚するほどの眼光が美洋の前でぶつかり合う。美洋としては二人の仲が悪そうであれば仕事に差し支えると思ているのだが、ピノキオは我関せずの様子であり手助けは望めそうにない。
「はぁ、ハイド、やめるんだ。もう時間もないんだから。リーシャさんも大人げないことはやめてください」
「み、美洋君がそう言うなら……」
「す、すみませんでした!」
美洋のこと奈であっさりと身を引く二人。そこでようやく本題に入れるのであった。
「皆、話は聞いているね? 今回の事件はランサムウェアと呼ばれるものだ」
「流石に知ってますよ~。企業とかが持ってるデータとかを暗号化したりして身代金を請求してくるやつでしょ~」
リーシャが得意げに語る。専門ではないといってもこれくらいは知っている。
だが、美洋の顔はさらに険しいものになる。
「そう、言ってしまえばデータの誘拐事件。だが今回のランサムウェアは普通と明らかに違うところがある」
「ネットにつながってないところだね」
美洋の言葉に追随するのは相棒の赤毛の少女ハイド。
そう、本来であればランサムウェアもサイバーテロの一つ。電子の海からメールでもなんでもいい。企業のデータにアクセスし、管理権限を奪い取る。それがランサムウェアだ。
だが今回は明らかに違う点が一つあった。それは管制室がインターネットに、その広大な電子の海につながっていなかったということ。当然そうなれば……
「え? でもそれっておかしくない? どうやってその敵さん……マッドサイエンティストは管制室のデータにアクセスしたっていうの? 不可能じゃん」
「マッドハッタ―です。マスター」
会話を聞いていないようで間違っていれば訂正してくれる優しいアンドロイドらしい、と美洋は心の中で勝手にピノキオに対する印象を書き連ねていく。そして同時に説明も怠らない。
「ああ、おかしい。普通の技術じゃないのは間違いないだろう、インターネットがつながっていない、隔絶されたオフラインの情報に手を出すなんてハイドでも無理だ。だけど」
「だけど? ハイドちゃんが無理なら誰にもできるわけないじゃん」
リーシャが不思議そうに聞き返す。当然だろう、彼女もまたエルデロイドのマスターとして日々エルデロイドにかかわる日々を送っている。当然彼らの強さ弱さは熟知しているつもりではある。
つまり彼女にとって電子上での活動に関してはエルデロイドこそが最強であり、彼らにできないことが他の、例えば人間にできるはずがないと思っているのだ。
だが、美洋の返事はそんな常識をぶち壊すのに十分であった。
「いいや、必ず何かあるはずだ。それに犯人は僕たちよりもはるかに優れた技術を持っている可能性もある。現にこの前のトランプ兵と名乗った少女はネットカフェのパソコンだけで僕たち二人を相手取ったからね」
「え?! ほんとに?!」
「ほぅ」
驚いたのはもちろんリーシャだ。だがその隣でピノキオも興味を持ったのか、心なしか身を乗り出している。
「本当だ。あの時は何とか先に相手の居場所を特定できたから何とかなったけどね」
「大変だったよね~」
相槌を打つハイド。リーシャもピノキオも二人が力量的に互角以上というのを聞いて驚きを隠せないようだ。リーシャが恐る恐る口を開く。
「そ、それじゃあこれからどうするの?」
「どうもこうもないよ。僕たちにできるのは残された記録を洗うだけだ」
「その通り!」
「残された記録?」
発せられたリーシャの疑問。だがそれにこたえる前に美洋は立ち上がる。同時にハイドも立ち上がり奥の部屋、美洋の部屋へと消えていく。
「決まってる。管制室に行くんだ。絶対に手がかりをそこで見つける。そうしないと僕たちの負けだ」
「で、でもさっきは道の手段を持っているかもって……」
「うん、だけど敵は、マッドハッターは言ったそうだね。遊ぼう、と。それならこちらにも手はあるはずだ.遊びは一方通行ではつまらない」
壁に掛けてあったショルダーバックを手に取り荷物を確認する美洋。そして奥の部屋からハイドが美洋の上着を持って帰ってくる。
「よし、行こうか。君の職場に」
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