Second master.
第8話 Mad Hatter
国家情報管制室。大仰な名前の付いたその部署は東京のビルの一室に本部を置いている。
中にいるのは三十名にも満たない男女。だが、そのいずれもが優秀なIT技術を持ち、国に欠かせない人物たちだ。
「レイ君。
その中で一番偉いであろう男がパソコンに向かって作業していた女性、天海
「元気にやっているようですよ。彼の姉の遺産とやらがまだ全く手がかりがないようなのでそこは難航しているらしいですが」
「ふむ、そうか。我々としても水城真希奈の遺産が悪用されるなど考えたくもないからな。協力が必要であればいつでも言ってくれ」
それだけ言うと男は他の作業員たちにも声をかけていく。レイはふぅとため息をつくと作業を再開。振り分けられた課題をてきぱきとこなしていく。
そして今日もいつも通りに仕事をして、いつも通りに帰宅する……はずだった。
ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィ
だが突如鳴り響くは耳に響く警報音のような音。誰のパソコンから発生したものかと一瞬、その部屋にいる誰もがあたりを見回す。だが、それも無駄な行為。
なにせ、その音はこの部屋のすべてのパソコンから鳴り響いているのだから。
「な、なにごとだ!」
長を務める男が声を上げて作業員たちに訪ねて回る。だが、だれも要領を得た答えを持っている者はいない。原因がわからないからだ。
何故ならこの場所はオフライン。国家の重要な情報を管理するために作られた部署であり、凶悪さが増し、精度も上がってきたサイバー犯罪に対して国家の取った対策は実にシンプルであった。オフラインであればどのような天才ハッカーであろうと侵入することはできない。
インターネットに接続することはできなくなるが彼女らの仕事はそれでも差しさわりのないもの(例えば国のサイバー犯罪に対する方針に対してのアドバイザーなど)をここでは行われている。
話を戻そう。
この警報音のようなもの。明らかに計器に異常が現れた、ということを示している。そしてここでは計器などと言ってもパソコンしかない。
つまり、オフラインであるにもかかわらずこの場所にアクセスしてきたものがおり、さらには害をまき散らしたということなのだが……。
「班長! データが!」
「何だと?!」
一気に騒然となる室内。ある作業員が目にしたのは地震の管理していた情報が瞬く間に暗号化され、解読不可能になっていく様だった。
そしてそれは一台のパソコンで起こったことではない。
「う、うわああ」
「なにがどうなってるんだ!!」
あっちで、こっちで、いたるところで悲鳴が、怒号が、上がる。
そしてその混乱に拍車をかけるかのように……
『グッドモーニング! 国家情報管制室の皆様! 私! マッドティーパーティーお笑い担当! マッドハッターと申します!』
すべてのパソコンから同時に音声が流れる。混乱が収まっていないながらも落ち着きを取り戻した彼らは静かに相手の言い分を聞き始める。
『先日は我らが同胞、トランプ兵がお世話になりました! 心より謝罪と感謝を! 見ていて楽しそうな戦いでしたね! まあ、彼女にお灸をすえてくれたみたいで感謝ですよ! なにせ彼女は優秀なせいで天狗になることも多々ありましてね、われわれも手を焼いておりました。今回の件はいい薬になったでしょう。水城美洋氏にも感謝を……っと、ここに彼はいないのでしたっけ。まあ、構いません。伝えてくだされば結構! それに私は彼でなくても構わない!』
狂ったような声は合成音声のようだった。不気味で、耳障りな不快な音をまき散らす。
『私もね! 遊んでみたくなったのですよ! そういうわけで今日の、明日の、明後日のゲームです!』
「明日に……明後日?」
誰からともなくそんなつぶやきが漏れる。それを聞いていたのか、それとも予測していたのか〇〇の説明が始まる。
『ご存知の通り! 私め、先ほど皆様のパソコンをちょちょいといじってすべてのデータを暗号化させていただきました! いやいや、なかなかおいしい情報もたくさんありますな。国家防衛機構から民間のサイバー対策強化まで様々だ! と、言うわけで私がやりたいゲーム、それは隠れ鬼!』
楽しそうに、話すこの存在の目的は何なのか、まだだれもわからない。
『勝負は簡単! 私を見つけ、豚箱に放り込むことができれば皆様の勝ち! 見つけられなかったら皆さんの負け! 罪状は十分でしょう。期限は先ほども申しましたが明後日の正午! 私のデータはそれまではどこにも流さないと約束しましょう! しかしその起源を過ぎれば私はどこにこの情報を持っていくかわかりません。友好国以外の国? テロ組織? 私はどこでも構いませんがね!』
そこで息をつく存在。最後にすぅと息を吸い込むと、
「では! 今日から丸二日!楽しみましょう!!!!」
現在時刻 六月十九日十二時ちょうど
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