第7話 The Girl
美洋はその集団に近づき、先頭に立っていた警官に声ををかける。
「すいません! ちょっといいですか。彼と話をさせてください」
「なんだい君は。邪魔をするなら公務執行妨害で」
「水城美洋と申します」
「はっ! それは失礼しました。しかし、我々も時間があるので手短に」
今回、警察は美洋の名前の元、レイに話を通して動いてもらっている。美洋には従えという指令が出ているのだ。その通りに、慌てて犯人と美洋の間に道を作る。
「お、来たみたいだね。こんにちわ。私がトランプ兵だ」
そこにいたのは一人の少女であった。
「女の子……?」
「何を驚いているのさ。君のお姉さんだって女だろう。それとも何か? 私が女だと不都合なことが――お? そこの赤髪のお嬢さんは何という名前かな?」
【は、ハイドと申します】
「へ~、君がハイドか。さっきも話したかもしれないが初めましてだね」
【私の名前を知ってるのですか?】
怖かったのか美洋の後ろに隠れながら質問するハイド。
「勿論知っているとも。なにせ君は」
「質問がある」
一瞬、トランプ兵が少女であったことに驚いた美洋。だが気を取り直すと少女の声を遮って語気を強めながら、少女に歩み寄る。彼女は若干不機嫌そうにしながら答えた。
「……何かな」
「真希奈姉さんの遺産、何か知っているか」
「クハハ、君も一途だね~。でも残念。それに関しては知っているけど口止めされててね。私から言うわけにはいかないのさ」
「口止め?」
「これ以上は言えないかな。私達にも守秘義務があってね」
「そうか……ならいい」
笑顔で少女は語るが雰囲気から情報は得られないと美洋は判断。おとなしくあとは警察に任せることにする。もともとここで情報が得られると思っていたわけでもないのであっさりとしたものであった。
「では、後は頼みます」
「はい! 水城様もご苦労様でした!」
警官に挨拶すると美洋は元来た道を帰る。だが、ファミレスの敷地から出る前にふり返ると最後に一つ、少女に尋ねる。
「トランプ兵、君の名前は?」
「アリス。しがないワンダーランドの住人さ」
〇〇〇
【いや~あの事件はよかったね。お金ももらえたし、早瀬さんの無実は晴れた。これでお姉さんに繋がる情報が手に入ればもう万々歳だね!】
「そうだね、ハイドもお疲れ様」
事件が終わってから三日、ウイルスの除去を確認しながら休みを満喫している二人であった。
結果として早瀬さんの冤罪も晴れ、彼は会社に無事に復帰。すでに幹部としてその手腕を振るっているらしい。
レイの方からは一応という形だが報酬が振り込まれた。今回の事件を仕事として処理してくれたのだ。
【でもお姉さんの情報まだかな】
「警察に任せておけば安泰だと、僕は思うね」
プログラミングにいそしみながら次なるターゲットを探す美洋。彼の中で今回の事件も姉の遺産を探すための足掛かり程度にしか思っていない。
【でもあのアリスちゃん、すごかったね。彼女は一人で、しかも単なる家庭用のパソコン、私たちはここまで設備の整った場所で二人がかり】
「いいんだよ。僕たちは勝った。彼女は人を不幸にしすぎた。今回の事件はこれでおしまいだ」
【そう……】
ハイドはさみしそうにつぶやく。だが、なにか思いついたのかこっそりと、音をたてないように青年へと歩みより、画面にくぎ付けになっている青年の首に抱き着く。
「……ハイド? なにか用か?」
【ううん? 特に。ただ、こうしたほうがいいかなって思っただけ】
「ハイドってたまにわからないところがあるよな。なんというか……僕にはない思考だ」
首元にハイドが引っ付いたまま、プログラミングを再開する美洋。赤髪の少女はその紫色の瞳でじっと美洋を見つめていた。
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