第5話 挨拶する葡萄

 貴女の手のなる方へ




 お手を拝借。

 さあて皆さん、無理矢理にでも叩いてもらいますよ。


 司会の人が実際にそう言っていたわけではないけど。

 音頭の人の声が響く。


 よぉーっ!


 乾いた破裂音が重なって、大きめの音になる。最後はバラバラに拍手して終わり。

 新入社員歓迎会の締め。挨拶は緊張しすぎてうまく言えなかった。


 そういえばあの夢の記憶は正しくない。ブドウジュースではなく赤ワイン。だけどワインはブドウの香りじゃないらしい。何が100%ジュースだよ、完全なる酔っ払いが。そもそも朝起きて私の枕元にあった空き缶はビール。350mlのアルミ缶の。とっても酒臭い。完全なる二日酔い。


 重たい頭を起こせば体を起こせば、手と足がぶら下がってくる。手と足を動かせば指がついてくる。それはようやく立って歩けた。ボンバーヘッドで鏡に映るその人のようなものに語りかける。



 おはよう



 クマのある顔の口はおはようと動く。

 私は両手を顔に当てた。三度叩いてみる。

 うっとおしい長い髪が絡まるから、私は髪を切りに行こうと決めた。


 身支度をしてもう一度鏡の前にくる。



 行ってきます



 これは寂しいひとりごと。


 髪を切って、買い物して、時々映る姿が見慣れなくて。でも朝出発した時の私の格好で、なんだか面白くなってくる。


 ふと目に入った雑誌の表紙に夢の一文字があった。たしか夢のマイホームがウンタラカンタラ。


 そういえば最近変な夢ばっかり見るなあ。

 みた夢を覚えていることが増えた。

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