0128あふたー「わたしはわたしだから」
「わぁ…ほんとにきれい」
「でしょー!」
みずべちほーにある、知るケモノぞ知る場所。
ライブステージに隠れた、もうひとつの名所。
大きな広場に置かれた泉に、サーバルとハシビロコウが遊びに来ていた。
「みずべちほーはよく来るけど…こんな場所があるなんて知らなかった」
「わたしも最近教えてもらったの!えっとー…あっちに座ってお喋りしよ!」
サーバルが指さす先にあるベンチに、2人で腰掛ける。
自分から話しかける事が苦手なハシビロコウは、サーバルから話題を振ってくれるのをじっと待っていた。
その思惑通り、座ってから間を置かずにサーバルが口を開いた。
「ハシビロコウは、最近は合戦してるの?」
「うん、してるよ。この間も、ヘラジカ様に呼ばれて…ライオン達とかくれんぼを」
「へー!おもしろそー!どっちが勝ったの?」
「それが…引き分けだったの」
「かくれんぼで引き分け?」
「うん。ライオンは隠れながら寝ちゃうし、カメレオンはいくら探しても見つからないし…」
「そっかー、やっぱりカメレオンはすごいね!ライオンはいつも通りだねー」
「ふふっ…。その…サーバルは、最近は何して遊んでるの?」
うっすらと笑みを浮かべたハシビロコウは、意を決して自分からサーバルに聞いてみる。
「わたしはー、狩りごっことー、追いかけっことー、木登りとー、うーんと…お昼寝?」
「ふふ、サーバルらしいね」
「あ、でもでも!こないだ私たちも合戦したんだよ!風船を棒で割るの!」
「誰とやったの?」
「ライオンとジャガーだよ!わたしは最初に負けちゃったけど、楽しかったな〜」
サーバルが合戦の時のことを、笑顔で語り始める。
私もこんなふうに、楽しそうにたくさん喋れたら…つい、そんなことを考えてしまう。
話したい思い出はたくさんある。
けれど、その話を切り出す勇気が出ない。
どうしても、機を窺ってしまう。
「ハシビロコウ、どうかしたの?」
「あ、えっと…」
いつの間にか相槌も打たずに黙りこくってしまっていたのを心配してか、サーバルが顔を覗き込んで心配してくれる。
「ご、ごめんね、なんでもないの。ただ…サーバルみたいになるには、どうしたらいいんだろうって、考えちゃって」
「わたしみたいに?」
サーバルが、何故わたしなんだろうと言いたげな不思議そうな表情で首を傾げる。
思わず、勢いで言ってしまった。
言い終わった後で、しまったと気付く。
こんなことを言われたって、相手は困ってしまうだろう。
現に、サーバルは首を捻らせて悩んでいる。
「うーん、わたしはずっとわたしだからねー。ハシビロコウはハシビロコウで良いんじゃないかな?」
「え…」
自分の言葉を取り消す前に、サーバルが答えた。
「どういうこと?」
「ハシビロコウは今のままでも大丈夫だよってこと!」
「で、でも…私、こんな顔だから…みんなに怖がられちゃって…ほんとはもっとお話したいのに……」
「でも、お話すればハシビロコウは全然怖くないこと、みんな知ってると思うよ!」
「そ、そうかな…?」
「そうだよ!だから、ハシビロコウは今のままでも大丈夫!お話するのも楽しいよ!」
サーバルはこう言ってくれたが、本当にこのままでいいのだろうか。
もっと自分から話しかけれるようにするべきではないだろうか。
悩んでいても仕方ないと切り替えようとしたところで、遠方から声が聞こえた。
「ヘラジカ様〜!見つけたでござる〜!」
この声は…カメレオンだ。
自分を探していたのかと、ハシビロコウはすぐさまベンチから立ち上がり、彼女のもとへ向かう。
後ろからサーバルも着いてきているのがわかった。
「おぉ、ここに居たか、ハシビロコウ。探したぞ」
ハシビロコウがカメレオンの元に着くと同時に、ヘラジカもやって来る。
ハシビロコウは探させていたことに負い目を感じ、すぐさま頭を下げて謝った。
「ごめんなさい、ヘラジカ様…探しているの、知らなくて」
「いや、いいんだ。それに、お前を探していたのは、わたし達じゃない」
「ニホンカワウソ殿が探していたでござるよ。拙者達のところに訪ねてきたでござる」
「ニホンカワウソが…?」
ニホンカワウソとは、あまり話したことは無い。
この間会った時に少し会話はしたけど…そんな彼女が、自分に何の用なのだろう。
でも、こうして自分を訪ねてくれたことは、何だか嬉しい。
「ようやく見つけたのです」
「こんなところに居るとは。手間をかけさせるなです」
カメレオン達と話していると、今度は上から声がした。
博士と助手が、そばに降り立つ。
こちらも自分のことを探していたらしいので、小首を傾げて聞いてみる。
「博士、助手。どうしたの?」
「お前に聞きたいことがあるのです」
「大事なことなので、すぐに図書館に向かうのです」
「わ、私に…?それに、今はちょっと…」
「つべこべ言わずにとっとと着いてくるです。お前にヒトについて──」
「見つけたー!!!」
急かす博士の言葉を遮るような大声。
突然のことに、博士は少し細くなり、助手は羽を広げて威嚇の体勢を取っていた。
声の正体──マーゲイを目で確認すると、すぐに元に戻ったが。
「あら、今日はたくさん集まってるのね。ここ、隠れた人気スポットなんだけど」
こちらへ駆け寄ってきたマーゲイが、自分たちを見回す。
いつもは1人か2人居れば多い方らしいので、6人も居たら不思議に思っても仕方ない。
博士と助手もいるから尚更だ。
「そんなことはどうでもいいの。ハシビロコウ、あなたを探していたのよ!」
「マーゲイが私を…?」
「そう!あなた、顔はちょっと怖いけれど、意外と可愛い声してるじゃない?ギャップ萌えっていうの?私的には狙えると思うのよ。PPPとコラボすれば更に人気も出て…ぐへへ……という訳で、アイドルやってみる気ない?」
「え、えっと…」
早口すぎて良くわからなかったが、マーゲイも自分を探していたようだ。
マーゲイに返答をする前に、博士達が口を挟む。
「待つのです。こいつは今から我々と話があるのです。お前の要件はまた今度にするのです」
「それこそ待て、へいげんでニホンカワウソが待ってくれているんだ。まずはそっちに行くべきだろう」
「私はあまり時間が無いのよ!このあと、今度のライブのために図書館に色々と調べに行かなきゃいけないし…」
「お前達が何と言おうと、ハシビロコウは我々が貰っていくのです」
「なのです」
「え、え〜っと…」
初めて遭遇する状況に困り果てたような顔をしていると、しばらく静かに見守っていたサーバルが小さく語りかけてきた。
「ハシビロコウ、大人気だね。やっぱりハシビロコウは、このままでも大丈夫だよ」
「……そうかもね」
無理に変わる必要なんて、ないのかもしれない。
こんな自分のことを、みんなはわかってくれている。
初めて会う子だって、きっとわかってくれる。
私は私のままで、大丈夫なんだ。
サーバル達のおかげで、自信が出てきた。
…出てきたのは良いが、この状況はどうしよう。
取り敢えず、1つ提案をしてみようか。
「えっと…みんなで図書館に行けばいい…と思う」
「…なるほど」
「私も図書館に行かなきゃだから、理にかなってるわね」
「へいげんと図書館はあまり離れてないから、ニホンカワウソにも図書館に来てもらって…」
「流石はハシビロコウだ!わたしの部下なだけあるな!」
「え、えへへ…サーバルも一緒に、どうかな?」
「わたしもいいの?もちろん行くよー!」
「では、マーゲイとヘラジカは我々が運ぶので、サーバルはお前が運ぶといいのです」
「お前が飛行しているところも珍しいので、ついでに見ておくのです」
「ふむ。カメレオンはへいげんに戻って、ニホンカワウソに図書館に来るよう伝えておいてくれ」
「了解でござる!」
「今からコラボが楽しみだわぁ〜…」
なんとか、丸く収まってくれたみたいだ。
今日は大変だけど…楽しい日になりそう。
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