0306あふたー「たまにはさわがしいのも」

さばんなちほーの水場。

カバが1人、のんびりと水浴びをしている。



それにしても、静かだ。

いつもならフレンズの1人や2人、居てもおかしくない時間帯。



「…たまには、こんな日があってもいいかもしれないわね」



小さな声でそんなことを呟き、水中に潜る。


カバは、騒がしいのは正直苦手だ。

しかし、こうまで静かなのも、いかがなものか。

寂しい訳では無いが、どこか味気ない。

誰か来ないか…そんなことさえ頭に浮かんでしまう。


それでも、居ないものは仕方ない。

今日は1人静かにしてしよう…そう考えていた時だった。



水面に衝撃が走り、波立つ。

その衝撃が音と共に、自分にも伝わってきた。


経験豊富なカバにはわかる。

これは誰かが水に飛び込んだ時のものだ。

そして、誰が飛び込んだかも、察しがつく。



「だーれー?」



察しはつくが、つい言ってしまう。

口癖になってきているのかもしれない。


水面から体を出したカバは、飛び込んだ主の方に目をやる。



「あ、カバだー!」


「やっぱり、カワウソでしたのね」



自分を見つけて手を振るコツメカワウソに微笑みかける。

水場にいきなり飛び込んでくるフレンズと言ったら、この子ぐらいしかいない。



「今日はすっごく暑いから、思わず飛び込んじゃった!」


「そうね、今日はいつもより暑く感じますわね。ここでゆっくりしていくといいわ」


「そうするよー!水場はたーのしーからね!」



静かな日常は、消え去った。

カバにとってどちらが良かったのかは、本人にもわからない。

でも、少なくともカワウソの楽しそうな笑顔を見ると、こちらも良い気分になる。

それが彼女の魅力だ。






水場で遊ぶカワウソをしばらく眺めていると、後方から会話が聞こえてくる。

誰かが水場に来たようだ。



「そっすね…木をこうして……あとここを繋げて…」


「おぉ!凄いでありますな!完成が楽しみであります!」


「あら、ビーバーとプレーリー。ごきげんよう」


「やっほー!」



何やら難しそうな話をしてこちらへ歩いてくる2人に声をかける。

カワウソも2人に気づいたのか、手を振っている。



「これはこれは、カバどのにカワウソどの!こんにちはであります!」


「こんにちはっす。今日は暑いっすねぇ」


「そうね。2人も水浴びかしら?」


「そうっすね。ついでに、お城作りのお手伝い探しっすね」


「お城?また随分と大きな物を作るのね」


「ヘラジカどのに頼まれたらしいのであります。でも、流石に我々だけでは時間がかかりすぎてしまって…」


「カバさんはどうっすか?お城作りとか興味ないっすかね?」


「そうねぇ、興味は少しあるけれど、お断りしておくわ。私は縄張りからあまり出たくないのよ」



カバは自分の縄張りを大切にする動物である。

フレンズであるカバも同様、自分の縄張りを大切にしている。

故に、遠出をすることも少ない。

返事を聞いたビーバーの眉が少し下がる。



「そっすか…残念すけど、仕方ないっすね」


「私も、他のフレンズに声をかけておくわね。それこそ、カワウソなら手伝ってくれるんじゃないかしら」


「ん?呼んだー?」



少し離れた場所でパシャパシャと遊んでいたカワウソが、自分の名前が出たことに気付いてこちらへ泳いで寄ってくる。



「カワウソどのは、お城作り、興味ないでありますか?」


「手伝ってくれると嬉しいっすけど…」


「おしろ?なにそれおもしろそー!やるよ!」


「ほんとっすか?助かるっす!」



毎度の事ながら、カワウソは面白そうなことなら何でもいいらしい。

それがわかっていて、推薦したのだけれど。

意外と手先が器用だし、助っ人としては充分期待出来るだろう。



「では少し休憩したら、へいげんへ向かうでありますよ!」


「その前に、まずは材料集めっすね。じゃんぐるにも寄っていくっす」


「じゃんぐるならわたしが案内するよー!」


「頼もしいっす…!さばんなまで出向いて良かったっす!」





カバが3人の会話を微笑ましく眺めていると、今度は別の方向からフレンズが。

挨拶をしようとした時、また別の方向からフレンズが。



いつの間にやら、さばんなの水場はいつも以上に大盛況だった。

暑さのせいもあるのだろうが、ここまでフレンズが集まっているのを見るのも久々だ。

カバはフレンズで埋まった自分の縄張りを見渡し、耳を傾けてみる。





「へいげんにあった、アレを作るのか!?アライさんも手伝うのだ!」


「すごく大変だと思うけど大丈夫ー?アライさーん」





「おっ、ちょうどいい時に来たみたいだね。いい顔いただき放題だ」


「捗りそうですか、先生!」






「あー!カラカル、またわたしにイタズラしたでしょー!」


「だって、全然気付かないんだもの」





「(ジーーーーーーッ)」


「(ジーーーーーーッ)」





「フレンズがたくさん…楽しそう…」


「あ、ニホンカワウソだー!こっちおいでよー!」


「……うん!」





「ふむ、次の勝負はかくれんぼにすると?」


「そうしようよぉ〜、それならゴロゴロしたまま遊べるしさぁ〜」





「だれかー、じゃぱりまん持ってませんかー!」


「お腹すいてるの?ボクが持ってるよ!はい、あげる!」


「ありがとうございまーす!お礼に、パフィンちゃんとっておきのじゃぱりまんをあげちゃいまーす!」


「持ってるんだね…」







さっきまで静かだったのが、嘘のようだ。

でも、これはこれで、いいかもしれない。

皆が笑顔で過ごせている、平和な光景。

それが見られるなら、少しくらい騒がしいのも、たまには。




「カバー!聞いて聞いて!カラカルがさー!」


「わーい!カバに登っちゃったー!」


「カバさんもじゃぱりまん、どうですかー?」


「カバ!わたしと勝負だ!!」







──たまには、だけれど。

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