0047、0051、0129、0244あふたー「たいせつだから」
「ギンギツネのバカっ……」
ギンギツネと喧嘩し、こうざんの山頂へ向かって走り出したキタキツネ。
しかし、スタミナはそれほど無いため、ギンギツネ達の姿が見えなくなった辺りからは、とぼとぼと足を緩めていた。
時折、後ろを振り返る。
ギンギツネが追いかけて来てはいないか、自分がギンギツネのもとへ戻ろうか。
悩みながらも、それでもキタキツネは前へ進んだ。
キタキツネが走り去った直後、ギンギツネは息遣いを荒くしながら、その場に立ち尽くしていた。
「みゃー!なんであんなこと言ったのー!」
たまらず、そばにいたサーバルが口を開く。
その声と表情は、珍しく怒気を含んでいた。
サーバル達には、何故ギンギツネ急に激昴したかはわからなかった。
大きく息を吐き、少し心を落ち着けたギンギツネが、ゆっくりと答える。
「……あの子が、早く帰りたいだなんて言うから…。みんなに迷惑をかけて、私もこんなに心配しているのに、あの子はゲームのことばっかり…」
「キタキツネはゲームのことなんて一言も言ってないよ!」
「えっ…?」
ゲームのことを言っていない…?
あの子は確かに早く帰りたいと言った。
それがゲームのことじゃなくてなんだと言うのか。
混乱と焦りの表情を見せるギンギツネに、トキが説明した。
「キタキツネは、迷惑をかけたフレンズに謝って、みんなと一緒にじゃぱりまんを食べたいって言っていたの。早く帰りたかったのは、じゃぱりまんを用意したかったからね」
「そうだよ!キタキツネはみんなに謝りたいって言ってたのに…!」
「うそ……私、早とちりして…」
自分の間違いに気付いたギンギツネは、涙を流し、頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
あの子が、そんなことを考えていたなんて。
ゲームのことしか考えていないんだと思っていた。
私は、なんてことをしてしまったのだろう。
せっかく勇気を出したあの子を、早とちりと先入観で怒って…泣かせてしまって…。
「私は…あの子になんてことを…」
「だ、大丈夫だよギンギツネ!ほら、立って!キタキツネを追いかけよう?」
「でも……勇気を出したあの子に、私はあんなに酷いことを言って…」
後悔に飲まれたギンギツネにサーバルが手を差し伸べるが、ギンギツネは相当混乱しているのか、顔すら上げてくれない。
このままじゃまずい、そう考えたサーバルは、トキに視線を向ける。
トキも、サーバルの意図を理解したのか、わかったわと言うように頷いた。
「行くよ、ギンギツネ!キタキツネに謝ろう!話せばわかってくれるよ!」
「今ならまだ遠くには行ってないわ」
「えっ、待って!離して!」
トキがギンギツネを抱えて羽ばたく。
落ちても大丈夫なように、ギンギツネの足が地面から離れる程度の低空飛行で。
最初は抵抗していたギンギツネだったが、次第に大人しくなる。
3人は、キタキツネの走り去った方角へ向かった。
サーバル達がギンギツネを立ち上がらせようとしている頃、キタキツネは道中、ジェーンと出会っていた。
次のライブが近くなり、心身のリフレッシュを兼ねて、1人こうざんを訪れていたジェーン。
そんな時、深刻な顔をしたキタキツネが通りかかり、声をかけてきた。
キタキツネは、ギンギツネと喧嘩したことを話し、こういう時はどうすればいいかを聞いてみた。
「ギンギツネさんとちゃんと話しましょう。そうすればわかってもらえると思いますよ」
本当は、自分でもそうするべきだとわかっていた。
ギンギツネがあんなに怒ったのは、自分が早く帰りたいって言ったから。
ゲームがしたいんだと思われてしまったから。
元を正せば、はぐれた自分が悪い。
毎日ゲームばかりしている、自分が悪い。
ギンギツネは悪くない。
自分の、日頃の行いの結果だ。
キタキツネはジェーンとの会話で、ギンギツネと改めて話し合う意思を固めた。
「ぼく、ちゃんと話して仲直りしてみる」
「頑張ってくださいね!」
話を聞いてくれてありがとうとお礼を言おうとした時、ジェーンが「あ…」と声を漏らし、キタキツネの後方に目を向ける。
その様子に気付いたキタキツネも、背後を振り返ってみる。
そこには、トキに抱えられてこちらへ向かってくるギンギツネと、横を走るサーバルの姿。
一歩、後ろへたじろぐキタキツネ。
逃げ出したい衝動に駆られる。
ギンギツネと、話し合って、謝る。
やることは決まっているのに、口が、身体が動いてくれない。
「勇気を出してください!」
ジェーンが、そばから小声で応援してくれている。
そうだ、勇気を出さなきゃ。
パフィンにお礼を言った時のように。
ギンギツネに自分の想いを伝えた時のように。
もう一度、あの勇気を。
キタキツネの前で地面に降りたったギンギツネも、葛藤していた。
酷いことを言った私を、キタキツネは許してくれるだろうか。
嫌われたらどうしよう。
でも、私は保護者だ。
ここは、私から口を開かねば。
サーバル、トキ、ジェーンはその場から少し離れ、2人を見守る。
2人なら仲直り出来る。3人はそう確信していた。
重たく気まずい空気が流れる中、ついにギンギツネが口を開いた。
「……キタキツネ」
「……うん」
名前を呼ばれ、びくっと震える。
しかし、逃げはしない。
ちゃんと話し合うと決めたから。
「その…サーバルとトキから聞いたわ。…ゲームをしたくて早く帰りたかったんじゃないって」
「そう、だね…。みんなに謝りたくて、じゃぱりまんを集めたくて…」
「それを私は勘違いして…あなたにあんな酷いこと…!」
震えるような声を出し、今にも泣き出しそうな顔をするギンギツネ。
キタキツネは、静かに首を振って、口を開く。
「違うよギンギツネ。…ぼくが、いつもゲームばかりするから、バチが当たったんだ。はぐれたのもぼく。ギンギツネは、ぼくのために、頑張ってくれた。ギンギツネは悪くないよ」
「キタキツネ…」
ギンギツネの中で、罪悪感が増していく。
この子は、自分でちゃんと考え、行動出来る子なんだ。
いつもはだらだらしているかゲームをしているかだけど、ちゃんと自分の意見も持っている。
ほんの少しの勇気があれば、伝えられたんだ。
だから私に、伝えてくれた。
ほんの少しの勇気を出して。
それを私は、無下にしてしまった。
彼女の勇気を、踏みにじってしまった。
そう思うと、たまらなくて。
気が付いた時には、キタキツネの身体を抱きしめていた。
大粒の涙を流しながら、しっかりと。
「ごめんね…ごめんねっ……!」
「ううん…ぼくの方こそ、ごめん…」
キタキツネも、それに応えるように、ギンギツネに抱きつく。
すれ違っても、喧嘩しても、大丈夫。
勇気を出して、言葉を交わせば、きっと分かり合える。
お互いが、お互いを大切に想っているから。
一部始終を見ていたサーバル、トキ、ジェーンも、ほっとしたように、笑顔で顔を見合わせた。
ギンギツネとキタキツネの、長い1日が終わった。
──翌日。
トキに協力してもらって、昨日お世話になった人達をジャパリカフェに呼び出した。
そして、キタキツネ自らの手で、みんなにじゃぱりまんを配る。
パフィンも、一際喜んでいる。
賑やかなお茶会は、日が暮れるまで続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます