0047、0051、0129あふたー「キタキツネのゆうき」

「はぁ…ギンギツネ、どこにいるんだろ…」


「まぁまぁ、おかわり飲んで元気だしてぇ〜。きっと見つかるよぉ〜」




今から1時間ほど前のこと。

ギンギツネとこうざんに遊びに来ていたキタキツネは、ギンギツネとはぐれてしまった。



ギンギツネが他のフレンズと談笑し始めたので、ゴロゴロ出来る穴は無いかと周辺を歩き回った際に遠くへ行き過ぎ、元の場所へ戻る道がわからなくなってしまったのだ。

しかし、キタキツネはあくまで、ギンギツネの方が居なくなったのだと考えている。



そして、ギンギツネを探しつつ適当に足を進めていたところ、いつの間にか頂上にあるジャパリカフェに着いていたので、アルパカの勧めでお茶をご馳走になっているところである。



「探すのめんどくさい…。アルパカ、”せんりがん”とか置いてない…?」


「せんりがん…?は置いてないけど、お茶なら色んな種類があるよぉ〜」


「そっか…そうだよね…」



ギンギツネの「あなたそれゲームの話でしょ」「またわけわからないこと言って」というツッコミが無いことに寂しさを感じる。



「じゃあ、ぼく、行くから…。お茶、美味しかったよ。ありがとう」


「そう言ってもらえると嬉しいよぉ〜」



お茶の感想をもらえて上機嫌なアルパカは、そうだ、と店の扉に手をかけるキタキツネに声をかける。



「ギンギツネが来るまで、ここで待ってればいいんじゃないかなぁ〜?あたしが探して来てあげるから、その間お茶でも飲んで待ってればいいよぉ〜」


「え……ほんと…?」



キタキツネにとっては、これ以上ない申し出である。

カフェの外は、最高に寝心地が良い。

お茶も美味しい。

待っているだけでギンギツネが来てくれるなら、なんと素晴らしいことか。



「…ぼく、自分で探すよ」


「あらそぉ〜?じゃあ、また遊びに来てねぇ〜」



下を向き少しばかり考えるような素振りを見せていたキタキツネは、首を横に振ってアルパカの提案を断り、カフェを後にする。



「(これはぼくの受けた”くえすと”……それに)」



思考がゲームに寄りがちなキタキツネは、今回の件を『ギンギツネを見つける』というクエストだと解釈した。

ならば、自分の足で。


他にも思うところがあるようで、キタキツネは1人、自らの足でこうざんの道を下っていく。









それから更に1時間ほどして。

流石に疲れてきたのか、キタキツネは道中にあった岩にもたれかかり、休憩していた。



「ギンギツネ、はやく探してくれないかな……帰ってゲームしたいよ……」



今更ながら、カフェに留まっておけば良かったかな、と後悔し始める。

カフェまで引き返すにも、もう道を覚えていない。

こんな場所でも、ギンギツネならきっと見つけてくれる。

クエストをクリアするというキタキツネの心は、折れかけていた。



空を見上げながらどうしようか考えていると、カフェの帰りに偶然通りかかったサーバルが声をかけてきた。

どうやら、一緒にギンギツネを探してくれるらしい。



サーバルが向こうから音がしたから行ってみようと言うので、キタキツネもそれに賛同し、着いていく。


音がした先に居たのは…ギンギツネではなかった。



「サーバルさんにキタキツネさん!こんなとこで会うなんて偶然ですねー!」



辺り一帯に元気で明るい声が響く。



「パフィン!今日はおさんぽ?」


「はい!じゃぱりまんを探しつつおさんぽしてました。というわけで、サーバルさん達はじゃぱりまん持ってませんかー?」


「うーん、わたしは持ってないなー」


「ぼくも…持ってない」



サーバルの後ろに隠れるようにしながら、キタキツネも答える。

サーバルはともかく、パフィンとはほとんど話したことがなかったキタキツネは、人見知りが発動していた。



「そうですかー、残念でーす。じゃあパフィンちゃん、自分のを食べちゃいまーす!」


「「持ってるんだね…」」



2人が同時につっこむ。

すると、パフィンがじゃぱりまんを2つ取り出し、サーバル達に向けて差し出してきた。



「サーバルさんとキタキツネさんにもあげちゃいまーす!いっしょに食べましょー!」


「えっ、いいの?ありがとー!」



差し出されたじゃぱりまんの1つを受け取るサーバル。

しかし、キタキツネは受け取ろうとしなかった。

本当は欲しかったが、人見知り故にパフィンから受け取るという行動に移れない。

こんな時にギンギツネが居れば…。



「キタキツネさんは食べないんですかー?」


「ぼくは…いいよ。おなかへってないし…」



そう言うキタキツネのお腹がぐぅと鳴る。

あ…と声を漏らすキタキツネ。



「おなかがへっている時は、じゃぱりまんを食べるのが1番でーす。はい、どーぞ!」



パフィンがサーバルの後ろにいるキタキツネに再度じゃぱりまんを差し出す。

キタキツネは少しびくっとするも、サーバルの後ろから出てくる。

そして、恐る恐る手を伸ばし、無言でじゃぱりまんを受け取った。



「じゃあ、みんなで食べましょー!」


「いただきまーす!」



パフィンとサーバルはじゃぱりまんを頬張り始める。

キタキツネも、受け取ったじゃぱりまんを少し見つめたあと、一口かじる。



「……おいしい…」


「そうでしょー!パフィンちゃんとっておきのじゃぱりまんでーす!」



あれだけ歩き回った後だったために、いつもよりも格段に美味しく感じ、思わず声が出る。

そして、気が付くと手元にはじゃぱりまんの姿はなかった。

もう無くなっちゃったと、キタキツネは名残惜しそうな顔をする。



「みんなで食べるじゃぱりまんは美味しいねー。パフィン、ありがと!」


「いえいえー、パフィンちゃんも楽しかったでーす。じゃあ、パフィンちゃんはじゃぱりまん探しとおさんぽに戻りまーす!」



そう言って、よちよちと歩き出すパフィン。

そんなパフィンに、キタキツネが手を振って見送るサーバルの前に出て、パフィンに声をかける。



「…パフィンっ……ありがとう…」



精一杯の、勇気。

そんな勇気に応えるかのように、パフィンは振り返って満面の笑みを向けた。



「はい!キタキツネさんも、また一緒に食べましょー!」



手を振りながらそう言って、再び歩き出すパフィン。

キタキツネも、小さく笑みを浮かべながら見送った。












再びギンギツネの捜索に戻った2人は、山道をひたすら歩く。

本当はジャパリカフェに戻ることを考えていたサーバルだったが、パフィンの方へ向かった際、自分も道がわからなくなってしまった。



「ごめんね…パフィンに道聞けば良かったね」


「ううん、元はと言えばギンギツ……ぼくが悪いから」



いつものドジをやってしまったと申し訳なさそうに耳を垂らすサーバルを、キタキツネが宥める。


今まではぐれたのはギンギツネだからギンギツネが悪いと考えていたが、心の奥底では自分が悪いことはわかっていた。

それを、ここに来てようやく自覚していた。



ギンギツネはきっと心配している。

サーバルに迷惑をかけている。

アルパカが、パフィンが気遣ってくれた。



考えれば考えるほど、自分がどれだけダメなフレンズかわかってしまう。

次第にため息ばかり吐くようになったキタキツネに、サーバルが心配そうに声をかける。



「キタキツネ、大丈夫?また少し休憩する?」


「…ううん、大丈夫。ごめんね…」


「わたしはへーき!じゃぱりまんも食べたしね!」



明るい笑顔でキタキツネを元気づけようとするサーバル。

それを見たキタキツネは、ある決意が固まった。



「…ぼく、ギンギツネが見つかって、明日になったら…──」



キタキツネが言いかけた時、サーバルの耳がぴくっと反応し、後ろを振り返る。

キタキツネもそれにつられて、振り返ってみる。


こちらへ走ってくる、2つの影。

片方は走っているというより、飛んでいるようだ。

耳の良いサーバルは、その影の正体にいち早く気づいた。



「ギンギツネだ!」


「えっ…」



目を見開き驚いた表情をするキタキツネ。

影が段々と大きく、鮮明になっていく。

あぁ、あれは、あのシルエットは間違いなくギンギツネだ…



「キタキツネっ…!」



そう確信した時には、ギンギツネはキタキツネに飛びついていた。

涙ながらにキタキツネを抱きしめるギンギツネ。


それだけ、心配させちゃったんだ。

それだけ、心配してくれたんだ。



「飛んでたのはトキだったんだね!声が聞こえなかったからわからなかったよ」


「着いていくのに必死だったから…見つかって良かったわ」


「そうだねー!」



再会を果たした2人を微笑ましく見つめるサーバルとトキ。

これで一件落着だと、安心するように2人も笑いあった。





「ギンギツネ…苦しいよ…」


「あっ、ごめんね…でも、本当に無事で良かった…」



きつく抱きしめていた腕を離すギンギツネ。

その力からも、彼女がどれだけ心配していたかが窺える。


キタキツネは、先程サーバルに言いそびれた言葉を、ギンギツネに伝えることにした。




「ギンギツネ、ぼく早く帰りたい。早く帰って、じゃぱりまんを用意したい。明日、迷惑かけたみんなに謝りに行くんだ。じゃぱりまんを持って。みんなで一緒に食べたい。だから、早く帰ろう」



キタキツネが自ら決めた、決意。

きっと、ギンギツネの方も、色んなフレンズに協力を頼んだだろう。

現に、トキが一緒に居た。

それも含めての、キタキツネの想いだった。



──だが、ギンギツネの様子が何かおかしい。

両の拳を握りしめ、ぷるぷると震えている。

それはまるで…怒っているかのような。



「……ギンギツネ?」



一体どうしたのかと、不安な表情でギンギツネの名前を呼ぶ。

次にギンギツネから発せられた言葉は、ギンギツネの想像を遥かに超える怒声だった。



「あなたって子は…!私が…みんながどれだけ心配したかわからないの!?色んなフレンズに迷惑かけて!それでよくゲームがしたいだなんて言えるわね!!」


「えっ、ぼくは…」



困惑するキタキツネ。

何故自分は怒られている?


確かに、悪いのは自分だ。

自分からはぐれ、みんなに迷惑をかけた。

でも、ちゃんと謝りに行くと言ったのに。

たくさんたくさん考えて、ようやく決めたのに。

なんで、こんなに怒られているのか。

キタキツネは何が何だかわからず、困惑した表情を浮かべる。



サーバルとトキも、何故こうなっているのかわからないようで、不安そうに2人を見守っていた。



そして、ついにギンギツネは言ってしまう。



「そんなにゲームがしたいなら、1人で帰りなさい!」



自分は、ゲームのことなんて一言も言っていない。

きっとギンギツネの勘違いだ。

わかってる。わかってはいるが。

何故、ここまで言われなければならないのか。



「…ギンギツネのバカ!ぼく、ゲームなんてっ…!」



耐えきれなくなったキタキツネは、ギンギツネの横を通り抜け、こうざんの頂上へ向けて走り出していった。

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