0047あふたー「ほごしゃとして」
高くそびえ立つこうざんの周りを、歌いながら飛び続けている影。
「キタキツネ〜♪どこにいる〜の〜♪」
トキは、上空からキタキツネを探していた。
先刻、いつものように得意の歌を歌いながらこうざん上空を飛んでいたところ、ギンギツネに呼び止められた。
どうやら、キタキツネとはぐれてしまったらしい。
それを聞いたトキは、上空から探すことを買って出たのだ。
「いないわね…。カフェに行っている、ということはないかしら」
そう考えたトキは、早速こうざんの頂上にあるジャパリカフェを目指す。
もちろん、向かっている最中も周辺を見回しながら歌でキタキツネに呼びかける。
手掛かりの無いままジャパリカフェにやってきたトキは、カフェの経営者であるアルパカにも尋ねてみることにした。
「トキ〜、いらっしゃぁ〜い!今日は何飲むぅ?」
「ごめんなさい、今日はお茶を飲みに来たわけじゃないの」
「なぁんだ、そうなんだぁ…ぺっ!」
「ご、ごめんなさい。…キタキツネを探しているの、カフェに来なかった?」
「キタキツネ〜?それならさっきまでここでお茶を飲んでたよぉ〜。1時間くらい前かなぁ〜?」
「ほんと?どっちに行ったかわかるかしら?」
「えっとねぇ〜、ギンギツネを探すって言いながらあっちに降りていったよぉ〜」
「ありがとう。探してみるわ」
「次はお茶も飲んでってねぇ〜」
カフェを出て、キタキツネが向かったという方向へ飛び立つ。
捜索中、ショウジョウトキやクロトキにも会ったので、キタキツネを見なかったか聞いてみるが、こちらは手掛かりなし。
2人も空から周辺を探してくれるようなので、自分は地上に降りてギンギツネと合流することにした。
一方のギンギツネは、キタキツネの手掛かりを得られずにいた。
洞窟や洞穴が好きなキタキツネの性格を考慮して、道中に見つけた洞窟や穴もくまなく探したが、見つけられず。
時間が経つごとに、焦りも増していく。
いつもならすぐ見つかるのに、今日は全然見つからない。
彼女の身に何かあったのか。
私が目を離さなければ。
見つからなかったらどうしよう。
ギンギツネが不安な表情で顔を歪ませている中、前方にチベットスナギツネが歩いているのが確認できた。
「あっ、チベットスナギツネ!ちょっと待って!」
頭で考える前に、呼び止め、駆け出していた。
名前を呼ばれたチベットスナギツネは立ち止まり、ギンギツネの方を振り返る。
「…ギンギツネ。どうしたのですか、そんなに慌てて。あなたらしくないと思いますよ」
「キタキツネがいないの。いつもならすぐ出てくるのに、今日は全然見つからなくて…」
「キタキツネなら、さっき見かけたと思いますよ」
俯いていたギンギツネの顔が上がり、驚きと焦りが入り交じったような表情になる。
「ほんと!?どこで見たの!教えてちょうだい!」
「その前に、ちょっと落ち着くといいと思いますよ…」
「あっ……ごめんなさい」
両肩を掴み凄まじい剣幕で言い寄ってくるギンギツネを宥める。
ギンギツネの方も申し訳なさそうに謝り、改めてどこで見たのか聞いてみる。
「さっき、この先を行ったところで、サーバルと一緒に歩いているのを見たと思いますよ」
「サーバルと?…わかったわ。ありがとう、チベットスナギツネ」
いいんですよと応えるチベットスナギツネに別れを告げ、彼女が指をさしていた方向へ走り出す。
少しして、ギンギツネを見つけたトキが空から降りてきた。
トキにキタキツネの手掛かりを見つけたことを話すギンギツネ。
トキも、ジャパリカフェに寄っていたこと、他のフレンズ達が協力してくれていることを話した。
「あの子ったら…みんなに迷惑かけて…」
心配と申し訳なさが混じったような表情をするギンギツネ。
みんな気にしてないわ、とトキが言っていると、ギンギツネの耳がぴくっと反応する。
「キタキツネ…?いま、キタキツネの声がしたわ!」
「ほんと?私にはわからなかったわ」
「間違いないわ!あっちの方向にいる!」
そう言って、キタキツネの声が聞こえたという方向へ駆け出すギンギツネ。
彼女の声を聞き慣れているギンギツネにしかわからないような、ほんの微かな声だった。
トキも、低空飛行をしながら後ろを着いていく。
「キタキツネ…!キタキツネー!!」
必死に名前を呼び、走る。
遥か前方に、見慣れたシルエットが2つ、並んで立っているのが見えた。
サーバルと…キタキツネだ。
2人もギンギツネの声に気付いているのか、辺りをキョロキョロと見回している。
「キタキツネっ…!」
キタキツネの方もギンギツネに気付いたようだ。
ギンギツネがキタキツネに駆け寄り、その体をしっかりと抱きしめる。
キタキツネの隣にいたサーバルと、ギンギツネの後ろを着いてきていたトキも、良かった良かったと笑顔で2人を見つめている。
「ギンギツネ…苦しいよ…」
「あっ、ごめんね…でも、本当に無事で良かった…」
きつく抱きしめていた腕を離し、安堵の表情を浮かべるギンギツネ。
その目には、涙が浮かんでいた。
──キタキツネが次の言葉を口に出すまでは。
「ギンギツネ、ぼく早く帰りたい。早く帰って…──」
キタキツネが言い終わる前に、ギンギツネの頭は真っ白になった。
早く帰りたい?ゲームがしたいってこと?
私が、こんなに必死になって、探したのに。
心配で、不安で、たまらなかったのに。
この子は…この子は…!
色んなフレンズに迷惑をかけて、自分もあんなに心配して、探し続けて。
ようやく見つけて、安堵していたところに、これだ。
ギンギツネは怒りと悲しみの感情に支配され、最早キタキツネの声は入ってきていない。
「──…だから、早く帰ろう。……ギンギツネ?」
ギンギツネの表情がみるみるうちに怒りに染まっていくのがわかった。
そして、ギンギツネが口を開く。
「あなたって子は…!私が…みんながどれだけ心配したかわからないの!?」
突然の怒声に、キタキツネは困惑した表情を見せる。
迷惑をかけたのは自覚しているが、何故ここまで怒られているのかわかっていないという顔だ。
それを見て、ギンギツネは更に言葉を投げつける。
「色んなフレンズに迷惑かけて!それでよくゲームがしたいだなんて言えるわね!!」
「えっ、ぼくは…」
キタキツネが更に困惑した表情になる。
しかし、こうなったギンギツネは、もう止まらない。
サーバルとトキも、どうしていいかわからず、見守るしかなくなっていた。
「そんなにゲームがしたいなら、1人で帰りなさい!」
「…ギンギツネのバカ!ぼく、ゲームなんてっ…!」
大声を出して息を切らすギンギツネ。
そんなギンギツネの怒声を聞いたキタキツネは、涙目でギンギツネを睨みつける。
そして、横を通り抜けるようにして、こうざんの頂上へ向かって駆けて行った。
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