0078あふたー「ヒグマのおりょうりにゅうもん」②

2人に着いていくように外へ出た私は、図書館のすぐそばにあった…謎の場所に来ていた。

どうやら、りょうりをする場所らしい。

作る場所も決められているのか、りょうりは…えぷろんといい、火が必要なことといい、面倒だな。誰が考えたんだ。



その場所の机の上には木の板があって、その横には色とりどりのしょくざいが置いてある。

確か、”やさい”という名前だったか。

やさいが中に入っているじゃぱりまんもあると聞いたな。



ふと博士の方を見てみると、何やら難しい顔をしながら、助手と何かを話している。

”ほん”に書いてある、”もじ”を読んでいるようだ。



ほんやもじの読み書きという行為に関しては、前にロッジに寄った時にタイリクオオカミから色々と教わった。

あいつは頭もよければ、力もそれなりに強い。

ハンターにならないか誘ってみたが、”まんが”を書かなければいけないからと、断られてしまった。



しばらく眺めていると、博士はほんから顔を上げ、私に指示を出した。



「…ふむ。ではまず、ここにある食材を全てカットするのです」


「一口サイズに細かく切るのです」


「これを全部切ればいいんだな?」



私はやさいの1つを手に取って、2人に確認するように言いながら、普段はあまり出すことのない爪を出した。

…2人が少しびくっと体を震わせたように見えたが、気のせいか?



やさいを空中に放り投げ、浮いている間に何度も切り裂いてみる。

すると、やさいは細かくなりながら木の板の上に落下した。



「こんなもんでいいのか?」


「やりますね。上出来なのです」


「流石はハンターなのです」



褒められるのは少し照れるが、やっぱり嬉しいもんだな。

だんだんとやる気がでてきた。



その後、用意されていたやさいを全て切り終わった私に、博士が次の指示を出してきた。

私が切っている間も、博士たちはほんを覗きこんでいた。

これからの流れを確認していたようだな。



「では、その切った野菜を、この鍋の中に入れるのです」



博士が切ったやさいの隣に、大きな入れ物を置きながら言った。

なべ、というのか。

私は言われた通り、切ったやさいを全てその中へ入れる。

それを確認した博士が、立て続けに指示を出す。



「次は、その中に水を入れるのです」


「水はこっちにあるのです。それを持って着いてくるのです」



言われるがまま、私は切ったやさいの入ったなべを持ち、助手の案内で水の出る場所へ向かう。

その最中、ふと疑問に思っていたことを尋ねてみた。



「なぁ、助手」


「なんですか」


「博士と助手は、火が使えないから、私に料理をさせているんだよな?」


「そうですね。我々、火はどうも苦手なので」


「じゃあ、火を使うまでの作業は、博士たちがやってくれていても良かったんじゃないか?」



やさいを切っている時から思っていた。

私が火を使う作業以外をやる必要があるのか、と。

そんな私の言葉に、助手は淡々とこう返してきた。



「もし、この料理が美味くいったならば、お前にはこれからも料理を作ってもらうのです」


「はい?」


「なので、調理の過程を覚えてもらう必要があるのです。指示無しで作れるようになるのです」



私は思わず立ち止まり、持っていたなべを落としそうになるが、何とか持ちこたえた。

これからも作る?りょうりを?私が?

本当に何を考えているんだ…。

私はすぐさま反論した。



「いや待ってくれ、私にはハンターの仕事がある。パークの平和を守るため、日々見回りと特訓をしなきゃならないんだ。今日だって本当はこんなことしてる暇はない」



長たちの自分勝手っぷりに、私は少々腹を立て語気を強めて言ってやった。

すると、助手は立ち止まった私の方を向く。

動揺している様子や慌てている様子はない。



「もちろん、それは理解しているのです。お前達ハンターには、我々も感謝しているのです」


「それじゃあ──」


「なにも毎日作りに来いと言っているわけではないのです。ハンターとしての仕事を優先してもらって構いません。そこら辺は配慮してやるのです。この島の長なので」



…騙すように無理矢理連れてきておいて配慮も何も無いと思うが……何も言わないでおいた。

助手がここまで真剣に頼み込んでくるなんて、相当りょうりが食べたいのだろう。


一応、2人はこの島の長だ。

これ程の知識を有するために、今までどれだけの努力をしてきたのだろう。

そのことを思うと、少しくらいのわがままなら聞いてやってもいいか、と思ってしまう自分がいた。



「…悪かった。一応、ちゃんと考えてくれてるんだな」


「当たり前です。…今日は無理矢理連れてきてしまいましたが」



あぁ、一応気にしてはいたんだな。

それがわかっただけでも、私の心が落ち着いていくのを感じた。



「…私はセルリアンハンターとしての仕事がある。いつも暇なわけじゃない」



助手は黙って私を見つめ聞いている。

それにしても、相変わらず表情がほとんど変わらないな…。

私は言葉を続ける。



「でもまぁ…その、なんだ。どうしても暇な時は、私からここに出向いてやる。だから、今日みたいな無理矢理はこれっきりにしてくれ」



私は真剣な眼差しを向けた。

おそらく、こうざんではキンシコウとリカオンが私を探しているだろう。

早く料理を終わらせて、こうざんへ戻りたい。

きっと心配をかけている。

こんなことは、もう無いようにお願いしたい。



「……さっさと行きますよ」


それを聞いた助手は素っ気なくそれだけ言って、私に背を向けて再び水の出る場所へ向かって歩き出した。

私もそれに着いていく。





──助手が背を向けた瞬間、ほんの少しだけ、彼女の口元が緩んでいた気がした。

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