0078あふたー「ヒグマのおりょうりにゅうもん」①
「本当に私がりょうりを作るのか…?」
「そうです。そうと決まれば早速準備をするのです」
「さっさと始めるのです」
どうしてこんなことになっているんだ…。
昨日の昼間、私は特訓のため、こうざんを訪れた。
そこで偶然やってきていた助手と会ったんだが、何やら”りょうり”をするための材料を探しに来たらしい。
私は助手に「りょうりってなんなんだ?」と聞いてみた。
「気になるのなら教えてやるのです。料理というのは、食材を組み合わせ、加工し、違う形で味わえるようにしたものなのです」
理解が追いつかなかった。
要するにじゃぱりまんじゃないのか?
そう思ったから聞いてみたら。
「それ、じゃぱりまんとどう違うんだ?」
「全然違うのです。料理は見た目も味も食感も様々で、じゃぱりまんよりもすぐれているのです」
ちょっと強めに言われた。
なるほど、つまりじゃぱりまんよりも美味いのか。
少し気になるが、私は特訓をしなければならない。
「そうなのか。じゃあ、もしりょうりが完成したら、ご馳走してくれると嬉しいな。じゃあ、私は特訓に戻らせてもらう」
冗談半分でそう言って、その場を離れようとしたのだが、どうも助手が手を顎にやり、何かを考え込んでる様子だった。
不思議に思って助手を見つめていると、突然こんなことを聞いてきた。
「ヒグマ。お前は確か、火が得意でしたね?」
「火?得意って程でもないが…まぁ、他の奴らよりは平気だな」
「ふむ…。では、私はこれで」
何故そんなことを聞いてきたのか、その時はわからなかったが…。
飛び去っていく助手をしばらく見送った後、私は夜まで特訓に励んだ。
次の日の朝。
つまり今朝の事だが、こうざんの岩場で眠っていた私の元に、再び助手が現れた。
「起きるのです」
「ん…助手……なにかあったか?」
私はてっきり、セルリアンの出現報告だと思い、すぐさま起き上がる。
「とにかく、図書館に来るのです。私に掴まるのです」
「わかった」
助手の目は真剣そのものだった。
私は助手に連れられ、こうざんから飛び立ち図書館へ向かう。
急を要するのか、飛行速度も速い感じがした。
一体何が起きたんだ…助手に聞いてみる。
「何があったんだ?他のハンターにも連絡するか?」
「来ればわかるのです。他のハンターは呼ばなくても問題無いのです」
何が何だかわからなくなった。
私だけの力でなんとかなるなら、何故こうも急いでいるのか。
もう他のハンターも呼んである…?
いや、それはない。
何かあれば、私にも必ず連絡が入る。
今日はキンシコウとリカオンもこうざんで特訓予定で、既に近くまで来ていたはずだ。
私に何も言わずに図書館へ向かったとは考えられない。
じゃあ何だ…?
本人が来ればわかると言うのだから、行けばわかるのだろうが、私は気が気でないまま空の旅を続けた。
そして、ジャパリ図書館へ降り立つ。
図書館に入ると、待ってましたと言わんばかりに博士が出迎えてくれる。
「よく来たですヒグマ。急に呼んで申し訳ないのです」
「いや、いいんだ。それより、何があった?セルリアンか?それとも新手の敵か?」
「お前を今日ここに呼んだのは他でもないのです。これはヒグマ、お前にしか出来ないことなのです」
私にしか出来ないこと。
私にしか出来ないことなんて、相当限られてくるが…。
私は黙って博士の話を聞いていた。
そしたら、博士がこんなことを言い出したんだ。
「ヒグマ。お前に料理をしてほしいのです」
「なのです」
「はぁ…?」
私は言葉に詰まる。
何を言ってるんだ?この長たちは…。
「ヒグマは火が扱えることをすっかり忘れていたのです。我々としたことが、失念していたのです」
「昨日ヒグマと会えて良かったのです。おかげで思い出せたのです」
「ついに料理を食べられますね、助手。じゅるり」
「ようやくですね、博士。じゅるり。では、早速準備を──」
「まてまてまてまて!そもそも私はりょうりが何かも知らないし、やるとも言ってない!大体、りょうりと火に何の関係があるって言うんだ?」
勝手に話を進める2人に私は慌てて口を挟む。
セルリアンが現れたんじゃないかと焦っていた私は一体何だったんだ…急展開にも程があるぞ。
「料理については昨日教えた通りなのです」
「ほとんどの料理には火が必要不可欠なのです。そこでヒグマ、お前の出番なのです」
「火を扱えるお前が、我々に料理を振る舞うのです」
要するに、私にりょうりとやらを作らせるために呼んだと。
私の身体から力が抜けていくのを感じた。
「本当に私がりょうりを作るのか…?」
「そうです。そうと決まれば早速準備をするのです」
「さっさと始めるのです」
そう言って博士は図書館の中、助手は外へ向かい、りょうりの準備が始まった。
……こうして今に至るわけだ。
こうなったからには、恐らく作らないという選択肢はない。
あの2人からは私でも逃げられない。
いろんな意味で。
私は諦めたように溜息をつき、気持ちを切り替えるように、博士に話しかけてみる。
「…で、具体的に私は何をすればいいんだ?」
「そうですね、まずはこれを身に着けるのです」
博士が私の前に広げたのは、ピンク色をした…なんだこれ?
「私たちの毛皮が取り外せることは知ってますね?」
「あ、あぁ、前にゆきやまに行った時に、温泉でギンギツネが教えてくれたな」
どうやら私たちフレンズの毛皮は”ふく”という名前があり、取り外すことが可能みたいだ。
私はふくを取らずに温泉に入ったが、目の前でギンギツネとキタキツネが取っているのを見た時はびっくりした。
取った場所は、つるつるしているらしい。
それにしても、ギンギツネも良く気が付いたものだな。
いつどうして気付いたか聞いてみたが、『わからないけど、いつの間にか知っていたの』と返された。
キタキツネが”れあそうび”がどうとか言っていたが、私にはさっぱりだ。
それよりも、だ。
「それとこのピンク色のやつが、何か関係あるのか?」
「これも”ふく”の1つらしいのです。”えぷろん”と呼ばれているもので、これを身に着けて料理をするといい、と本に書いてあったのです」
「かえって動きづらそうだが…」
「私が着けてやるのです。本で方法は覚えました」
そう言って、博士は私に"えぷろん"を着けてくれる。
何だかんだ言って博識なのは事実だからちょっと悔しいな。
それにしてもこの格好…なんか…何か知らんが恥ずかしいな……。
色のせいか…?なんなんだこの気持ちは。
少なくとも、今の姿をキンシコウ達に見られたくはないな…。
自分の姿に困惑していると、料理の準備を終えたのか、助手が外から戻って来た。
「博士、こっちは準備出来ました」
「よしきたです。ヒグマ、お前は我々の言う通りに動けばいいのです。わかりましたね?」
「はぁ…」
私は大きく溜息をつきながらも、長たちの後ろに続いた。
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