0155あふたー「このしまのおさとして」
困ったことになったのです…。
料理に必要な食材を探しにさばんなちほーまで自ら出向いたのが、そもそもの間違いだったのです。
私としたことが、判断を誤ってしまったのです。
食材探しの道中、さばんなちほーの地図が描かれている看板の前で佇むフェネックに、興味本位で話しかけてしまったのも間違いだったのです。
賢くないことをしてしまいました。
彼女は看板の意味がなんとなくわかるらしいのです。
これには本当に驚きました。
我々島の長以外にも、それなりに賢いフレンズはいるようです。
我々には敵いませんが。
それよりも、問題はその後なのです。
博士は看板の意味がわかるのか、と問われたので、島の長として当たり前だと答えてしまったのです。
「じゃあ、この絵ってどういう意味なのかなー?」
と、看板の端、じゃんぐるちほーとの境目付近と思われる場所に書いてある絵を指差して聞いてきたのです。
「(なんなのですかこの絵は…見たことがないのです)」
悔しいことに、その絵が何んなのかは長である私にもわかりませんでした。
つまり助手にも、他のフレンズにもわからないということです。
しかし、わからないなどと言えるはずもなかったのです。
この島の長なので。
「これは…秘密の場所なのです。昔、パークに住んでいた何者かが造った謎の施設なのです」
その場凌ぎの嘘をついてしまいました。
屈辱です…長として反省しなければなりません。
そもそも絵の描いてある場所は、私も上空から見たことが何度かありますが、何かが建てられている様子はなかったのです。
ここで納得してくれればよかったのですが、あろう事かフェネックはこの話に食い付いてきたのです。
「そうなんだー。…博士、暇だからそこまで案内してよー」
なんてことを言うのですか。
私はすぐさま返します。
「ダメなのです。ここは秘密の場所なので、絶対に秘密なのです。今現在、この島の長以外が知る事は許されないのです」
「じゃあ、なんで看板に描いてあるのかなー?秘密になってないよねー?」
「そ、それは…」
痛いところを突かれました。
こいつ、やはり他のフレンズと違ってそこそこに賢いのです。
「…この島の長である私と助手以外には絶対わからないので、問題はないのです。これは忘れないようにするための目印のようなものなのです」
「ふーん、そっかー…」
どうやら納得してくれたようですね、危なかったのです。
食材探しは後回しにして、ここはその目印の場所へ行ってみることにしますか。
我々は賢くなければならないので。
「では、私は料理に使う食材を探しているので」
「じゃーねー博士。私は今から秘密の場所に行ってみるよー」
…今なんと言ったのですか。
それは非常に困るのです。何があるのか私が先に見に行く予定なのです。
向こうで探索中に鉢合わせでもしたら、言い逃れは出来ないのです。
それに、もし何も無かったら、次に会う時に面倒なことになるです。
「ダメなのです。あれは我々島の長にしか立ち入りを許されない場所。お前達が行っていい場所じゃないのです」
「んー、でも、ここってじゃんぐるちほーに行く時に通るよね?見たことあるフレンズもいるんじゃないかなー。でも、そんな話聞いたことないねー」
「…お前はそこそこ賢いですがしつこいのです。秘密は秘密なのです。行ってはいけないのです」
「…もしかして、本当はわからないから、適当に嘘をついただけ、とかー?」
なんなのですか、この鋭さは。
しかし、ここで意地を張ってしまったのが最後の過ちでした。
「そそ、そんなわけないのです!そこまで言うなら、特別に案内してやるです!」
言い終わった瞬間に、やってしまったと思いました。
フェネックがニヤニヤと笑みを浮かべているです…。
こうなったら、本当に謎の施設があることを期待して、案内する他ないのです。
──そして、現在に至るのです。
我々は今、看板に描かれていた謎の絵の場所へ向かって歩いているのです。
もうすぐゲートが見えてくる頃でしょうか。
困ったことになったのです…。
もし何も無かったりしたら、島の長としての威厳が…。
博士の一大事に、助手は一体何をしているのですか!
……図書館で留守番と料理の準備を頼んでいたのです。
「…そろそろ着くのです」
着いてしまうのです…。
自然を装いながらも、どうしようかと頭の中で悩みながら歩いていると、我々の前に小さな小屋が見えてきました。
本当に何かありました…木の枝や葉に隠れて、上空からは見えなかったようです。
「おー、本当にあったねー」
「当然なのです。長が嘘をつくはずないのですよ」
内心、かなり安堵していました。
これで長としての威厳が保てると。
油断していたのです…。
「で、この小屋はなんなのかなー?」
何も考えてなかったのです。
ここまで来て、今更秘密を貫き通すのは難しいのです。
何か…何かないのですか…!
勘づかれないように辺りを見回してみると、すぐ近くに細長い看板のような物があったのです。
どうやら"文字"が書いてあるようですね。
『ジャパ バス じゃ ぐ ほー前 留所』
ところどころ掠れていて読めないのです…。
看板の前で頭を捻らせていると、フェネックが後ろから声をかけてきました。
しまった、返答に間を置きすぎてしまいました。
「博士ー、本当は絵について何もわからなかったんだよねー?」
「な、何を言っているのですか!全てわかっているのです!この島の長なので!」
「…私は、わからないことがあってもいいと思うけどなー」
またしつこく詰問してくると思っていたので、不意を突かれました。
「何を言いたいのです?」
「何でも知ってるのはつまんないと思うんだよねー。何でも知ってたら、アライさんと一緒にお宝を追いかける事もなかっただろうし、こうして博士と歩くこともなかっただろうからねー」
「わからないことがあるから、楽しいこともたくさんあるって私は思うなー。私は博士とさばんなを散歩できて楽しかったよー」
「──私は、この島の長として、何でも知っておかなければならないのです。そのために、これまでもたくさんの苦労をしてきました」
「たくさんの本を読み、文字を覚え、それでも…まだまだわからないことだらけなのです」
勝手に言葉が出ていました。
私は、我々は、長としてまだまだ未熟。
今でも読めない文字は多く、パークについても謎だらけです。
それでも毎日を楽しいと思うのは、わからないことを知っていけるから…確かにそうなのかもしれません。
「…嘘をつくなど、長としてあるまじき行為でしたね。謝るのです」
「気にしてないよー、最初からわかってたしねー。こっちこそ、しつこくしてごめんねー」
やはり、このフレンズは賢いのです。
いや、もしかすると、フレンズという存在は私の思っている以上に賢いのかもしれません。
「…じゃあ、この小屋の中、見てみよっかー?」
「仕方ないですね、付き合ってやるです。我々は賢くなければならないので」
……我々には敵いませんが。
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