或る『協会』の証言
【前書き】
前言ってたエピソード分割のあれそれです
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――私が言えることはこんな感じかな。「大罪」は君でー、「機関」には気をつけた方が良くてー、「協会」は色々あるってこと。異世界に来たからって言って私は酷いことはしないけど、でも全員がそうとは限らないから……そこは頑張ってってことで。
本当だよ、私は君がこの場を荒らさなければ何もしないもん。ここよく死ぬ人いっぱいいるから、君みたいな亡命する人がここに来やすくてね。君も目的があってここに逃げてきた訳だから、何も私目当てじゃない。じゃあ一々相手するのも君は面倒かなあって思う、私はね。
だからそうだね……ようこそ、だ! こことってもいいところだから! 私は美味しい物好きだから中華街とかおすすめだよ! 高いけど! あとね、近くに水族館とかあるし、色々ここ楽しいから、辛い時に観光したいなーって思ったらおすすめ! 私がおすすめしたいのは直近でそのくらいで……
……君、もしかしてもう人間じゃない?
人間じゃない、というのはちょっと誤りか。人の体はしていて、ちゃんと臓器の香りもする……だから、同化、一体化、結合みたいな感じかな。構成要素もね、聞いたことない香りでも分かるかな。少なくとも、薬の為に使ってない、無理はしていないけど……でももう、長くないのか。そっか。君はお気に入りで使ってないんだ。
――お前は、これが良さそうだと?
私は好きだよ、お薬。
だって嫌なこと全部忘れちゃうし、感じなくなっちゃうからさ。難しいこと考えなくて良いんだよ。なんで空が青いのかとか、どうして酷い言葉を言ってくるかとか、そういう悩み事なんてないし……私はその瞬間だけが、人間の極楽なんじゃないかなって思うけどね。
その瞬間、それだけ。人間という知性を破壊して、知能を暈して、快楽だけに浸れる時だけ。大体皆楽になって幸せになりたくてやってる、そして皆幸せになってるからね。
薬は良いよ、死すらも麻痺する。死は黒ではなく白で覆われて、生は血の赤よりも生殖の桃を。阿片も良かったよ、痺れ上がるほどに甘くて眠たくなる。意識が朦朧として、そして誰かが分からなくなって……でもそれが良いんだ。抱きしめる恋人が猫の死骸であれ、蛆に愛を囁いても皆は良いと言うさ。本当なんか分かりやしないし、私達の本物は「幸福」だって約束されてる。
ずっと、ずーっと続くし……私は私含めた皆が、薬で幸せになれば良いのにって思う。皆辛いことを背負って、傷付くから私はそんな姿は辛い。でもそれが貴方の幸せなら私は否定とか、そういうことはしないけど、でも辛い時は私がいるからさ。辛い時は私が薬をあげる、なんでも、どのくらいにもさ。
私は、神様とは、まあそう指定されてるけど、結構人間の考えもあってね。私の為に傷付く人は見たくない、それなら幸せになってほしいんだ。
――俺はお前が嫌いだ
その挙動は私もそう推測したよ。
嫌われちゃうのも悲しいけど……でも、君は自分の幸せの為に進んで、その幸せの為に私を嫌うんだ。それは素晴らしいことに変わりないし、私はやだって言わないよ。
……私はね、色んな人の幸せを願ってる。君、ここに来たのは戦うためじゃないよね? それよりももっとこう、けじめを付けるというか、復讐とは違うというか……好きな人がいるのかな? それでその人の姿を探すためにここに来て……殺意感じたからここまでね、でもやりたいことはちょっと分かるよ。
でもそうだったら、私は尚更邪魔はしない。ここの場所で何か始めるなら、まあちょっと相談すれば聞いちゃうかも。
――ヤク中なのに場所を守るのか?
だってここ……こういうの言っちゃって良いかな……ごめん恥ずかしいや、内緒。でも好きな人がここに居たから、私はあの人のためにここを守りたい。
一応『協会』と名乗ってる以上もう少し格好良いことは言うけど、まあそんな感じ。ここ、すっごくいい場所だからさ。私はここをずっと守りたいし、君がそれを許さないと言うなら……まあ、そういうのは辞さないよねって。『協会』って言っても沢山いて、色々理由があるから違うけど、少なくとも私は君を歓迎したい。
歓迎したいし、好きな子の為なら応援したい。ちょっと私は立場上出しゃばり辛いし、君の為にお金と兵隊を、とかは出来ない。だからせめて初めての君の為に情報はあげたい。
そうだね、薬に精通しているなら、イルディアドの子は駐在しているし、聞くには良いかも。私は直接関わったら駄目なんだけど、とっても良い人だからおすすめ。あとお得意先とかは……数えきれないからちょっと近場の人だけ教えよ。こういうの調べようがないくらい、閉じた環境が多くてさ。何をやるかは君次第だけど、分からないまま探すのも辛いでしょ?
――人を殺してもか?
君はそうしたことも知っている、だけどここにいる、私はそれを称賛する。
だとしたら私は君を助けたい。君を苦しませたくないから、君には幸せになってもらいたいし、私は全力で後押ししたい。これは私が神様だからの役割ってよりも……私は生きててそう思ったからやっていること。本当は薬ほど楽なものはないけど、それは私の思うこと。私が素敵だなって思うのは君が幸せになることだから。
――なあ
なあに?
――アンタは俺を見て言っているか?
……分からないや。だって私君の顔分からないもん、あの子じゃないのは声でやっとわかる。君が首都機関ではないことも知ってる、君は私を苦しませないから。君は、それでも私の話を聞いてくれるから。君は悪い人じゃないんだろうな、って思う。
だから君は……恐らく、人間だろう。君の体はそこから掛け離れていても、君は何度も手に掛けても。君はいっぱい辛い経験をした、沢山の辛いことを目にしても、まだ生きてる。それで助けない人はいるわけないんだよ。
――偽善者が
そうかも、君の思う幸せが正解であるなら、君のそれもまた正解だと思う。
だからかも、私はよくお節介だって言われてる。他人の言うことを口出してるつもりじゃなくて、私は応援したいけど邪魔するなってさ。そんなことしてるつもりないけど、でも彼らがそう思うならそれも正解なんだろうね。でも私はやめない……ああこれ、怒られちゃうかな。まいっか。
ただ、少し助言をするなら、君が探している子は、複雑になっているかもしれない。状況がね。それこそ君が無理に助けようとすると、機関っていう別の集まりから足元を掬おうとする。そうしてどんどんどんどん助けられなくなるかもしれないから、そこだけが懸念かな。協会って人見知りが多くてね、無理に引出しちゃうととても騒いじゃう人多いから。
――なら、お前とその信者を手に掛けるのは
『お勧めはしないね』
『言ったじゃないか、僕はここを守ると』
『死ぬ気で奪うなら僕も敬意を以て、相応にね』
……なんて、まああんまりよく思わない人もいるよねってことで覚えてくれたら嬉しい!
私から言いたいのはここまでだし、お駄賃あげる! 始発のバスはこの町から出てすぐにあるし、ここから300円ちょっとで大きな駅にも着けるから!
それじゃ頑張ってね旅人君!君の暗澹晴れんことを!もしも晴れた日に何もなくて悲しい時は私を頼ってね!
――二度と来るか
まあまあ、待ってるって。何たって夜は長くて深いから。その底を照らすくらいは、用意出来る。進まなくて良い選択肢は私が用意する、これが良いんだって、諦めたい時にはおいでよ。
それを幸と呼ぶか辛と呼ぶかは――まあ僕じゃなくて君の決めることだ。君の幸せは君しか知らない、何にせよそういうことだから君の振る舞いを見守るね。
それじゃ、ようこそ素晴らしい君の今日。そして君の明日を祈るよ。
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